運営からの呼び出し #1
それからも莉愛とルキの二人は多くの試合に参加し、勝利と人気を積み重ねていった。
ルキと組むようになって、莉愛の周りも随分変わった。ルキ配下の闘士たちも随分増え、彼らはルキのパートナーである莉愛をルキ同様に崇めてくれた。莉愛のファンも随分増え、彼女の試合を必ず見に来る一団もできた。今までとは全てが違った。
「おめでとう、アキリア。これで目標のSクラスだね」
今日もまた試合で勝利を収めラウンジに戻った莉愛に、ルキがパチパチと手を叩いて近づいてきた。だが、その目は笑っていなかった。
「でもやっぱりまだ、時間を掛け過ぎだよ。僕ら以外の美しくない奴なんて、一瞬で葬ってやらなくちゃ。僕らの持つ圧倒的な力を見せつければいいだけだよ。何を躊躇うんだ?」
「うん……そうだよね。前よりずっと、身体は軽く動くんだけど、何かちょっと……わかんないけど、気持ちの問題かな。もっと頑張らなきゃね」
苦言を呈するルキに、莉愛は申し訳なさそうに答えた。体は良く動くし、試合にも勝てる。観客の応援も大きい。だが、何かが今までと違った。
「それはそうと、ルキの今日の試合、凄かったね! あっという間に倒しちゃって。ルキももうSクラスでしょ、試合時間だったら間違いなく最短記録じゃない?」
莉愛は笑みを浮かべ、弾んだ声でルキに言った。出れば観客の動員が見込めることもあり、ルキの試合は莉愛よりもずっと多く組まれていた。そして試合の度に相手を瞬殺していき、歴代最短でSクラスになっていた。
「当然だよ。ここの奴らのレベルが低いだけさ。僕の力をもってすればあっという間だよ」
莉愛が褒めても、ルキは何ら表情を変えず、あっさりとそう言うだけだった。莉愛はその言葉に、愛想笑いを浮かべることしかできなかった。
「さあ、戻ろう。予定よりも早く目標を達成したことだし、明日は少し休もうか」
莉愛は無言で小さくうなずき、大人しく帰路に就いた。
「うああああ……体が痛い。すっごく痛い。ここ最近試合続きだったからかな。ガンバり過ぎちゃったのかも。でもこれで、ひとまず目標のSクラスに上がれたしね! 今日は試合もないし、練習もお休み。一旦起きるとしても、とにかくゆっくりしよう。とにかく朝風呂――もう昼かもだけど――入って、あとマッサージもお願いしちゃおう!」
Sクラスに上がった翌日、おはようと言うには遅い時間にようやく目を覚ました莉愛は、ベッドの上で痛む身体を伸ばしながら呟いた。
「そういえばルキの言う計画って、何なのかな? まずはSクラスになること、って話だったけど。そのうち教えてくれるかな……?」
莉愛がのろのろと身支度を始めながら、そんな事を考えだしたその時電話が鳴った。ルキからの着信だった。莉愛は手を止め、慌てて電話に出る。
「え? 今から闘技場に行く? アン社長の呼び出し? 分かった。ええと……すぐ支度するから、ちょっと待ってて」
ルキがすぐに来い、と言ったらすぐであった。化粧の質は下がるが仕方ない、と莉愛は超スピードで身なりを整え、部屋を飛び出した。
闘技場を見下ろすこの社長室に来るのは、闘士になる契約をした時以来だった。大きなガラス製の応接机の周りにはもう既に人が集まっていた。どうやら残りは莉愛とルキだけのようだ。集められているのは見知った顔ばかりだったが、それが意味するところは莉愛には分からなかった。莉愛がその困惑を言葉にするより先にルキが口を開く。
「やあ、アン社長。僕の提案、ようやく考えてくれたのかな? 全く、凡人は決断が遅くてイヤになるね」
彼は応接セットの一人用ソファに脚線美を見せつけるように腰掛けるアンに、相変わらずの冷ややかな笑顔を送った。
「もちろんよ。あなたたちが来たから、ようやく話せるわね。そんなに早く話を進めたいのならサッサと席について頂けるかしら、菰田のお坊ちゃま」
ルキはその呼び方がいたく気に入らなかったようだ。恐ろしい目でアンを睨みつけた。だがそれも一瞬のことだ。アンは勝ち誇ったような笑みをこちらも瞬間的に浮かべたが、他は気付いた様子もなかった。莉愛は、と言えばやはり気になる他の参加者たちの方を見ていた。
アンの向かいの一人掛けのソファには初老の紳士、その左の二人掛けのソファには黒髪の清楚な美人と体格のいい、目つきの悪い若い男。莉愛は思わず声を漏らしそうになるが、全員の黙って席につけという視線に、慌てて息を飲み込んだ。
(哲さんと、メロディアと、昴……M45。何なのこれ、どういうこと? でも……今は話を聞くしかないか)
莉愛は怪訝な顔のまま、二人の向かいのソファに腰掛ける。
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