トップアイドルからの招待#1
莉愛と加藤が招待されたVIPルームは、哲の好意で入れて貰ったのと同様、ふかふかのじゅうたんが敷かれ、質の良いソファの並べられた広い部屋だった。加藤はそのソファの中央にどっかりと腰を下ろし、莉愛は大きなガラス窓から外を眺める。
「わあ、いつもよりぜんっぜん女性客が多いですね」
莉愛が一般の観客席を見上げて驚きの声を上げた。通常、ファミリー客や女性客も多いとはいえ、それでも闘技場の主たる客は成人男性であった。だが、今日は大半の席が若い女性で埋まっている。
「大人気アイドルユニット、ヴァンパイアリズムのルキが闘技場に参戦するという噂が散々SNSで流れてたからな。それに、ファンのためにヤツの関係者が指定席をがっちり押さえて売りさばいた、って話だぜ」
座ったまま腕を組み、ぼんやりと観客席を眺めて加藤が答えた。その声音には、やや呆れが含まれていた。
「ああ、それで。でもメインでもない試合なのに、こんなに人が集まるなんて、さすがルキですねー!」
「だな。だがルキが出るってのに、闘技場側としてはただの新人闘士扱いなんだな。Cクラスのバトルロイヤルって、お前の時と同じだろ? しっかし、ルキって強いのかね? 細いし、格闘技とかやってるってデータもねえし、そんなイメージはねえんだがな。ルキが一番人気とはいっても、それはあいつのファンが買っただけだろ?」
加藤は首をひねった。男性アイドルユニットだけあってそれなりにダンスやアクロバティックな動きは披露していたものの、ルキは決してそれらが得意な方ではなかった。ダンスも、ついでに歌唱も、彼より他のメンバーの方が上手かった。
「まあ、見たら分かりますよ!」
莉愛はそう言って、闘士の入場が始まったアリーナを見下ろした。
ルキはすぐに見つかった。割れんばかりの歓声が上がったこともそうだが、それ以上に彼にはパッと人の目を惹くものがあった。むしろそれ以外が目に入らないくらいだった。
「うわー、最初っから衣装も凝ってるなあ! ルキっぽい! プリセット魔法少女衣装だったあたしとは全然違う!」
ルキは鮮やかな真紅のラペルが印象的な漆黒のロングコートを纏い、観客の声援に応えていた。少しはだけた真っ白なシャツの胸元には銀色の鎖が覗いている。普通の男がそんな格好をすれば噴飯ものだが、超絶美形の彼ならば全ては許された。
「それでは本日の第三試合、Cクラスによるバトルロイヤル、試合開始ッ!」
開始が宣言されると同時に、戦隊ヒーローやらファンタジー勇者やら宇宙刑事やらといった男子闘士向けのプリセットの定番が、四方から一斉にルキに襲い掛かった。
「新人を先に潰すっていうの、闘技場では常識なのかな……?」
「っつーより、あいつがあまりにも目立つし、あいつを倒せば目立てるからだろ?」
有象無象に囲まれ、さすがにその目立つルキの姿も見えなくなった。ルキのファンから、甲高い悲鳴と、他の闘士に対する非難の声が上がる。
「おおっと、勇者ああああが吹っ飛んだー! 一体何が起きたんだ⁉」
囲みの一方から、ボロボロの青いマントをたなびかせ、人が派手に空を飛ばされていく。その後ろを、黒い影が追いかけるように舞い上がり、そして手にした幅広の大剣を容赦なく振り下ろした。
「ルキ、囲みを抜け、華麗に反撃だっ! 勇者ああああ、戦闘不能!」
女性たちの黄色い声援が闘技場を埋め尽くす。
そんな中、包囲を解いたルキは踵を返し、浮足立つ残り三人の闘士を一瞥すると、その細い腕で軽々と大剣を振り回し、一人ずつ易々と切り伏せていく。誰一人、一撃たりとも入れることは出来なかった。
ルキ以外の闘士があっという間にいなくなり、しばらくは声援も、実況さえも消えた。莉愛と加藤も、目の前の光景に息を呑むばかりだった。
まもなくルキの勝ちが大きく表示された。そこでまたわっと普段よりも一オクターブは高い歓声が上がる。だが、ルキの表情にはおよそ勝利の喜び、などというものは無かった。彼はさも当然という表情だった。いや、呆れや苛立ちの方が滲んでいたかもしれない。
「見たかい! 僕の圧倒的なチカラを! こんなに素晴らしいチカラを持つ僕をこんな凡人たちとの下らない試合に参加させるここの運営には閉口するよ。でも僕はこのチカラですぐにのし上がる! 僕が頂点に立って、この闘技場をもっと素晴らしいものに改革してあげるよ!」
そしてルキは突如そう語った。普段のこのクラスにはない、突然のマイクパフォーマンスだったのだが、ルキの堂々とした、自分が語るのが当然と言わんばかりの態度に圧倒され、運営側も誰一人何も言わなかった。試合終了後にシステムを切断することさえ忘れられていた。ルキは、更に続ける。
「ヴァンパイアリズムのルキはもう終わり。今日から闘士としての新しいルキが始まるんだ。僕はこの新しいステージでも、観客のみんなを魅了することを約束する! さあみんな、輝ける新たな皇帝の伝説の、最初の一ページを存分に心に刻んでくれ‼」
ルキの言葉に魔力があるかの如く、客席はじっと聞き入っていた。その内容にも関わらず、自由席の行儀の悪い客がヤジを飛ばす事すらなかった。彼の演説が終わったあと、すっかりそれに酔いしれた観客たちは立ち上がり、喝采を送る。
「いいぞ! 確かにもっと派手で、血沸き肉躍るような戦いが見たいんだ!」
「キャー! ルキ様最高!」
「えっ、でも待って、ヴァンパイアリズムって解散なの⁉ でもいいか! こっちの方が近くでルキを見られるし!」
「ルキ、つまらない闘士共なんてやっつけちゃって! もっともっと、お美しい姿を私たちに見せて‼」
観客席の殆ど全てが熱狂の渦の中にいた。
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