アグレッシブに!
そして週末。都内にあるLimiCuへ向かうべく、僕と真白は駅で待ち合わせをしていた。埼玉の端っこであるここ和光市駅から電車にのり、会社のある新宿まで向かうことになる。
「先輩ーお待たせー」
「急がなくていいぞー」
改札の前で待っていると、真白がやってきた。今日は白の薄いワンピースを着ている。デートではないと分かってはいるものの、こうして同年代女子の私服姿を見ると少し意識してしまう。
「じゃ、行こっか。先輩!」
「おし」
駅員さんの手を借りて電車に乗り、改めて時間を確認する。約束の時間は13:30だったが、この分だと12:30過ぎくらいには向こうに着きそうだった。
「少し早かったかな」
「遅れたらダメだから結構早めに待ち合わせたもんね。ね、先輩。向こう着いたらお茶でも飲まない?」
「え?」
予想外の提案だった。いや僕としては全然問題ないのだけれど。
「いいのか?」
「ん? あ、先輩お金あんまり持ってきてない? 任せて、わたし結構持ってきてるから」
「いや、そういうことじゃなくてだな」
なんだろう、少し話がずれている気がする。それとも僕が意識しすぎているだけだろうか?
「ね、せっかくだからいいでしょ、先輩?」
「僕は良いんだけれど、真白ってアグレッシブだよね」
「元バスケ部だからね!」
「へぇ」
それは初耳だ。真白の昔話をもうちょっと聞いてみたい気もしたけど、どうしても足のことに触れてしまう気がして迂闊なことは聞けない。ただ、そんな僕の気持ちを汲み取ってか「わたしね……」と真白は続けた。
「これでもエースだったんだ。結構うまかったんだよ? ウチの高校も推薦で合格したし。でもね……事故ってあっという間だね。いつも出来てたことが、一瞬でできなくなっちゃった」
そう言って真白は足を少しだけ揺らす。
「動かせないん……だよな?」
「手術したらもしかしたら動くようになるかもって言われてるけど、成功率も高くないし、成功しても必ず治る訳でもないし迷ってるんだ」
「そっか……」
そんな当たり障りのない反応しか返せない自分がもどかしい。「きっと動かせるようになる」そう言うのは簡単だけど、今も必死に足が動かない恐怖と戦っている真白には気休めにもならないだろう。
「ごめんね、ちょっと暗い話になっちゃった。でも、そういうことじゃなくて、そう、アグレッシブよ!」
「え?」
「色々やりたいの! 今まではちょっと動かないからって腐ってたけど、せっかく先輩が連れ出してくれたんだもん。普通の女子高生みたいに、休みの日にお茶とかしてみたい!」
「相手が僕でも?」
「先輩だからよ。ちゃんとわたしを連れ出した責任取ってよね!」
そういって真白は、わざとらしくこちらにウインクしてきた。まいった。こう言われたら、もうダメなんて言えないじゃないか。いや、最初からダメなんていうつもりはなかったけども。何というか真白って……ずるい気がする。こっちが何とかしてあげたいっていう気になってしまう。
「しゃーない。じゃあ、ちょっくら新宿の喫茶店でも探すか」
「わたしも探す!」
そうして新宿のカフェで十分に休んだ後、僕たちはLimiCuにむかったのだった。
※
「おっきいわねー」
それがリミカの入る商業ビルを見た真白の第一声だった。確かにパッと見で二十階ほどあるように感じる。さすが大都会新宿、ビルの大きさ一つとっても埼玉とはレベルが違う。
「もちろんこの中の何フロアかだろうけど、東京はやっぱりビルの一個一個が大きいよな」
真白に答えつつビルの扉を潜ると大きなエントランスが広がっていた。えーと、確か受付で用件を言わなきゃいけないんだよな。
「いらっしゃいませ。ご用件を承ります」
「あの、今日の13:30からLimiCuの藍葉さんと約束があるのですが……」
説明すると担当の人が迎えにきてくれるとのことで、少し待つことになった。ちなみに藍葉さんというのは僕と真白が返信をした後に対応してくれたLimiCuの社員さんである。
「あぁー緊張した。真白は大丈夫だったか?」
「わたしも緊張して全然声がでなかった。先輩がいてくれなかったらどうしようかと思った」
「僕もこういうところは初めてだから焦ったよ。受付のお姉さんが親切じゃなかったらやばかった」
なんかもう受付だけで結構燃え尽きた感がある。真白としばらくそんなことを話していると、
「赤羽様と、真白様でいらっしゃいますか?」
やたら綺麗な人に声をかけられた。すらっとした体に眼鏡をかけ、スーツをしっかりと着こなした如何にも仕事ができそうな人だ。もしかしたら、この人が藍葉さんなのかもしれない。
「はい、僕が赤羽で、こっちの子が」
「真白です」
二人揃って緊張を隠しきれずに答える。するとお姉さんはスーツのポケットから名刺を二枚抜き、丁寧にこちらに差し出してきた。
「初めまして。藍葉 知紗と申します。本日はご多忙の中来社頂き、誠に有難うございます。それではテストルームへ……と本来なら申し上げたいのですが」
そこで藍葉さんは言葉を区切り、「ふぅ」と一つ息を吐いて再び話し始めた。
「社長がお二人とお話がしたいと言っております。もし差支えが無ければ、一度社長と会って頂けますでしょうか?」
「「はい?」」
そんな突拍子もない提案に、僕と真白はそんな間抜けな反応を返すしかなかった。
前回評価やブックマークをして下さった方、有難うございました!
すごく励みになっております!




