復帰第一戦
ルキと組んでから初めての対戦相手となった宇宙忍者ヴァルカンは、メタリックな素材でできた和風の軽鎧に忍び頭巾、手には鉤爪を付けた、名前通りに近未来の忍者風のいで立ちの男性闘士だった。
「ぬうっ⁉ アキリアたん、くノ一ではござらんのか? 折角忍者同士、雌雄を決する所存であったのに……。まあゴスロリもそれはそれで……デュフフフ」
だが、体形は忍者らしからぬ小太りで、口調も忍者というよりステレオタイプのオタクである。その男が、頭巾の隙間から舐めまわすような視線を莉愛に注ぐ。頭巾に隠されて見えないが、口元はさぞかし緩んだだらしない笑みを浮かべているであろうことは容易に想像がついた。男の視線に莉愛の全身が粟立ち、口からは「ひっ」と情けない悲鳴が漏れる。
「いきなり変な精神攻撃仕掛けてくるなっ! ニンジャならニンジャらしくひっそり忍んでろ! ってか全国のニンジャに謝れ! とにかく、叩きのめす!」
莉愛は何とか気持ちを奮い立たせ、思うままに怒りをぶつけた。試合前のパフォーマンスとしては最悪の出来だが、それでも会場からは莉愛を支持する声が上がった。
「それでは第四試合、Aクラス、アキリア対宇宙忍者ヴァルカン、試合開始!」
声と同時に莉愛はナイフを投げる。ヴァルカンはそれを素早く躱すと、そのまま莉愛に突っ込んできた。
「くっ……! 意外と素早い……!」
その見た目からは想像のつかない速さでヴァルカンの鉤爪が迫ってきた。否、パワードスーツのアシストがあるのだ。見た目など何のあてにもならない。慌ててバックステップしたものの、躱しきれずに莉愛はダメージを受ける。
「そりゃあ、拙者宇宙忍者であるからして当然ですな。デュフフ」
ヴァルカンが連続して両手の爪を振るってくるのを莉愛は刀で受け、返す刀で斬りつけつつ斜め後ろに飛ぶ。相手の正面から外れて距離を取り、再びナイフを投げる。
「アキリアの投げナイフがヒット! アキリア、距離を取る作戦か⁉」
(だって近づくのイヤすぎる……)
心の中で実況にツッコミをいれつつ、莉愛はなるべく遠巻きに仕留めようと更にナイフを投げる。だが、それは悉く躱された。
「デュフフ……さっきは少々油断し申したが、この程度の攻撃を躱すなど、拙者には朝飯前でござる。所詮は女子、拙者と打ち合う技量がないとはいえ、無駄な足掻きでござるな! もう飛び道具も尽きたでござろう? 一気に仕留めるでござる!」
得意気に笑って、ヴァルカンが再び迫ってきた。
(そうだ……腐っても……腐ってるけどAクラスの闘士なんだ! 逃げて勝てる相手じゃない。嫌なら一瞬で終わらせればいい)
莉愛はキッとヴァルカンを睨みつけ、迎え撃とうと一歩踏み込む。鉤爪を振り下ろす相手の懐にもぐりこみ、軽鎧ごとその弛んだ腹を真横に薙いだ。
「おぅふ」
カクンと膝をつくヴァルカンに、莉愛はくるりと向き直り、刀を真っ直ぐに振り下ろす。ヴァルカンのゲージが一気に減っていく。莉愛は更に追撃を掛けるが、それはギリギリで躱され、相手に距離を取られてしまった。
「ふっ……中々やるでござるな! だがそこまででござる。喰らえ! 土遁、グルコォォォス・スパイクッ!」
「させるもんか!」
ヴァルカンが大技を放つのとほぼ同時に、莉愛は思い切り力を込めて地面を蹴る。彼女のパワードスーツはその気合に応えるように、最大の出力を提供し、彼女の身体をぐんと加速させる。次の瞬間、大きく鋭い石筍が突き上げた。だが、莉愛はもうそこにはいなかった。
「はや⁉」
ヴァルカンが驚愕の表情を浮かべる。普通なら、間に合わないはずだった。石筍にゴスロリが串刺しになっているはずだった。だが、そうはならなかった。
彼女は恐ろしいスピードでヴァルカンの眼前に迫り、白刃を閃かせた。その動きは彼の想像を遥かに超えていた。だから彼は全く反応することが出来ず、あっさりと切り伏せられた。退場時の台詞さえ忘れていた。
「勝者! アキリア!」
勝利を宣言され、莉愛はほっと息をついた。
「すげえな、あのゴスロリ。宇宙忍者、Aクラスじゃ強い方だよな」
「あれ、アキリアってこの間メロディアに負けた子だろ? ニンジャからゴスロリにイメチェンして、別人てくらいに強くなったなー」
「てかギリギリ負けた、ってだけで、メロディア相手だって善戦してたぜ。ま、一皮むけたってトコだろ」
莉愛はどよめく観客たちに手を振り、愛想よく笑顔を振りまいた。
(やっぱり勝てば、みんなあたしを見てくれる。もっともっと強くなろう。この調子で頑張らなくっちゃ!)
敗戦以来初の試合を勝利で飾れたことに気を良くした莉愛は、決意を新たにその場を去った。
ここまで読んで頂きありがとうございます。よろしければ下の☆をクリックして評価を入れていってください!
 




