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カフェインレス、ラブレス
カフェインレス、ラブレス
「マヨちゃん、コーヒー飲めないって、ほんと?」
マヨは、サイホンの最後の一滴を息をつめて注ぎ、たっぷり10秒制止した。それはコーヒーを注ぐときのマヨのおまじないだ。美味しいコーヒーでありますようにという祈りでもある。
雫の切れたサイホンを静かにカウンターに戻してから、マヨはニッコリ笑って言う。
「飲めないんじゃなくて、飲まないんですけどね」
コーヒーカップを常連客の目の前に出しつつ答える。
「え、それは何?職業的な規則とか?」
営業中の休憩に立ち寄ったスーツ姿の青年に問われ、マヨは軽くため息をつきながら苦笑いで答える。
「いえ。私、喘息があるのですが。カフェインが喘息の急性薬になるんで、控えています」
「急性薬?」
「はい。一時的に気管を拡張して呼吸を楽にしてくれます。もし道端で発作が起きた時に、薬として使えるように、普段は飲まないようにしています」
「へぇー。コーヒーにそんな効果あるんだ?僕なんか朝昼晩コーヒー飲みつづけてるから、夜中にコーヒー飲んでもグッスリ眠れるんだ。マヨちゃん、コーヒー飲んでよ、僕のオゴリ」
「ええ?今夜、眠れなくなりますよ?」
「だからさ。今夜は僕が、寝かせないよ」
二人は見つめ合い、見つめ合い、まだ見つめ合い。
マヨは突然、プー!と吹き出した。




