29話
「……俺は魔法が嫌いだ。」
試験の時も闇魔法を使用した。手当ても魔法で治してもらった。だが、魔法によって過去にあった恨みや嫌悪感は強く根付いている。
俺は握られた手を離す。すんなりと手は離れた。
ニコラスはまた元の場所に座った。
「いやー、嫌いだからって言われてもね~。……まぁ、俺も急すぎたよ。」
パチンッ!と指を鳴らすと目の前にワインボトルとワイングラスが現れた。
「力が必要なら、俺は剣だけでシャオを護る。」
俺は立ったままニコラスに告げる。
「うーん。確かにお姫さまは魔法の才はあるよ?けど、君が生き残る為には魔法は必須だよ。」
ニコラスはワインのコルク部分を2回コンコンと軽く指で弾くとキュポンッとコルクが外れた。
「生き、残る……?シャオとの契約が終えたらの話か……?」
確かにシャオが何処かへと嫁いだら、自由にしてくれると約束した。それと同時に、この家の庇護がなくなる事を表しているのも理解できる。
「今度の刺客は直接来ると思うよ~。」
何を知っているんだ?こいつは。
はい、これで酌をしてとワインボトルを渡される。
詳しく聞くためには酌をする必要があるらしい。
俺は黙って受けとるとニコラスの隣に座った。
ーーーーーーー
「~デヒャヒャヒャヒャ!!!」
ワインボトルを渡されてから約30分。そこには出来上がった魔法使いがいた。
何も面白い事はないのにずっと爆笑している。知りたい事を質問しても話をそらされたり、聞いてもいない事をペラペラと喋る酔っ払いだ。
そろそろ限界だ。……いつになったらレイモンドはくるんだ……?
「別邸にかけている魔法はねぇ~。この世でただ一つだけなんだ~!」
適当に相槌をうっていた俺はアレ?と気づく。この別邸が特別ならシャオに誓約の事を聞かれても何も問題はないのでは?と……。
「なぁ……。ここで話せば呪いや誓約の罰は確実に回避出来るんだよな?」
「んー。そだね。」
「なら、さっき呪いの事をシャオに告げる時に誓約の事を言っても……!」
ニコラスは人差し指を口元に当てて静かにと一言呟く。それだけで俺の声は出せなくなってしまった。
(クソッ!声が出せない……!)
無理に声を出そうとするが空気が通る音しか出ない。
「うーん。矛盾、していることに気づいたか~。困ったなぁ。困っちゃうなぁ~。」
困ったと言いながらも全く困った顔をしていない。ケタケタと笑い続けている。
「ま、いいや。特別に教えてあげようか。君の命に関わることだし~。」
やっと本題に戻ったか。
「今、力のない君が王族だと知られない方がいいからさ。」
質問を口にしたかったが、横にいる魔法使いに声を出せなくされている。
「納得していない顔をしているねぇ~。だって、後々わかった方が面白そうなんだもん!」
なんだもんじゃねぇ!それってただの気分で言わなかっただけなのか?!
「お姫さまからは呪いだけ、君から外して欲しいらしいからね。誓約には手を出さないからそのまんまだよ。あ、ちなみに誓約の事を別邸でバラさないように俺が魔法をかけたから無理だけど~☆」
魔法使いはグラスに入っているワインを飲み干してこちらに傾けた。
俺は黙って空になったグラスに注ぐ。
考えてみれば、別に俺の誓約は知っても知らなくてもシャオには関係ない。俺個人の問題だ。
それに、刺客は俺が一人になるときに狙ってくるだろう。
態々事を大事にならないように動くだろうし……。
それをポツリと心の中で呟くと魔法使いは心を読んだのか返事を返してきた。
「フンフン。甘いねぇ。甘すぎるよぅ!」
色白な肌が酒を飲んだことによって真っ赤になっている魔法使い。
いつの間にかグラスを持っていない方の手には干物が握られていた。
「奴らは君と関わった人も消そうとする。」
「……何故、断言できるんだ?」
声が出た。どうやらニコラスは魔法を解いたらしい。
「今、直系で王位継承権を持っているのは君だけだからだよ。」
俺は驚き過ぎて声に出せなかった。
いや、そんな訳ない……。俺には双子の片割れがいる。他にも直系の王族はいる!
それに、今の魔法使いは酩酊状態の一歩手前だ。どうして俺は酔っ払いの戯れ言だと鼻で笑えないんだ……?
「現在、直系の王族は君しかいない。呪いの数がその証拠さ。」
そう告げられて俺の思考は停止した。




