未来を賭けて #3
(えっ……? M45に蹴られてなかったら、あたしも巻き込まれてた……? ルキ、あたしがいるのに攻撃したの……? でも、この試合、ルキの闘技場改革を成功させるのが目的……。そのためには、最終的に勝つのはルキじゃなきゃだめだよね。ルキとあたしが残れば、あたしは負けなくちゃ。だったらM45は強いんだから、チャンスがあるなら、あたしごとでも倒すのが良い方法だよね……。あたしの役目は、それなんだ。だから……問題な――)
「大切なパートナー、か」
莉愛のそんな考えを、金属的な合成音声の呟きが遮った。金色の光の残滓から鈍色の影が飛び出し、ルキに向かって一直線に突っ込み飛び膝蹴りを喰らわせる。そして怯むルキにさらに追撃、とばかりに跳び後ろ回し蹴りを放つ。ルキの細い体が思い切りアリーナに叩きつけられた。
「おおっと、殺戮機械M45、ギリギリでルキのゴールデンクロスを凌いでいた! ここから反撃開始かっ⁉」
実況の声をかき消すほどに、観客席から金切り声が上がる。その後にM45に対する怨嗟の声が続いた。更にルキを守れないアキリアへの罵りまで上がっていた。
「ふん、あの一撃で倒せなかったのは確かに誤算だよ。でもねえ、強がってるけど君のゲージも残り僅かじゃないか。君の攻撃はもう分かったよ。これからはもう、喰らわない」
ルキはやはり余裕の表情で起き上がる。ルキにしてみても、メロディアの大技やM45の攻撃を受けてゲージは残り僅かだった。だが、彼は自分が負けるなどとは微塵も思っていないようだった。現に、更に追撃を掛けてきたM45の攻撃を防いでいた。一方でM45の方も、ルキが行う反撃をギリギリで避け続けていた。
(凄い……強いな……。でもM45も、それにメロディアも、ルキが勝ったら追放されちゃうんだよね。こんなにお客さんを沸かせる試合をする人たちなのに。ルキが作る舞台が、ほんとにあたしが望んでたもの、なのかな?)
「アキリア、何をしている! 僕を援護しろ! 二人でこいつを倒すんだ! 君を馬鹿にしたこの男に、制裁を加えてやろうじゃないか!」
焦りと苛立ちの入り混じったルキの声が、再び莉愛を戦いの場に引き戻した。莉愛は急いで言われた通りにしようと走り出した。だが、ふとその瞳に、すっかり存在を忘れていた円盤が映りこむ。
(あ……今なら、ジャンプ台の近くに人もいない。M45とルキは動けない。今ジャンプ台から飛べば、ちょうど手が届く気がする。やっぱり、あたしだって勝ちたい。ちゃんと戦って、それで勝ちたい。ルキを勝たせたらきっと……もう二人と戦うことも出来ないし、あたしはこの先ずっと、ルキの言う通りに……ルキが望むようにするしかないんだと思う。そんなの、やっぱり嫌だ!)
そう思ったら、ジャンプ台を目指して走っていた。ルキ達の横を素通りし、ジャンプ台を使い大きく飛び上がり手を伸ばす。
(取った! でも……おかしいな。体が、動かない。このままじゃ……!)
なんとか円盤を手にした莉愛だったが、空中で身体の制御を失った。彼女は立て直そうともがくが、体を上手く動かすことができなかった。アシスト機能が失われたらしい。
このまま落ちれば、彼女は頭から地面に叩きつけられることだろう。通常ならばスーツが衝撃を吸収するはずだが、基本たるアシスト機能が失われている今のスーツに十分な保護性能が残されているかは疑わしい。ルールから行けば、取った時点で勝ちのはずだが、落ちた後、立ち上がれなければそれも何にもならないかもしれなかった。
「莉愛⁉」
だが、莉愛が地面に叩きつけられることはなかった。力強い腕が、彼女の身体を受け止め、地面すれすれで落下を止めた。莉愛が恐る恐る目を開けると、M45の顔があった。彼はそのまま、莉愛を地面に下ろし、立ち上がらせた。おかげで何とか、莉愛も立っている事はできた。
「おっと、M45の妨害も間に合わず、ついに円盤はアキリアの手に‼ これはまさかの展開! 大番狂わせだ!」
静まりかえる会場に、興奮した実況の声が試合の結末を告げた。続いてアキリアの勝利を告げるアナウンスが流れる。
だがそれを聞いても、観客の歓声が会場を埋め尽くしても、莉愛は自分の勝利を実感できなかった。駆けよってきた主催者のアンが何か言っているようだったが、それも殆ど聞き取れなかった。
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