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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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運営からの呼び出し #2

「ふぅん……会長もいるってことは、本気なんだね。それで、この二人が僕の対戦相手? まとめて倒せばいいのかな?」


 ルキはソファにどっかりと腰を下し、ゆるく足を組みながら、ぐるりと参加者たちを一瞥する。アンはルキの尊大な態度に、呆れたようにフンと鼻を鳴らした。


「全く違うわ。手間が掛かるから、黙って説明を聞いて頂戴。学校で習わなかったかしら。ああ、貴方なら通っていなかったかもしれないし、誰も教えられなかったのかもしれないわね。とにかく、ルールはこうよ」


 アンがガラスの応接机の端にあるボタンを押すと、机いっぱいにふわりと闘技場の立体画像が浮かび上がった。闘技場には、四人の人影と、その上を飛び回る円盤が映っていた。


「闘技場内に円盤を飛ばすわ。因みに実体じゃなくて、ヴァーチャルよ。ここにいる四人でそれを取り合うの。取った人の勝ちよ。勝者には、闘技場の支配人の座をあげるわ。円盤が飛ぶ高さは、普通のジャンプでは届かない位置よ。設置されたジャンプ台を上手く使ってね。円盤を攻撃して落としたり、ジャンプ台を使わずに取ったりするのは反則よ」


 アンは立体映像を指差して説明した。


「四人って、じゃああたしも――」

「なぁんだ……結局、邪魔者をみんな倒して円盤を取ればいいんじゃないか。僕の言ったのと変わらないね。わざわざ要らないルールを付け足すこともないのに。まあ、凡人は何でも複雑にしたがるものだからね。そっちの方が美しいと思っているんだね、可哀想に」


 アンの言ったルールに驚く莉愛はそっちのけに、ルキがクスリと笑った。


「そう、四人よ。タッグではなくて、四人なの。円盤を取った一人だけが勝者よ」


 そのルキは無視して、アンが莉愛の方に身を乗り出し、じっと彼女の目を覗き込んだ。莉愛がどぎまぎしているうちに、


「わたくし、闘技場の支配人の座なんて興味ありませんわ。要するに、アン社長とそちらの……ルキさん、でしたかしら? そのお二人の争いでしょう?」


 つんけんした態度でドリーミィメロディアこと音夢が言った。いい迷惑だ、と言わんばかりの冷めた眼差しだった。


「そうね。ワタシだって頼みたくはないけど、アナタが強いから仕方ないの。まあでもルキが勝ってここを獲ったら、アナタ追い出されるわよ? 折角見つけたアナタの活躍の場、失いたくないでしょ? それに、アナタのお父様にも影響があるんじゃないかしら?」


 アンもツンと、大きな胸を張って答えた。そのアンに、音夢はほんの少し眉根を寄せた。アンはそれには構わず、クイと昴に顎を向ける。


「アナタもよ、学生さん。ルキが勝てば、闘技場のスーツの供給元は菰田テクニカ一択になるわ。滝田教授との共同研究も終わりね。アナタが負ければ来年度の研究予算はゼロかしら」


「ちょっ……そんな横暴な!」


「なら勝ちなさいよ」


 もはや何を言っても無駄なことが明白なアンの態度に昴は大きくため息をついた。


「じゃ、試合は来週の日曜日、昼の部の最終試合よ。何にしても、盛り上がる試合を期待しているわ」


 それだけ言うとアンは席を立ち、執務机に向かう。他の者達も席を立とうとしたところで、ルキが昴の方を見て口を開いた。


「ところで、ドリーミィメロディアは分かるとして、君は誰なの? まあ、誰だって倒すだけだからいいけどね!」


「……じゃあ聞くなよ」


「殺戮機械M45だよ。現、最強の」


 小声でぼそっと呟かれた昴のツッコミは莉愛の固い声にかき消された。


「ああ、僕のアキリアにヒドイことを言ったのは君なのか。中二病サイボーグごときが、輝くアイドルを馬鹿にするなんてね!」


「僕のアキリア……?」


 昴はルキを睨みつけた。


「そうだよ。彼女は僕の大切なパートナーだ。……何だい、怖い顔して。そうか……ねえ、君たち、知り合いなのかい? そうだよね、何もなくアキリアなんかがSクラスの闘士に目を付けられるわけないものね。で、どういう関係なのかな?」


「ただの幼馴染だ」


 昴はぶっきらぼうにそれだけ答えた。


「ふぅん……。あ、そうだ! 折角だから僕らも賭けをしようよ。もし君が勝ったら、僕は彼女の事、すっぱり諦めてあげる。だから、僕が勝ったら君もそうしてよ」


 ルキはニコニコといたずらっ子のような笑顔を作って昴を見上げた。


(えっ、ルキ⁉ 昴もめっちゃ睨んでるし! これってまさかあたしを賭けてルキと昴が戦う的な感じ⁉)


 火花を散らす二人をそわそわと見比べる莉愛だったが、しかし彼女が密かに憧れていた展開にはならなかった。はっ、と冷ややかに笑って、昴は肩をすくめる。


「莉愛があんたについていくと言ったんだろう? だったら俺がどうこう言う事じゃない。大体自分の所有物でないものを賭けるなんぞ、俺はしない。破滅したくはないからな。それと……負けたら莉愛を諦める? そりゃあそうだよな。負ければ目的の闘技場の支配権は手に入らない。そうなれば――」


 最初はニヤニヤしているだけだったルキが、次第に腹を抱え、昴の声をかき消す程大きな笑い声を立てたので、昴は途中で話を止めざるを得なかった。


「やーだやだ。凡人はこれだから! 僕が負けることなんてあり得ないよ。だから、諦めることもない」


 ルキはひとしきり笑った後、目じりを指で拭いながら小ばかにしたように言った。


(やっぱり……昴はあたしの事なんてどうでもいいんだ。あたしがルキと行こうが、自分の敵になろうが、そんなのどうでもいいって思ってるんだ。ちょっとくらい――)


「俺がどうこう言うことじゃないが――」


 俯きかけた莉愛に、昴がそう前置きして話し始める。


「少しは先を考えたらどうだ? そいつにくっついて人気になって、それでどうなる? それで良いのか? 大体おかしいと思わないのか? お前なんかに――」


「そんなこと言われなくても分かってる。それでも、ルキはあたしを引き上げてくれた。昴はあたしを見下しただけ」


 莉愛は昴を睨みつけ、ぴしゃりと返した。


「そうだな。お前のことはお前が決めればいい。俺はそいつの闘技場改革なんて御免だ。試合では、倒させてもらう」


 昴はひどく冷たく鋭い目をして、低く静かにそう告げると踵を返した。


「昴さん、待って」


 音夢が慌てて彼の後を追う。


「ルキ、絶対勝とうね」


 莉愛がゆっくりと振り返り、こわばった表情で抑揚なく自分のパートナーに言った。


「ああ、もちろんだよ。実は彼の事を聞いて……もしかしたら君が、戦うのは嫌だって言うかもしれない……もしかしたら、彼につくかもしれないって、そう思ってしまったんだ。だからそう言ってくれて、とても嬉しいよ。それとごめんね、君を疑ったりして」


 ルキが端正な笑みを浮かべて莉愛の頬を優しく撫でた。莉愛はただぼんやりと、虚ろにそれを眺めていた。

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