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中華五千年――農民皇帝と、誇張された軍勢の物語  作者: レモンティー


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2/14

第二話:臥薪嘗胆 ― 越王勾践(こうせん)、二十年の復讐

春秋時代。

中国の南方に、二つの国があった。

えつ

そして

長年、互いに領土を争い、憎しみ合ってきた宿敵同士だった。

その頃、えつの王だった男――

勾践こうせん

彼は若く、誇り高い王だった。

「我が越が、呉に負けるはずがない」

そう信じていた。

しかし――

戦場で待っていたのは、現実だった。

呉王ごおう夫差ふさ

父を越に討たれたことで、復讐心に燃える男だった。

夫差ふさは軍を鍛え上げ、越へ侵攻。

激しい戦いの末――

越軍は敗北した。

「王よ……撤退を!」

臣下たちは叫ぶ。

しかし、勾践こうせんは逃げなかった。

「私は王だ。国の運命から逃げることはできない」

そして彼は決断する。

呉へ降伏する。

それは、生き延びるための選択だった。

しかし待っていたのは――

王としての死よりも苦しい日々だった。


呉王・夫差ふさは、勝者としての余裕を見せた。

越王・勾践こうせんを――殺さなかったのだ。

それは情けではない。

屈辱の中で生かし続けることで、完全な勝利を示すためだった。

――呉王 夫差ふさは勝者の余裕で 越王 勾践こうせんを殺さず生かしたのである。


呉の都。

かつて王座に座っていた勾践こうせんは、今や敵国の捕虜だった。

粗末な服。

低い身分。

命令されれば従うだけの日々。

ある日。

勾践こうせんは呉王 夫差ふさの前に呼び出された。

勾践こうせんよ」

夫差ふさは笑う。

「お前はかつて王だったな」

「……」

「ならば、その王がどこまで落ちることができるか見てやろう」

その言葉は、刃物のように心をえぐった。

国を失った屈辱。

家臣を失った悲しみ。

敵に頭を下げなければならない怒り。

すべてが胸の中で燃え上がる。

怒りで身体が震えた。

しかし――

勾践こうせんは黙って頭を下げた。

耐えた。

ここで怒りを見せれば終わる。

ここで逆らえば、命を失う。

そして――

越の国を取り戻す未来も消える。

国も。

民も。

復讐の機会も。

王としての誇りを捨てるのではない。

いつか復讐を果たすために、今は耐えるのだ。

こうして勾践こうせんは、呉の奴隷としての日々を送ることになった。


数年後。

呉王 夫差ふさ勾践こうせんを信用するようになった。

「もう脅威ではない」

そう思ったのだ。

そしてついに、

「越へ帰ることを許そう」

と言った。

勾践こうせんは故郷へ戻った。

しかし――

そこからが本当の戦いだった。

王宮へ戻った勾践こうせんは、以前のような贅沢を捨てた。

柔らかな布団では眠らない。

豪華な食事も取らない。

そして寝室には――

一本の薪を置いた。

毎晩、その薪の上で眠った。

痛みを感じるたびに思い出す。

「私は敗者だ」

「私は屈辱を忘れてはいけない」

さらに部屋には、

苦い肝を吊るした。

毎日、それを舐める。

苦さが口に広がる。

そのたびに思い出す。

呉で味わった屈辱を。

夫差ふさの笑顔を。

自分が奴隷だった日々を。

これが後世に伝わる言葉――

臥薪嘗胆。

薪の上に寝て、苦い肝を嘗める。

復讐を忘れないための誓いだった。

しかし勾践こうせんは、ただ怒りに燃えていたわけではない。

彼は冷静だった。

まず国を豊かにする。

農業を発展させる。

人口を増やす。

兵士を育てる。

武器を整える。

そして何より――

民の心を取り戻す。

「強い国とは、強い軍だけではない」

「民が、この国のために戦いたいと思う国だ」

勾践こうせんはそう考えた。

十年。

二十年。

長い年月が過ぎていった。


その頃、呉では変化が起きていた。

夫差ふさは父の復讐を果たしたことで、次第に慢心していった。

巨大な宮殿を建てる。

贅沢な暮らしをする。

軍事よりも、自分の栄華を求めるようになる。

臣下たちは警告した。

「王よ。越を警戒すべきです」

しかし夫差ふさは笑った。

勾践こうせんなど、もはや恐れる存在ではない」

その言葉を聞いた越では――

静かに軍が動き始めていた。


ある日。

勾践こうせんは地図を広げた。

臣下たちが集まる。

「時は来た」

その一言で、部屋の空気が変わる。

「二十年間、我々は耐えた」

「今日まで流した涙も、屈辱も、すべて意味がある」

「今こそ、越の力を示す」

越軍は北へ進軍した。

かつて敗北した相手へ。

今度は自ら攻め込むために。

呉軍と越軍が激突する。

しかし、かつてとは違った。

越の兵士たちは強かった。

国のため。

家族のため。

そして、二十年間耐え続けた王のため。

戦いは次第に越へ傾いていく。

「なぜだ……」

夫差ふさは震える。

「なぜ、あの勾践こうせんが……」

かつて自分の前で頭を下げた男。

奴隷だった男。

その男が今、自分を追い詰めている。

ついに。

呉の都は陥落した。

呉王 夫差ふさは敗北した。

かつて勝者だった男が、

今度は敗者となった。

勾践こうせん夫差ふさの前に立つ。

二十年前とは逆の立場だった。

「覚えているか」

勾践こうせんが静かに言う。

「私は、あなたの前で何度も頭を下げた」

夫差ふさは目を伏せる。

「だが……」

勾践こうせんは剣を下ろした。

「憎しみだけで王にはなれない」

その言葉には、二十年分の重みがあった。

こうして、

越王勾践こうせん夫差ふさを射ち、宿敵・呉を滅ぼした。


一度すべてを失った王 勾践こうせん

笑われ。

辱められ。

それでも諦めなかった男。

彼が残したものは、単なる復讐ではない。

それは――

「敗北した者でも、時間と努力を武器にすれば、運命を変えられる」

という歴史上最も有名な逆転劇だった。

後世の人々は、この物語をこう呼んだ。

臥薪嘗胆がしんしょうたん勾践こうせんが薪の上で寝て、苦い胆を舐めて復讐を忘れない伝承

「目的を達成するために、苦しい努力や屈辱に耐え、復讐や成功の機会を忘れないこと」

二十年の屈辱が、一国を滅ぼす力になった瞬間である。

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