4 王・公(侯)の由来とその関係
中世ヨーロッパを語る上ではローマ帝国は外せず、称号はローマ帝国時代のラテン語を由来とするものが多い。
ただ、一部は現地の古来の言葉から来ているものもあり、これとローマ帝国時代のラテン語由来の後を整合させていることもある。
ここでは君主、一定地域の支配者として使われていたことが多い称号について話をする。
1 king
kingは古アングロサクソン語cyningから来ている単語であり、さらにたどると古ゲルマン語のkuningaz、家族とか血族という意味から来ている。
英語にはアングロサクソンやゲルマン由来の称号が時々あり、伯爵がEarlなのも古英語から由来しているためラテン語とは関係なく、整合させるときにおかしなことになることもある。
フランス語では王をroiといいうが、これはラテン語のRex、指導するから来ている。
言語によってこの二種類の語源のどちらかを基とする単語を使っている。
2 prince
princeはラテン語のプリンケプス(princeps)第一人者を意味する単語が語源である。
古代ローマではある分野の第一人者に与えられた言葉であり、こういった第一人者が集まって元老院を運営するというのが共和制ローマの大前提であった。
世界史を勉強した人ならなじみがあるかもしれない、初代ローマ皇帝といわれるオクタウィアヌスも称号として使っていたものである。
ドイツ語のFurstは英語のFirstと同じ由来であり、ゲルマン語由来ではあるが第一人者の意味で、意味は全く一緒である。
そのためPrinceとFurstは訳語として扱われやすい。
ちなみにドイツには、Prinz、プリンケプスを由来とする単語も存在している。
艦これやアズールレーンといった軍艦が出てくるゲームをやっている人なら知っているかもしれない、プリンツ・オイゲンのプリンツでもある。
プリンツ・オイゲンはオイゲンというオーストリアの有名な軍人を由来とする艦である。オイゲンはフランス王家の血族であったため、フランスにおいて公子の称号を呼ばれる地位にあったためPrinzという渾名で呼ばれていたものである。
ドイツのプリンツは、王統の血族の意味以上はなく、英語のPrinceのロイヤルファミリーの意味と変わらない意味で使われている。
3 duke
ラテン語のドゥクス(Dux)を由来とする役職である。
最初は軍団の指揮官、そのうち地域の最高権力者の役職となっていったものを由来とする。
ローマ帝国に由来する官職名がもとになった称号である。
ちなみにドイツ語ではHerzogが相当するものといわれているが、この単語は古ゲルマン語の「軍を率いる者」という意味であり、やはり意味合いは語源と一緒である。
日本語に訳すと王、公爵となるこの三つは、一定領域の支配者称号として使われていた。
2と3のどっちが上かは国によって異なる。また、プリンス系統を王室の意味で使う言語もあったりする。
ちなみにFurstを侯爵と訳す場合もある。Furstも独立の支配者であるから、侯爵も一部は支配者の称号だが、英語のMarquesは辺境伯であるMargrave、伯爵号を由来とするもので、侯爵の訳語が支配者の称号とは一概には言い切れない。
なお、伯爵に関しては次回以降に話したいと思う。
4 王と公の差
ちなみに王号と、公号はどちらも支配者の意味だが、その二つは領地の規模という点において差がある。上下、というと支配命令関係の様な意味合いになってしまい誤解を生みそうだが、規模という意味では上下があるのだ。
もちろんこれ以上が王国、みたいな明確な基準があるわけではないが、現在残っている公国などを参考にみてみよう。
ルクセンブルクが大公国だという話はしたが
その面積は2,586 k㎡、日本でいうと神奈川県や佐賀県と同じぐらいの大きさである。
人口は61万人程度。佐賀県は80万人を超えているので、佐賀県よりも人は少ないのだ。人口が900万人を超える神奈川県とは比較にもならないレベルだ。
ちなみにアンドラは468k㎡
リヒテンシュタインは160k㎡
モナコなど2k㎡しかない
他にもイギリスのチャールズ皇太子が持っているコーンウォール公の話をしたが、コーンウォール公領が600 k㎡に満たないということから見ても、規模感は分かるだろう。
ちなみにオーストリア大公領(他の大公国はgrand dukeだが、オーストリアはarchdukeという他では使われない称号を使ってる強そうな名前である)の面積が大体30,000 k㎡。他の公領から見たら破格に広いがそれでもオランダやスイスより狭く、ベルギーと同じぐらいである。
これはあくまで規模の大小である。格式としては上下はあるが、君主家臣の関係ではなく、命令などできる関係には当然ない。