再会
藍葉さんに案内されエレベーターで四階まで上がってきた。そこから先はもう完全にビジネスフロアで、そこかしこに首から社員証を下げた人が歩いていた。
「先輩、大丈夫?」
「あぁ……」
そう答えつつも、僕の心臓はうるさいくらいに鳴っていた。もうすぐケン兄と会えるという期待と、会ってしまう怖さ。その二つの気持ちが心の中で混ざって渦巻いていた。
でもこんな調子で会う訳にはいかない。もう覚悟を決めたんだ。大きく息を吐き、頬を両手で軽く二回叩いて気を落ち着かせた。
すると僕のそんな様子が気になったのか、前を歩いていた藍葉さんが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。その時にはもう「はい」と答えられるくらいには気持ちが落ち着いていた。
やがて藍葉さんが部屋の前で足を止めた。恐らくここが社長室なのだろう。再度確認というようにこちらに振り返った藍葉さんに、僕と真白は二人そろって頷いた。それを確認すると藍葉さんは部屋の扉をノックした。
「社長、藍葉です」
「おう、入ってくれ」
聞こえてきた声にまた胸が一つ鼓動を打つ。ちょっと声が低くなった気はするけど、その声は確かに僕が覚えているケン兄の声だった。そして、
「よう、史人。久しぶりだな、元気してたか?」
「ケン兄……」
開かれた扉の向こうにいたのは、思い出の姿より少し大人びたケン兄だった。どうしよう、覚悟を決めていたはずなのに、どうしても――
「おいおい、数年ぶりの再会なのに泣くやつがあるかよ」
「そんなこと言われても、仕方ないじゃん……」
次から次へと涙が溢れてくる。だけどこのままだと真白に心配をかけてしまうから、僕はごしごしと腕で涙をぬぐい、何とか気持ちを落ち着けた。
「真白、ごめん。ちょっと取り乱した」
「ううん、大丈夫。初めまして蒼梅さん、真白 御弥と申します。本日はお招きいただき有難うございます」
「丁寧な挨拶を有難う。でも、そこまで畏まらなくても大丈夫だよ。おい史人、もう大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」
「よし、じゃあそこにかけてくれ。知紗、悪いが真白さんの椅子を引いてやってくれ」
「かしこまりました」
藍葉さんが真白の車いすが入れるように椅子を引いてスペースを開けてくれたので、そこに車いすを固定して僕は隣の椅子に座る。僕たちが座るのを確認すると、ケン兄は「よし」っと言って、
「改めまして株式会社LimiCuの社長をやっている蒼梅 拳志だ。史人は置いておくとして、真白さんとは初めましてだね」
そう自己紹介をしつつ、僕たちに名刺を差し出してきた。
「もう聞いているかもしれないが、今日二人に来てもらったのはゲリラマッチングでうちのKurobaneと戦ったプレイヤーHumitoとJOKERを作成したMashiroに少し意見を聞きたかったからだ」
「それについてなんだけど、ケン兄に一つ聞いて良い?」
「何だ?」
「Kurobaneはケン兄なの?」
それはある程度確信を持った問いだった。何故ならKurobaneの戦い方を僕は知っていた。そしてKurobaneも僕の戦い方を知っていた。そして僕に戦い方を教えてくれたのは他でもないケン兄だ。
ケン兄がKurobaneだったならあの強さも納得がいくし、防御スタイルのみを使用しているのはきっとハンデなのだろうとも思える。
何よりこれまでの経緯からケン兄はHumitoが僕であることに気付いていたと思う。ならばあの時対戦したのがケン兄だと思うのは自然なことだった。
しかし――
「残念だが、Kurobaneは俺じゃない。」
ケン兄から返ってきたのは否定の言葉だった。
それじゃあ、一体僕が戦っていたのは誰なんだ?
僕の戦い方を知っていて、僕が戦い方を知っている人物。
そんな人がもし存在するのだとしたら、それはもう――。
「もしかして……」
「その考えは正解だ。入ってきていいぞ」
ケン兄がそう呼びかけると、ガチャリと後ろの扉が開く音がした。
「失礼します」
透き通った、しかし少し硬い声が室内に響いた。
知っている。むかし何度も何度も聞いた声。
懐かしい声。そして、僕はその声を発していた人物の名を口に出す。
「……鈴、羽?」
「……久しぶり、史人」
振り向いた先にいたのは、紛れもなく成長した僕の親友――黒瀬 鈴羽だった。




