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中華五千年――農民皇帝と、誇張された軍勢の物語  作者: レモンティー


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第七話:かつて友だった者へ 龐涓(ほうけん)と、孫臏(そんぴん)

戦国の世・春秋戦国。

才ある者は、武器であり――同時に、最も危険な存在でもあった。

鬼谷(きこく)の山中。

二人の若者が、同じ師のもとで兵法を学んでいた。

龐涓(ほうけん)と、孫臏(そんぴん)。

互いに才を認め合い、共に学び、共に語り合った日々。

だが――

その均衡は、やがて崩れる。

「……なぜだ」

龐涓(ほうけん)は、拳を握りしめていた。

自分も優れている。

だが、孫臏(そんぴん)は――その上をいく。

戦を語れば深く、

策を論じれば鋭く、

まるで未来を見ているかのようだった。

その才能が、恐ろしくなった。

「このままでは……俺は勝てない」

やがて、龐涓(ほうけん)は魏(ぎ)の国へ仕官し、将として名を上げる。

だが、その地位に立ってなお――

彼の心から消えない影があった。

孫臏(そんぴん)。

「奴が来れば、すべて奪われる」

そして、彼は決断する。

友を呼び寄せる。

――罠として。

「久しいな、孫臏(そんぴん)」

再会の言葉は、穏やかだった。

だがその裏にあるものを、孫臏(そんぴん)はまだ知らない。

数日後。

孫臏(そんぴん)は捕らえられた。

「なぜだ……龐涓(ほうけん)」

問いに、龐涓(ほうけん)は答えない。

ただ、冷たい目で見下ろす。

「お前は、強すぎる」

そして命じた。

膝の骨を砕き、足を断つ刑――「刖(げつ)」。

さらに、その顔に入れ墨を施す。

人としての尊厳を奪う、極刑だった。

悲鳴が、石の間に響く。

その日、孫臏(そんぴん)は――すべてを失った。

だが。

心までは、折れなかった。


やがて、彼は静かに振る舞いを変える。

笑わなくなり、

語らなくなり、

時に意味のない言葉を呟く。

――狂ったふりをしたのだ。

看守たちは嘲る。

「天才も、ここまでか」

だが、その噂は外へと流れる。

ある日。

魏(ぎ)に滞在していた斉(せい)の使者が、その話を耳にした。

「孫臏(そんぴん)……まだ生きているのか」

使者は密かに面会を求める。

牢の中。

痩せ細った男が、虚ろな目で座っている。

だが――

一瞬だけ、光が走った。

それで十分だった。

「……この男は、生きている」

使者は確信する。


数日後。

宴が開かれた。

使者は贈り物を献上し、歓待を受ける。

酒が進み、夜が更ける。

警戒は、緩む。

その隙だった。

孫臏(そんぴん)は、荷車の中へと隠される。

布の下。

息を殺し、ただ耐える。

見つかれば終わり。

だが――

止まらない。

門を抜ける。

誰も気づかない。

やがて、城を出る。

そして――

魏(ぎ)を離れた。

夜明け。

遠くに城壁が小さくなる。

その時、初めて。

孫臏(そんぴん)は、静かに目を閉じた。

「……終わっていない」

すべてを奪われた。

だが、まだ残っているものがある。

知略。

そして――

復讐。


斉(せい)の国へと逃れた、孫臏(そんぴん)は軍師として迎えられる。

その名は、やがて戦場に響き渡る。

そして――

運命は、再び二人を引き合わせる。

馬陵(ばりょう)。

夜の山道。

だが、その戦いは――すでに始まっていた。

数日前。

敗走した斉(せい)の軍を追っていた魏軍(ぎぐん)は進軍しながら、奇妙な報告を受ける。

「斉軍(せいぐん)のかまどの数が……減っています」

初日は多く、

二日目には減り、

三日目にはさらに減っていた。

兵の数が減っている証。

逃亡している証。

龐涓(ほうけん)は、ほくそ笑む。

「臆したか、孫臏(そんぴん)」

追撃を命じる。

「今こそ討つ。逃げる敵など、恐れるに足らぬ」

だが――

それは、すべて計算だった。

孫臏(そんぴん)は、わざと敗走を装い、

かまどの数を減らして見せた。

兵が逃げていると、思わせるために。

追わせるために。

深く、さらに深く――罠の中へ。


そして今。

夜の山道。

魏軍(ぎぐん)は、進んでいた。

龐涓(ほうけん)は自信に満ちていた。

「孫臏(そんぴん)など、恐れるに足らぬ」

だが――

道の途中。

一本の木に、文字が刻まれていた。

「龐涓(ほうけん)、ここに死す」

その瞬間。

胸の奥に、何かが走る。

嫌な予感。

だが、もう遅い。

次の瞬間――

闇が、弾けた。

四方から、無数の矢。

火の光が、山を照らす。

伏兵。

完全なる包囲。

「……孫臏(そんぴん)か」

龐涓(ほうけん)は、ようやく理解した。

すべて。

この戦場。

この道。

この夜。

すべてが、計算されていたのだ。

逃げ場はない。

兵は崩れ、叫びが飛び交う。

その中で、龐涓(ほうけん)は立ち尽くす。

ふと、笑った。

「見事だな……孫臏(そんぴん)」

剣を抜く。

そして、静かに自らの喉元へ向ける。

「だが――これで終わりだと思うな」

かすかな声。

それは、悔しさか、あるいは――

最後まで消えなかった、競争心か。

刃が走る。

血が、闇に溶ける。

龐涓(ほうけん)は倒れた。

その死をもって、戦は決した。


遠く、陣の奥。

孫臏(そんぴん)は報告を受ける。

「……終わったか」

静かな声だった。

喜びはない。

ただ、長い時間が終わったという――

深い、疲れだけ。

かつての友。

共に学び、共に夢を語った日々。

それはもう、戻らない。

「これが……戦か」

誰にも聞こえぬように、呟く。

風が吹く。

夜は、何も語らない。

ただ一つ確かなのは――

この戦国の世・春秋戦国の時代は、

才は、時に友情すらも引き裂くということだった。

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