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少女群像

少女群像

 女の子は残酷だ。

 小枝は膝を抱えてセーラー服のスカートに顎をのせるようにして聞くともなしに美奈とちひろの会話を聞いている。


「この前さ、『メガネ』のやつを駅裏で見たのよ」


「うそ、コンバースだった?」


「コンバース、コンバース。あれしか靴持ってないんじゃない?」


「言えてる」


「で、やっぱりあのパーカー着てた」


「ヤバいね。まじであれしか持ってないんだね」


 『メガネ』のことを、小枝は嫌いではない。履きつぶしたコンバースも、グレーのパーカーもおしゃれじゃないけど、教師としてそれほど問題のある服装でもない。いつも着ているせいで多少よれてはいるが、不潔な感じではなかった。


 美奈とちひろも噂話をしてはいるが、メガネを嫌っているわけでも特別な関心を寄せているわけでもない。ただ、噂話をしているだけだ。

 屋上を吹き抜ける爽やかな春風を堪能しているだけだ。

 退屈な昼休みを埋めるために口を動かしているだけだ。 


「メガネって顔キレイだよね」


「そうだっけ」


「私キレイな顔好きだからさ、面談の時とか、ボーッと観察しちゃう。でも髪ボサボサで猫背だからなー。あれはダメだね」


「うん、ダメダメ」


「いっつも片方だけ靴紐ほどけてるし」


「ジーンズの穴、あれ絶対オウンダメージだよね。擦りきれるまで着てただけで、おしゃれじゃないよね」


「絶対ナイナイ。だってメガネだし」


 女の子は恐ろしいほど細かいところまで観察している。小枝はあくびをしながら、自分の背後にある鉄製の扉の影にいるメガネの気配を感じている。

 自分の噂話を聞いてしまって出るに出られなくなった可哀想なメガネ。


「絶対カノジョいないよね」


「カノジョいない歴、年の数でもおかしくないね」


「そういえば、美奈。カレシと喧嘩してたのどうなったの」


「それがさ、聞いてよ……」


 小枝は背中でメガネがホッと息を吐いたのを感じる。

 立ち入り禁止の屋上に居座っている小枝たちを注意しに来たのに何も言えずに戻っていくメガネが履いているコンバースの靴音を聞きながら、小枝はまたあくびをした。


 小枝はメガネのことを、嫌いではない。

 メガネに声をかけてやることも、美奈とちひろにメガネが聞いていたことを話すこともない。

 ただ、小枝も残酷な思春期の女の子の1人だというだけのこと。


 今日も空は青く晴れ渡り、少女たちは青春を謳歌する。


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