決着、そして
が、やはりそんなに甘くは行かなかった。
「先輩、元気出して」
「ま、気にすんなよ。俺だってKurobaneがラウンド落としたところ初めて見たんだ。1ラウンド取っただけでも大したもんさ」
うん、そう簡単に勝てるわけないって分かってた。分かってたんだけど……
「いけると思ったんだけどなぁー」
2ラウンド目取った時は確かにいけると思ったんだ。それくらいマリアの行動が手に取るように分かった。
しかし、いざ3ラウンド目になると今度は逆に全てを相手に見抜かれているように的確に攻められ、ステータス強化が入ったのにあっけなく敗北。
これ以上カッコ悪いことがあるだろうか? いや、ない。
「ま、そう簡単にてっぺんはとれないってことだ。ところで少年、初心者かと思ったのにその腕には驚いたよ。良ければ名前を教えてくれないか」
「……赤羽 史人ですけど」
「ん……って、お前史人か!?」
「え?」
「俺だよ、リュウ! 金子 隆」
「あ……リュウ兄!?」
思い出した。ケン兄の友達で、頻度こそ多くないがたまにゲーセンに来て一緒に格ゲーをやった人がいた。それが目の前のキャラT兄さん――もといリュウ兄だった。当時はいかにもスポーツマンって感じの人だっただけに、キャラTを着ていてイメージが全然違うので気づかなかった。
「え、二人とも知り合いなの?」
真白もまさかの展開に驚きの声を上げた。
「おう! といっても、史人も急にこなくなったからどうしたもんかと思ってたぜ」
「ごめん、リュウ兄。その……」
「ま、あの時は色々あったからな。スズちゃんもしばらくしてから来なくなったし」
「鈴羽……やっぱり来てない?」
「ケンが負けた後しばらくは来てたよ……多分、お前を探してたんだと思うぜ」
「そっか……」
もしかしたら、とも思ったけどやはり鈴羽もゲーセンにこなくなってしまったらしい。僕がもしあの後もゲーセンに行っていればと考えるも、全ては後の祭りだった。
「あの、鈴羽さんって?」
「昔さ、ここで一緒に格ゲーやってた子がいたんだ」
遠慮がちに聞いてきた真白に答えつつ、僕は昔あったことをおおまかに説明する。
「そう、そんなことがあったのね」
「悪い、こんな話するべきじゃなかったのかもしれないけど……」
「うぅん、聞けて良かった」
そう言ってくれると、僕も助かる。
「そうだ、蒼梅さんなら鈴羽さんが今どうしているのか知ってるんじゃない?」
真白の言葉に、少し考える。確かにケン兄なら知っている可能性はあるかもしれないけど……。
「どうかな、リュウ兄」
「俺もケンとはたまに連絡を取り合ってるけど、スズちゃんの話は聞いたことがないな」
なるほど。でも、もしかしたらってこともある。その為にも早く強くなってケン兄に会いに行かないと。
「あっ、やべ。そろそろ休憩時間終わるから、俺はもう行くわ」
「ってリュウ兄、仕事の休憩中にゲーセン来てたの!?」
「社会人になるとゲームする時間がなくてな。じゃあな、また来いよ!」
そう言ってリュウ兄は去っていった。大変なんだな、社会人って。
「なんか、すごい人だったわね」
「昔はガチガチのスポーツマンだったんだけどなぁ」
人は変わるものだ。とりわけゲームを愛する心は昔よりかなり強くなってそうだった。
「で、先輩。まだオンライン対戦する?」
「あぁ、さすがにさっきのはイレギュラー過ぎたよ。あれはあれで収穫だったけど、今度は普通の人とも戦ってみたいな」
「じゃあ早速やりましょう! わたしも自分のキャラが動いているのを見るのは楽しかったから」
「うし、じゃあやるか!」
負けてばかりも悔しいしな、今度こそ勝ってみせる!
※
そして本日の戦績、八戦六勝二敗。
「んーまあ、ブランクを考えれば良い方かなぁ」
「うん、先輩頑張った」
偉い偉いと、休憩スペースの椅子に座る僕の頭を真白が撫でてくる。年下の女の子に褒められるのは、ちょっと気恥ずかしい気もするが。
「真白はどうだった? 楽しめたか?」
「おかげさまで。わたしのキャラがこんな感じに動くんだーって、見てて面白かった。ストーリーも分かったし」
「そっか」
とりあえず今日の目標は達成できたってことだ。かなり行き当たりばったりに連れてきたけど、真白が楽しんでくれたならこれ以上はない。
それにKurobaneとの対戦も僕にとっては貴重な経験だった。
「ねぇ、先輩」
「ん?」
「わたし、新しいキャラを作るわ」
「えっ!?」
いきなりの真白の宣言に、僕は驚いてしまう。
「またどうして?」
「今日Kurobaneとの戦いを見て思ったの。JOKERは、まだ完全に先輩にあったキャラじゃないって」
「いや、かなり使いやすかったぞ?」
「でも、完璧じゃないよね」
「それは……」
分からない。もしかしたらもっとアジャストしたキャラが作れるのかもしれないが、それを作るにしてもかなりの労力が必要になってくるだろう
「わたしはね、先輩。先輩がKurobaneに勝てるような、そんなキャラを作ってあげたいの。それで心置きなく蒼梅さんや鈴羽さんに会いに行けるようにしてあげたい」
「どうして、僕なんかのために……」
「さっきも言ったと思うけど、先輩がわたしにしてくれたことって、すごく救いだったの。まあ、純粋にわたしもKurobaneに負けて悔しかったってのもあるんだけどね」
そう言って照れくさそうに笑う真白。
「だから、もし先輩が嫌じゃなければ、またわたしのキャラ使ってくれる?」
まったくこの子は、そんなの答えは決まってるじゃないか。
「こっちからお願いしたいくらいだよ。真白、僕のキャラを作ってくれるか?」
「うん、まかせて!」
その時真白が浮かべた笑顔は、とびっきりのものだった。




