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ねこのレーニン  作者: るびー
1章 第二常備軍始動
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後宮にて

 「さて、貴方はどこの機関の工作要員なのでしょうか」

 「随分と直截ですねぇ。ご質問の趣旨を理解しかねるのですが」


 同居人とメイドが睨み合う。外観上は見事なメイド対決である。片方の得物はP90で、もう片方の得物はその辺にあった銀色のお盆である。観測結果は火力の優位の所在を明瞭に示している。


 王城後宮、白亜の大理石とホルミシス効果の存在を期待したい光石に彩られた壮麗な居住区画は、今や剣呑極まりない最前線と化していた。主に同居人のせいである。調べ物の最中ずっと待ちぼうけだったらしいメイドと型通りの挨拶を交わし、宛がわれた部屋に入ったと思ったら早速この非友好的なやりとりである。少し、老獪さが足りないのではないだろうか。


 なんとなく付いてきてしまったエリオは緊張緩和の糸口を探しているようだが、涼しい顔で銃を突き付ける同居人に隙はない。結果的に首を振って両者を交互に見遣りつつ、おろおろしている。少年の頭の上に陣取るレーニンは、尻尾を丸くしながらただ角加速度を感じていた。


「この種の質問に深い理解など不要でしょう」


 さあ、疾く答えよと言わんばかりに同居人は言い放つ。


「うう……どうしてこう早速疑いをかけられなければならないのですかぁ」

「暗器と毒物で完全武装ではありませんか」

「……あっ」


 勝負は意外と早く着いた。


「しかし、そんな細くて強靭な金属ワイヤーを製造する設備があるのですね。どうやらその辺についても聞き出す必要がありそうです」

「あー、あのー、そのー……」

「これ以上粘るならさっくりと射殺しますので、そろそろ吐いてください。楽になれますよ」


 粛々と同居人は最後通牒を発する。メイドさんは膝から崩れ落ちていた。なんとも強引な勝利である。


「王立騎士団従騎士のサーラです。国王陛下の命により勇者様の身の回りのお世話を仰せ付かりました。ええと、身辺警護も含めて」

「影士隊の一部門ですか」

「確かに似たような仕事もしますが、彼らとはまた別です。団長の耳目といったところでしょうか」

「影士隊って何……?」


 思わず疑問を口にしてしまった少年に鋭い視線が突き刺さる。小さく震えてごめんなさいごめんなさいと呟くが、微振動が腹に伝わってレーニンとしては殊の外気分が悪い。思わずうにゃーと低く鳴く。


「先刻対面した真っ黒な方々のことです。王立騎士団内部の汚れ仕事専門部隊といったところでしょうか。貴方が知らないところをみると、存外秘匿性の高い組織なのですね」

「日向の方には縁遠いのは確かでしょう。そのまま忘れて頂けると有難いのですが」

「ああ、うん、そうする、そうするよ!」


 素直でよろしいことである。同居人に負けず劣らず根性の歪んでいるレーニンはしっかり記憶に焼きつけることとした。国王に刃向えばあれに追い回されることになるのだろう。


「事情は概ね呑み込めました。しかし、私はSPが嫌いなのです。レオーニが欲しくてたまらない定時報告については邪魔しませんが、その暗器の類は没収します」


 そう言うと、同居人は手早くメイドの手元から金属製ワイヤーを、懐から針と毒々しい色をした液体を含む小瓶を、髪留めから仕込み刀を回収する。色々と仕込んであるものである。


「さて、サーラ。貴方に一つ大切なお仕事をあげましょう」


 同居人は押収物を検分しながら徐に語りかける。何気ない一言が妙に不穏なのは、専ら同居人の人徳によるものである。メイドはビクっと身を固くして、同居人の顔を窺う。


 大方の予想に反して、同居人の要求は穏当なものだった。


「レーニンのごはんを調達してきてください」

「レーニン……?」

「エリオの頭の上に乗っているふてぶてしい猫です」


 にゃーとレーニンは鳴く。ふてぶてしいとは何だ。


「ああ、なるほど」

「寄り道しても構いません。あらゆる方策を尽くして何かいいものを調達してきてください」

「善処しましょう。料理長に相談してきますね」


 そういうと、メイドは足早に部屋から退出する。どうやら同居人の手腕によって何かいいものが食べられるらしい。にゃにゃとレーニンは尻尾を振る。本当にいいものが出てくるか予断を許さないところだが、先程の暴言は水に流してもよさそうである。


「よかったじゃないか」


 少年が三毛猫の頭を撫でる。その瞬間、レーニンの背筋を何か冷たいものが駆け抜けた。気付けば、同居人の金色の瞳が、じっとそのやりとりを凝視している。どうやら何かにご立腹らしいとレーニンは確信する。しかし、何があったというのか。浅からぬ付き合いの三毛猫にもよくわからない。


