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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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トップアイドルからの招待#2

 熱狂する観客たちとガラス一枚隔てられているからなのか、莉愛も加藤もその渦に呑まれることは無かった。加藤の場合は単に興味が無いだけかもしれないが。


「えっ、ちょっとこれどういうことなんですかね? 闘技場を改革する、とか言ってましたよね?」


 ルキの演説に、莉愛はすっかり混乱した様子で加藤に尋ねた。だが、加藤も首を横に振る。


「オレに聞くなよ。分かるワケねえだろ。けど丸楠社長は知ってるんだろうかな? 彼女もこれに関わっているのか? それとも、ルキの暴走か? ……あ、電話だ。出ねえと」


 加藤は慌てて電話に出た。態度からして、誰か重要な相手であるらしい。ひたすら電話越しにも関わらずぺこぺこと頭を下げながら「はい」と繰り返す加藤の顔が、徐々に緩んでいく。


「悪ぃな、秋山。呼び出しだ。ま、お前にとっても多分いい話だぜ。ってなわけでオレは行くから、お前は適当なところで勝手に帰ってくれ。何か話があればまた伝える」


 加藤はそれだけ言うと部屋を飛び出した。

 莉愛はいつもの事だ、とばかりにため息をつき、帰り支度を始める。すると、それが終わらぬうちにトントンとドアをノックする音が響いた。


「あれ、社長忘れものですか……って、え?」


 莉愛は急いでドアを開け、そしてそこに立っていた意外な来訪者に驚き、硬直した。


「そんなに驚くことはないだろ? ここを取ったのは僕なんだから」


 してやったり、といった笑みを浮かべ、固まる莉愛を一瞥し悠々と部屋に入ってきたのは、さっきまでアリーナで喝采を浴びていた男だった。


「ふぇっ⁉ ルキ……さん? ええと、あたしに何か、御用ですか?」


 さも当然のように入ってきたルキに、ようやく硬直から立ち直った莉愛が上ずった声で尋ねた。


「そんなに緊張しないでよ。後、敬語なんていいから。ここでは君の方が先輩だしね。勿論、君に話があって来たんだ。さっき僕が言ったこと、どう思う?」


 手近な壁に手をついてもたれかかり、整った顔の上にさらりとこぼれて来た銀色の髪を白く細い指ですくい上げると、彼はその切れ長の目で莉愛を試すかのように見つめた。


「闘技場を変える、って話ですか? どうって言われても……あたしはただの闘士だし、ピンとこないっていうか……」


 突然の質問と、今日これだけの観客を集めた大人気のアイドルが自分一人だけに注ぐ熱い視線。莉愛は大いに戸惑い、しどろもどろに答えることしか出来なかった。ルキはそんな莉愛にゆっくりと近づき、肩を抱く。


「ねえアキリア、君も僕に協力して欲しいんだ。闘技場はもっと人気になるべき競技だ。そのポテンシャルはある。そのためには闘士たちももっと洗練されたものにしなくちゃ。なんていうかさ、全体にオタク趣味なんだよ。特撮とか、アニメみたいな。それじゃ、僕の趣味に合わない」


 急に近寄られて、びくりと肩を震わせ目を逸らした莉愛に、ルキは熱く語りかけた。


「その点、君は逸材だよ。こんなに可愛い顔に、あの身体能力。服のデザインは残念なクォリティだけど、それは僕が何とかしてあげる。そうすれば今よりずっと強く輝ける。ねえ、君はもっと広い世界に羽ばたくべきだよ。もっと皆に注目されるべきなんだよ。さあ、僕と一緒に舞台に上がろう。スポットライトが君を待っているよ……!」


 ルキは莉愛の顎に手をかけ、くいと自分の方を向かせると、耳元で誘惑の言葉を囁いた。


「スポットライトが、あたしを……?」


 自分を見つめるルキのうっとりとした瞳、耳に掛かる暖かい吐息、そして抱かれた肩や触れられた顎から伝わる熱にすっかり当てられた莉愛は、ルキの言葉をうわごとのように繰り返す。


「ああ、そうだよ。君を……いや、正確には君と僕を、だ。僕たちで、この闘技場を制覇しよう。僕のチカラがあれば、ドリーミィメロディアにだって勝てるさ。Sランクもすぐだよ。頂点に、観客の歓声を独り占めにする場所に、立ちたくはないのかい? 僕ならその手段を提供できる。君の事務所とも話はついているんだ。後は、君次第だよ」


 メロディアに勝つ手段という言葉に、莉愛の身体がピクリと跳ねた。彼女はしばし、目を閉じた。


(……あたし一人で頑張っても、メロディアには追いつけない。その先の、昴にも。そうだ、勝たなきゃ。勝って、昇りつめて、そしてあたしを認めさせるんだ! そして、そのためには――)


 そう考えて彼女は再び目を開くと、ルキを上目遣いに見つめた。莉愛の大きな、やや明るい茶色の瞳が、ルキの灰色の瞳を捉えた。


「はい。分かりま……分かったよ、ルキ。あたしも協力させて。ううん……違う。あたしにも協力してほしいの。あたしはどうしても上に行きたい。メロディアだって倒してやりたい。あたしのことを認めないあの殺戮機械M45だって。だけど、今のあたしじゃどうしても、特に戦闘システム面が弱いの。だから、そう……共闘してほしい」


 莉愛は熱を込めてルキに語りかけた。その声は、ほんの少しだけ震えていた。ルキも、莉愛自身もそれに気づかなかった。

 ともかくそれを聞いたルキの顔は、ぱっと喜びに輝いた。彼は莉愛の肩にかけていた手を外し、一度大きく両手を拡げて、


「アキリア! 分かってくれて嬉しいよ! もちろんさ、もちろん僕も君の夢に協力するとも! 専用のトレーニングセンターも作ったし、スタッフも集めた。そこなら思う存分訓練も出来るし、データを他の奴に見られる心配もない。僕が、僕だけが君の才能を、もっともっと高めてあげられるんだよ」


 と、感極まったように叫んで、両手で莉愛を抱き寄せた。こんな場面を写真にでも撮られれば、あらぬことを騒ぎ立てるメディアもいるだろう。だが幸いこの闘技場のVIPルームにそんな懸念は微塵もない。ルキがこの場所を選んでおいたのも、それを承知してのことだろう。


(ルキの協力が必要なんだ。ルキは思ってたよりもずっとずっと、いろんなものを持ってる。これはビジネス。夢を叶えるための手段。みんなやってる。もっとずっと、過激なことも。目の前にチャンスがあるなら、迷わず掴むべきなんだ!)


 莉愛は何かを振り払うかのように全身に強く力を入れ、ルキの腕の中で目を閉じた。

お読み頂きありがとうございます。何卒……何卒評価を入れていって下さい……

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