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Unlimited Fight  作者: マコト
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静と動

『これはどうしたことでしょう? 試合は始まっておりますが、お互い動きません』


 実況が戸惑いの声を上げる。会場からも騒めきが聞こえるが、いまは気にしている余裕はなかった。左手で握っているレバーに全神経を集中させないと、一瞬でまけることになるだろう。


 リュウ兄の使うキャラは『ジェイク』という大男の改変オリジナルキャラ。スピードこそ遅いが大きな体から放たれる素体の圧倒的なパワー。加えて改変時にステータスをいじっておりパワーはさらにまし、恐らく必殺技の類がきまればJOKERは一撃で沈められるだろう。


 しかも高耐久。その変わりスピードをかなり犠牲にしているようだが。


(動かない……か)


 試合開始直後からほとんど動かず、まるで山のように佇んでいる。


 しかも厄介なことに隙が無い。さっきから何回か誘いのフェイントをかけてくるが一向にのってこないし、攻撃性のある行動にはしっかりとけん制攻撃を仕掛けてくる。必殺技で仕掛けようにもダメージを与えても喰らってもいないからゲージがなく、お互い膠着状態となってしまったわけだ。


『お互い完全に膠着状態となってしまいましたが、これは決着がつくのでしょうか、解説の蒼梅さん?』


「一瞬の隙がアダとなりますね。集中力を切らした方が不利になるでしょうが……」


 本当に相手が集中力を切らすのを待つしかないのだろうか? そうだとしても、本当にこんな消極的な戦い方でいいのだろうか?


 違う、こんな戦い方はらしくない。僕が憧れたのは、追い求めたのは常に攻める姿勢を崩さない、超攻撃型の戦い方だ。勝つには向かない? 例えそうだとしても、僕は僕の戦い方を!


『おぉっと、Humito選手動いた! 動きましたが、これは一体?』


 とりあえず作戦はこうだ。


 遠距離を保ちつつ隙が少ない通常技を空振りしてゲージを回収する。この際にワザと隙をつくり、相手が弱パンチを当てられるようにする、弱パンチを喰らうことによってさらにゲージを回収し、体力が尽きるギリギリまで繰り返して必殺技をうてる分稼ぐ。


 問題はその一撃で相手を仕留められるかにかかってくる。こちらの火力は極限まで高めてはいるが、相手も高耐久のキャラだ。もし仕留めきれなかったら、一気に敗北につながる可能性もある。


 だけど、勝ち筋はそれしか思いつかない。


 動きの中で一気に距離を取り、通常技を空振りする。ゲージが僅かに増えた途端、リュウ兄が動いて攻勢に出る。しかし、この距離からなら……


(よし)


 狙い通り弱パンチしか届かず、体力の三割を犠牲に必殺ゲージを回収する。あとこれを二回繰り返して……とそこまで考えた時だった。今まで頑として動かなかったリュウ兄は距離を詰めてきたのだ。


 慌てて距離と取り直すが、前進を止めずこちらに近づいていくる。じわじわと画面端に追い詰められる。


『ここでRyu氏もまさかの一転攻勢! これは一体どういうことだぁ!?』


「焦れたんでしょうね、性格的に」


『集中力の勝負とは一体なんだったのか! なんと両者が均衡に耐えられず自ら動き出してしまった!』


「ははっ」


 試合中にもかからわず、僕は思わず笑ってしまった。なんだろう、ひょっとしたらすごい思い違いをしていたのかもしれない。最初の動きでてっきりリュウ兄はそういう戦闘スタイルなんだろうと思ったのだが、ひょっとしたら僕が攻めていくのを待っていたのかもしれない。


 なら、ここからはお互い遠慮なしといこうか!


 そこから先はもう泥仕合だった。お互い純粋に格闘技術だけを頼りとした殴り合い。一ラウンド目は最初にゲージを稼いだ時に喰らっていた分落としてしまったが、二ラウンド目はゲージに余裕があった分取ることが出来た。


 そして三ラウンド目。考えられる最速のスピードでコマンドを入力していく。リュウ兄もスピードこそは遅いものの的確な反応でそれに対応していく。だからこれは勝負だ。僕のスピードが勝るか、リュウ兄の対応力が勝るか。


 前にケン兄は僕の最大の強みは反応速度だといった。だったらそれをフルに活かして勝ってやる。誰も追いつけないくらい早く、一瞬の隙を斬り込み勝つ。もはや画面内のキャラの動きを目で追うのが精いっぱいだ。だから後は感覚を頼りに。


 動きの中でゲージ回収もしていく。フィニッシュはやはり一回戦でも見せたコンボになるだろう。ただ一度見せている分、分かっていても対応できないくらいの速度で叩き込むしかない。


 そして、チャンスとなるタイミングはもうすぐ来るはず。あと少しで相手のゲージが溜まる。そこでリュウ兄は必ず撃ってくるはずだ。必殺技の突進攻撃を! そして――


(きた!)


 演出のカットインが入った瞬間にコマンドを入力していく。ここで僅かにでも遅れると反撃を喰らってこちらが負けてしまうだろう。もっと早く、フレームをさらに刻んだ、その先へ――


『K.O.』


 画面に表示される。しかし実況のアナウンスはない。会場もしんと静まり返ってしまう。そして数秒後、世界が動き出したように音を取り戻した



『き、決まりました! えー何が起こったかはいまいち見えませんでしたが、少しスローでさきほどの映像を再生してみましょうか……おぉ、確かにきまっています! 一回戦でみせたものと同じですね。それよりも速く見えたのですが』


「必殺コンボまで繋がる一連の動きが洗練された結果、コンボ全体が速く見えたんでしょうね。一回戦から明らかに進化している。正直、わたしも最後のフィニッシュは目で追うのがやっとでした」


 ケン兄の感想を聞きつつも、僕は他のことを考えていた。これでようやく決勝、鈴羽と戦える。そこで僕は一体どんな戦いをすることになるのだろう。そして鈴羽は、どんな戦い方を見せてくれるだろうか。


 近づく終わりに、そんなことを考えずにはいられなかった。

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