「さて、邪魔者は排除しました。これでゆっくりと大切な話をすることができます」

「へ? なにそれ」


 目前に危機が迫っているが、少年は気付かない。沈みゆく船から逃げ出す鼠のように、レーニンはそっと少年の頭から退去した。




 同居人の論旨は大要、どうして貴様は私の猫とそんなに仲が良いのだというものである。平たく言うと嫉妬しているらしい。何とも面倒なやつである。


 レーニンからすれば、少年と三毛猫の間に特別の関係はない。同居人との間の身体的接触の稀薄性は、専ら同居人の不適切な猫の取り扱いに起因すると言うべきなのだが、そんなことを反省する同居人ではない。主に肋骨の保全のため、特別の事情のない限りは半径1m以内に近寄りたくないだけで、別に嫌いじゃないんだよと言ってあげたいところだが、それが叶わないのが猫の身の辛さである。しかし、言ったら言ったで、逆上した同居人にじゃぶじゃぶされそうなので、痛し痒しである。


「そういうわけで、貴方に相応しい仕事をあげましょう。レーニンの世話担当です」


 口調こそ淡々としている同居人だが、見事な涙目である。こういう時に頑丈なニキタを生贄に捧げると事態を丸く収拾できるのだが、不幸なことにあの毛玉は遥か時空の彼方である。


「この猫の世話をすればいいの? 別に構わないけれど……」


 今一つ要領を得ないらしいエリオは、困惑しながらも承諾を伝える。途端に同居人が牙を見せて威嚇し始めるのだから、なんとも支離滅裂である。同居人は耳も長いが犬歯も長い。あれに噛まれたら痛いだろうなと三毛猫は暢気な感想を抱くが、流石にそういう場合ではない。今思案すべきは、肋骨を保全しつつ、存外沸点の低い同居人の暴発を阻止する方策である。


 同居人は要するに身体的接触を、もふもふを求めているのである。同居人の周囲に一定時間留まれば捕縛され、レーニンの肋骨が危険に曝される。以上の制約条件を勘案すれば、同居人に対応する暇を与えずもふっとして、そのまま離脱する一撃離脱戦術が有効であろう。


 そうと決まれば善は急げである。三毛猫は素早く少女の死角に移動すると、静かにテーブルに飛び乗り、肩へのアプローチを狙う。飛び乗って、頬擦りして、次の瞬間に飛び退く算段である。幸いにして同居人は潤んだ瞳でエリオを睨みつけることに夢中なので、隙だらけだった。


「いや、まあ、僕はどうすればよかったんだろう……」

「喜べば良いではありませんかっ!」

「一体何をどう喜べって言うんだ……」


 困惑する少年を横目で眺めながら、レーニンはアプローチを決行する。スケジュールはシビアだが、後は遠足のような難度である。


 しかし、誤算が生じる。同居人に気付かれたのである。黙ってエリオに理不尽を突き付けていればいいというのに、レーニンの方を向こうとする。着地点に変化があろうとなかろうと、一度飛び出した三毛猫の軌道は変わらない。これはまた肋骨に無理をさせることになりそうである。どんどん近づく同居人を観測しながら、レーニンはそんな風に考える。


 誤算は重なる。同居人の側もリアクションタイムが不足していたらしい。受け入れ準備が間に合わない。結果として、同居人の胸部をもふっとした三色の弾体が強打するという事態を生じる。バランスを崩した同居人はそのまま崩れ落ちて、後頭部を強打する。一瞬ピクっと痙攣して、それから動かなくなった。


「あ、ちょっと、大丈夫?」


 エリオが慌てて駆け寄る。ゆさゆさと揺すってみるが、完全に気を失っているらしい。慌てず騒がず、レーニンは同居人の手首に肉球を当て、脈をとる。しかし、同居人は低血圧なのである。うまく計測できない。仕方がないので、同居人の顔面に座り込む。微かな呼吸を感じ、ようやく生命には問題なさそうだという所見を得る。満足げにレーニンはにゃーと鳴く。


「ああ、だめだよレーニン、窒息しちゃうよ!」


 間髪入れずに、三毛猫の身柄は回収される。


「勇者様、ご要望の品をお持ち……ってあれぇ?」


 メイドが戻ってくるのは存外早かった。先程まで猛威を振るっていた同居人が見事に無力化されていることに困惑しつつも、特務畑の人らしく的確にエリオから情報を引き出し、対処にあたる。要するに寝かせることにしたのである。


 ちなみに、メイドが調達してきたのは高級そうな生肉一切れである。料理長曰く、猫が相手なら変に小細工するよりも、素材の味で勝負した方が良いのではないかとのことらしい。目論見は見事に成功したと言うべきであろう。同居人が目覚めた後の事後処理に不安が残るが、ひとまず満足したレーニンも丸くなって寝ることとした。









──イセリスは信号を検出。


──QVAは信号の解読を完了。


──発、二課別室。宛、局長。

王国は勇者召喚を実施。国王一派はこれを機に帝国と別個に王国の利益を追求する旨に言及。

勇者はエルフの女児。金髪金眼。未知の道具を扱い、国王一派と対等に交渉する能力あり。権力欲旺盛。我等に対する並々ならぬ敵意を見せ、軍権を求める。国王はこれに応え、我等に対する新たな戦力として勇者を長とする第二常備軍を編成する模様。

二課別室は勇者の動向について注視する必要を感ず。


──CAは信号を観測データベースに登録。


やっと初日が終わったよ!

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