パパの腕時計
パパの腕時計
まあくんは、パパが大好き。
朝、目が覚めてパパがもうお仕事に行ってしまっていたら、わあん、と泣く。
夜、パパが7時を過ぎたのにまだ帰ってこない時、「寝なさい」って言われたら、わあん、と泣く。
まあくんは、パパが大好き。
パパは毎朝、ネクタイをしめて腕時計をして四角いカバンを持って、お仕事に行く。
まあくんは玄関でパパに「行ってらっしゃい!」と手を振る。
それから急いで二階に走って行って、二階の窓からパパに「行ってらっしゃい!」と手を振る。
パパはまあくんに手を振りかえして、腕時計を見てから急いで駅に歩いて行く。
まあくんは毎朝、「パパが毎日、おうちにいたらいいのになあ」とつぶやく。
ある朝、まあくんは、すごくいいことを思いついた。
「そうだ。腕時計の時間を、パパがおうちに帰る時間にしておけばいいんだ。パパは腕時計を見てすぐにおうちに帰ってくる」
まあくんは、こっそりパパのようすをうかがった。
パパは洗面所でヒゲをそっていた。まあくんは、そうっとそうっとパパの部屋にむかうと、パパの腕時計をグルグルと回して、パパがいつもおうちに帰ってくる時間に合わせた。
「これで今日はパパがおうちにいるぞ!」
まあくんは、わくわくして待っていた。
何も知らないパパはヒゲソリが終わると服を着替えて、ネクタイをしめ、腕時計をつけて玄関に向かった。
まあくんも一緒に玄関に行く。
「あれ? まあくん、今日は行ってらっしゃいってしてくれないのかい?」
パパに聞かれて、まあくんは黙って手を振った。
行ってらっしゃい、は言わなかった。だって、パパはすぐに帰ってくるんだから。
パパが玄関から出て行くと、まあくんは二階にかけ上がって、窓からパパを見つめた。
パパはまあくんがいつもと違うことに首をかしげたけれど、まあくんに手を振った。
まあくんも、黙って手を振った。
パパは腕時計を見て、いつもどおり駅に向かって歩いて行った。
「あれえ!? なんで、なんで?」
道の向こうに渡っていったパパの背中に、まあくんは叫んだ。
けれど、パパには聞こえなかったようで、パパはそのまま歩いて行った。
まあくんは、わあん、と泣いた。
ママがまあくんの泣き声に驚いて二階に上がってきた。
泣いているまあくんから話を聞いたママは、くすくすと笑った。
「まあくん、パパが帰ってくる時間はね、パパがお出かけする時間と同じなのよ」
まあくんは、ママの言葉がわからなくてキョトンと泣きやんだ。
壁の時計は7時をさしていた。




