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爪切りで爪が切れない

爪切りで爪が切れない

 彼女に去られてから俺の爪は伸びる一方だ。彼女は潔癖症で伸びた爪が我慢ならないタチだった。毎夜、プチプチと俺の爪を切った。おかげで俺はすっかり深爪になってしまった。

 爪を徐々に深く切っていくという拷問があるらしい。俺は彼女に責められ続けていたのかもしれない。毎夜毎夜、彼女は俺に憎しみをぶつけていたのかもしれない。


 彼女をあの男から救い出したのは俺だ。殴られることに慣れきった彼女は俺の言葉をなかなか理解してくれなかった。あの男と別れれば幸せになれるということを。俺は長い時間をかけて彼女を説得した。その間にも彼女のアザは増えていった。とうとう我慢できなくなった俺は彼女をさらって遠くに逃げた。


 しばらくは彼女は男のところに帰りたがった。俺は彼女を抱きしめ愛をささやき続けた。そのうち彼女は俺の言葉を信じてくれるようになった。そのころからだ、彼女が俺の爪を切るようになったのは。

 はじめのうち、爪を切られるたびその痛みに顔がゆがんだ。彼女は俺の顔など見もせずにプチプチと爪を切り続けた。痛みにだんだん慣れてくると、爪を切られる時間が待ち遠しくなった。愛があれば痛みも快楽に変わるのだと俺は知った。

 もしかしたら彼女もそうだったのかもしれたい。日々、殴られながら愉悦にひたっていたのかもしれない。殴られることがない生活は不幸なのかもしれなかった。


 彼女が俺から去った朝、一行だけの書き置きが残されていた。。


「さようなら。さようなら。」


 彼女は俺のことを、はたして愛してくれていたのだろうか。二度繰り返された「さようなら」は名残の気持ちか、それとも鬱憤を晴らすためのまじないか。俺には分からなかった。そして俺は爪が切れなくなった。爪を切ってしまったら、彼女の気持ちが分かってしまう気がして。

 俺の爪はどこまでも伸びて、どこかに引っ掛かり、一枚ずつ剥がれてしまうだろう。その痛みは彼女を思い出させるだろう。だから、俺は爪が切れない。

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