ゲリラマッチング
「マジか……」
「やったやった、ねぇ見て先輩! 全クリだよ、全クリ!」
目の前にははしゃぐ真白と昨日見たエンディングロール。
「実はわたしってば、すごい才能の持ち主じゃないかしら!」
へへん、と車いすの上でふんぞり返る真白。前から思ってたけど、この子はやけにエラそうなポーズが似合う。とまあ冗談は置いとくとして、
「いや、これは本当にすごい。たとえ負けて人もいないからムキになってコイン何枚も投下してクリアしたとはいえ、初日でクリアはすごい」
「むー、もっと素直にほめてよ……」
むくれてはいるが、真白の機嫌がいいのはなんとなくわかった。ゲームに限ったことじゃないが、与えられた試練が大きいほど達成した時の快感はすごいのだ。
「いやでもほんとすごいよ。昨日一緒に遊んだ友達は三体目くらいまでしか倒せてなかったから」
「そうなの? でも面白かった! ツール上で動かすのも楽しかったけど、実際に自分のキャラを使ってみるのも面白いね」
「うん、今日はその面白さを知ってもらうことが目的だったから、僕としても満足だ」
「ところで、先輩はオンライン対戦しないの?」
「ちょっとトレーニングでJOKERを動かしてたんだ。やっぱりこいつカッコイイな。特に超必殺の飛び込みからの相手の頭掴んで斬るやつ」
「あれって実はバックジャンプのモーションを流用してるんだよ。かなりいじってるから新しいモーションみたいにみえるけどね」
「へー」
真白の説明を聞きながらも感心する。僕には完全に新しいモーションにしか見えなかった。ただ言われてみれば確かにバックジャンプのモーションに見えてくるから不思議なものだ。
「何か種明かしされたから、カッコよさが薄れたような……」
「わー! 待って、忘れて! これほんとに頑張ったんだから! カップ麺すすりながら!」
作りながらカップ麺をすすってたのか。その時の様子を想像して、ちょっと笑ってしまった。
「もう、先輩はほんとイジワルなんだから。いいから、早くオンラインモードやろうよ!」
「はいはい、ちょっと待ってな」
ちらりと後ろを確認する。が、相変わらず台自体は埋まっているがプレイ待ちの人はいない。いちおうリリースからは半年経ったゲームだし、ここは続けてプレイさせてもらおう。
「よしやるか!」
もう一枚コインを投入して、タイトルのメニューからオンラインモードを選択する。使用キャラにJOKERを選択し、通信画面へ。
『通信中…………』
「さて、どんな相手がくるやら」
「初めてだし、ドキドキするね」
レーティング制だからいきなり強い人とあたることはないと思うけど、できれば同じくらいの相手と対戦したい。でも、同時にとても強い人とも対戦したいという気持ちもある。我ながらわがままだなぁ……とそんなことを考えていると、
『対戦相手が見つかりました』
「おっ」
さっそくマッチングした。おそらくここから対戦相手が表示されると思うのだが、
『WARNING!!』
「「あれ?」」
僕と真白が同時に呟く。『WARNING』――つまり注意しろってことだと思うけど、いった何に……。
「あぁ、それはゲリラマッチングだぜ」
と、僕の左隣の台の人が話しかけてきた。25~30歳くらいの男性で、僕の記憶が正しければ昨日もいたと思う。ゲーセンの景品と思われるキャラもののTシャツを着ていたので印象に残っていた。
「えっと……」
「あぁ、悪い。見たところ初心者の人かと思ってな」
「いえ、あの……」
「ゲリラマッチングって何ですか!?」
僕の言葉を引き継ぐように、勢い込んで真白がキャラT兄さん(仮)に尋ねる。するとキャラT兄さんは特に驚いた様子もなく説明してくれた。
「ゲリラマッチングってのは、要するに公式プレイヤーとの対戦だ」
「公式プレイヤー?」
「あぁ、このゲームを作ってるLimiCuにはお抱えの公式プレイヤーがいて、たまにオンラインマッチングにもぐって一般プレイヤーと対戦するんだ。ゲーム環境の調査ってのが主な目的らしいぜ?」
「ゲーム環境?」
首をひねる真白。ただ、これくらいなら僕でも説明できる。
「ユーザーがどんなキャラを使っているかとか、ユーザーのプレイスキルがどの程度なのかっていうのをメーカーが調査してるんだよ。でもまさか一般プレイヤーとの対戦までやってるとは思わなかったよ」
「そ、彼氏クンの言う通り。特にこのゲームはオリジナルキャラもいるからバランスが取れているか常に監視する必要性も高いんだろう。ま、確かにユーザー環境まで出張ってくる開発は珍しいな。オレ的にはその方が面白そうだから良いんだけど」
「……あの、彼氏とかではないんですけど、その……」
遠慮がちに補足する真白。うん、もっとしっかり主張して良いぞ。僕みたいなやつが彼氏なんて嫌だと思うから。
「あれ、違った? まあともあれ、相手さん待ってるぜ?」
「あ……やばっ!」
目の前には『承認』と『拒否』のボタンが表示されている。
「普通のオンライン対戦と違ってユーザーに拒否権はあるけど、どうする?」
キャラT兄さんの言葉に、僕は一瞬だけ考える。でも、考えるだけ時間の無駄だった。強くなりたい。その為には、やっぱり強い人と戦う必要がある。なら、もう答えは決まっていた。
「真白……いいかな?」
「もちろん。わたしのキャラと先輩の腕で、公式プレイヤーをけちょんけちょんにするわよ!」
「おうおう、威勢がいい彼女……じゃなかったか、お嬢さんだね」
「はは……」
多分公式プレイヤーをやっているのだから、きっとかなり手ごわい相手なのだろう。でも、こっちだってそう簡単に負けてやるつもりはない。レバーを一度左に倒し『拒否』から『承認』へ移動させ、決定する。
「いっちょやるか!」
『マッチングが成立しました』のシステムメッセージが表示され、記念すべき一人目のオンライン対戦者名が画面に表示された。




