22話
推しの腕の中。ギュッと私の頭と肩を抱えてゴロゴロと地面を数回転がる。
空中から着地した時の衝撃よりも推しに抱えてもらっている今の衝撃の方が強い。
何だか、いい匂いがする……。ってそんなことよりシンの安否確認!
腕の中から抜け出し、シンの顔を覗く。
「ねぇ、シン!大丈夫?ねぇってば!起きてよ!」
「……うるせぇ、ちょっと黙ってくれ……。」
私に大声で呼ばれ、顔をしかめながらも悪態をつく。
よかった。意識はある!
フワッと私たちの目の前に降りてきたニコラスは、そっと上着を魔法で私の肩にかけてくれた。
シンは無理矢理起き上がろうとする。
「どこか痛むところはない?下敷きになったのだもの。お医者様に見てもらいましょう。」
私はシンの背中を支えて座らせる。
シンは腰から短剣を出していつでも投げれるように構えた。目線はしっかりニコラスに向いている。
利き腕である右手でしっかり握っているから右手は大きな怪我はなさそうね。
「……シャオ!ッまだ、終わって……ない。」
シンのその一言でハッとした。そうだった。ニコラスの買収は失敗したのだった。
「いやはや、若いねぇ!座っているのもやっとなところをみるとかな~りレイモンドに絞られたみたいだね☆」
試験をめちゃくちゃにした張本人が何をいっているんだ。
第二の試験に関する報告書をまとめた書物を目にしたことがある。
それによると過去の試験で敵役になった人は。基本的に試験を受ける人の実力より上の人が敵役に選ばれる。またはよく練習試合の手合わせをしてきた人+その人の弱点を補うタイプの人の二人で構成されている傾向があった。
魔法使いが試験の敵役で出てくるなんて過去一度も無かったはずだ。
ニコラスの出現は完全にイレギュラーだ。魔法が使えるってだけで難易度のハードルは二つは上がる。
ニコラスはこちらのことはお構い無しにケラケラと笑っている。
「何がそんなに可笑しいのよ?シン、無理しないで。こいつをヤる時は私も手を貸すわ!」
ニコラス。何があってもお前は絶対に許さん。
「あー、おかしい。ねぇねぇ、いつ俺が試験に参加したっていった?」
は?
「そもそも、俺、奥さまに用があって来ただけだし。ついでにお姫さまの顔を見ようと探していたらたまたま彼と会っただけだよ!」
私は後ろの方にいるダズを見る。
無言の圧力がわかったのかわかっていないのか呑気に頷いていた。
「そうだぁ。魔法使い殿がお嬢に会いたいって言ってたからよぉ。薔薇の庭に隠れているって言ったんだぁ。」
「そうそう。俺は試験にはなーんにも関係ありませーん!……まぁ、少しだけからかってやろうとは思ったけどね☆」
あー、うっざ。シンプルにうざいわ。
「ダズ、動けるようならお医者様を呼んできて。」
「わかりやした!坊主!さっきの袈裟斬りはよかったぞ!」
そう言ってダズはお医者様を呼びに行ってくれた。
「お姫さま☆お医者様なら目の前に……」
「ニコラス。お前はハウス。土に帰れ。」
確かに、ニコラスなら神聖魔法を持たないのに治癒ができるけれど……シンの安全を考えるとお医者様を待った方が確実に安全だ……色々と……。
「ホッホッホッ。勝負はついたようで何よりですな。」
そこに現れたのはロベルトだった。
「ロベルト!ちょっとそこの燃えるゴミを棄ててきてくれない?」
「お姫さま~!それは酷いよ~!」
「お嬢様、お怪我はありませんかな?」
「ええ、ないわ。シンが庇ったくれたから。でも……シンは何処か痛いみたい。」
「そうですか。ではシンは私が運びましょう。」
「おいッ!俺は、一人で歩ける……!」
「痩せ我慢するでない。先程の踏み込み、うまく踏み込めなくて脚を痛めたであろう。……それではお嬢様。参りましょうか。」
踏み込みというと、結界を踏んだ時かな?
こちらに近づいて来たロベルトはまだ文句を言っているシンを抱えて運びだした。
私は慌てて屋敷に向かうロベルトの後ろを駆け足でついて行った。
こんな時、乙女ゲームのヒロインが使える治癒魔法が私にも使えたらいいのになぁ。
推しのお姫さま抱っこというレアな姿をガン見しながらちょっとヒロインに嫉妬した。




