矛盾
「なんか色々すごいことになっちゃったね」
「そうだな。まさか大会に出ることになるなんて、修治が聞いたらなんていうか」
「黄瀬先輩は絶対おどろくと思うなぁ」
帰りの電車の中で、僕と真白は今日あったことをふり返る。
「でも……」
「先輩? どうかした?」
「いや、ちょっと鈴羽のことが気になって」
「鈴羽さん、か。確かにちょっと気になるわね」
先ほど会社であった鈴羽との会話を思い出す。
※
『どうして、まだ攻撃型の戦い方を続けているの?』
『どうしてって……』
『だって昔の史人はもっと勝ちにこだわっていた。今は負けてもいいような戦い方になってる』
『そんなことは……この前戦った時だって本気だった。それは間違いない』
『勝ちにこだわるのに、勝率の安定しない攻撃型の戦い方をするなんておかしいよ。史人は言ってることとやってることが矛盾してる』
『それは……』
※
「矛盾……か。まさか鈴羽があんなことを考えていたなんて思わなかったよ」
結局、あの後鈴羽は直ぐに部屋を出ていってしまいろくに会話できなかった。ゲーセンに急に行けなくなったことも謝れなかったし、微妙にしこりが残る形になってしまった。
「ま、鈴羽さんも先輩と急に再会したもんだから戸惑ってたのよ、きっと」
「それだったらいいんだけど」
「やっぱり気になる?」
「そう、かな。久しぶりだったけど、鈴羽のことは結構分かってるつもりだったから」
だから鈴羽にああいう風に言われたことに驚いたし、戸惑いを隠せなかった。
「このままで、いいのかなぁ……」
「鈴羽さんもKurobaneとして大会に出るんだよね? だったらその時にまた話せると思うし、もし鈴羽さんに勝てたら攻撃型の戦い方も認めてくれるんじゃないかしら?」
「そうだと良いんだけどな」
「もう、いつもの強気で強引な先輩はどうしたの。らしくないよ?」
ちょっとたしなめるような真白の言葉。そう言いたくなる気持ちもわかる。でも、
「鈴羽の言うことも、一理あるんだよなぁ」
「先輩が勝ちにこだわってないってこと?」
「というか、攻撃型の戦い方が勝負に勝つには向かないってこと」
「わたしにはそれが良く分からないんだけど、そういうものなの?」
「まあ一概には言えないんだけど、攻撃型は動きすぎるからどうしても事故……思ってもみない技に引っかかって負けることが多くなってしまうんだ」
「あ……」
そこで真白ははっとしたように自分の足を見る。しまった、真白の前で事故という言葉はうかつだった。
「ごめん、真白の前でこんな話」
「ううん、わたしが聞いたんだもん。そっか、なんとなく分かったかも」
そう言って真白は自分の足を撫でた。
「僕が攻撃型の戦い方をしてるのはケン兄の影響なんだ。ケン兄は相手に考える時間も与えないくらいガンガン攻める戦い方だったからね。鈴羽も昔はそうだったんだけど」
「鈴羽さんも?」
「うん、だからKurobaneが鈴羽だとは思わなかった。戦い方が真逆だったから。僕も鈴羽も負けず嫌いでさ。チャンピオンだったケン兄の戦い方をずっと真似してたんだ」
「そうだったんだ……。じゃあ、蒼梅さんを負かした人は防御型だったってこと?」
「あの人を防御型と言っていいか分からないけどね。当て身使いだったし」
正確には当て身投げ。コマンドを入力すると構えを取り、その状態で打撃を受けると相手を掴んで投げるという格ゲーの技の一種だ。有名なのは飢狼伝説のギースとかになる。あの頃はまだ当て身が珍しくて、対応しづらかったのも敗因ではあると思うけど。
「当て身……じゃあ、防御型でありながら、攻撃型でもあったって感じ?」
「そうだね。ちょうど鈴羽が今使っているマリアがそんな感じだ」
だから鈴羽は戦い方をシフトしたのだろう。何より負けない為に。
「そっか。やっぱり蒼梅さんが負けたことが鈴羽さんもショックだったのかな?」
「かもしれない。だから鈴羽の言っていることは間違いんじゃないんだ。だから……」
「わたしのキャラ、方向性変えた方がいいかな?」
「いや、真白のキャラは問題ないんだ。要は僕の気持ちの問題なんだから」
そう、真白のキャラはこれ以上ないってくらい僕のスタイルに合っている。だからキャラの方向性を変える必要なんて全くない。
「今度のキャラも高スピードで、高火力。防御なんか捨ててひたすらに相手を仕留めにかかるキャラでいこうぜ。まあ、真白が変えたいっていうなら話は別だけど」
「ううん、先輩がいいならそれで行きましょう! 任せて、鈴羽さんのマリアも捉えられないくらい高速で、一撃で仕留められるくらいの高火力キャラを作ってあげる!」
「頼んだ、相棒」
「へへ、頼まれました」
こうして少し引っかかりは残すこととなったが、ケン兄と鈴羽との再会は無事に果たせた。明日からは大会に向けて、そして鈴羽に勝つために全力でキャラ作りに臨むことになりそうだ。




