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中華五千年――農民皇帝と、誇張された軍勢の物語  作者: レモンティー


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第一話:底辺から皇帝へ――中華史最大の成り上がり伝説

中国史。

それは、世界でも類を見ないほど壮大な物語である。

広大な大地。

無数の民族。

幾度も興亡を繰り返した王朝。

そこには――

英雄の誕生。

帝国の繁栄。

そして、滅亡。

すべてが詰まっている。

まるで、一万冊の小説を一つの国が書き続けてきたかのようだった。


中国の歴史で特に人々を驚かせるのは、

「何者でもなかった人間が、天下の頂点に立つ」

という物語である。

例えば――

朱元璋しゅ げんしょう

彼は皇帝の血筋ではなかった。

貴族でもなかった。

幼い頃から飢えに苦しみ、家族を失い、寺で生き延びた農民の少年だった。

しかし時代が彼を変えた。

乱世の中で兵を率い、

人を集め、

敵を倒し、

最後には中華の皇帝となった。

かつて、

一粒の米にも困った少年が――

玉座に座ったのである。

※元を倒して北に追いやり、みん王朝を建国した初代皇帝。洪武帝こうぶていとなった人物。


そしてもう一人。

劉邦りゅうほう

彼もまた、特別な家柄ではなかった。

戦の名門でもない。

ただの地方役人。

周囲から見れば、

「天下を取る器ではない」

と思われる人物だった。

しかし彼には、人を惹きつける力があった。

優秀な武将。

優秀な軍師。

優秀な政治家。

自分より能力の高い者たちを集める才能。

その力で、

最強の武将と呼ばれた

項羽

を破り、

漢王朝を築いた。

※農民出身で秦の滅亡後の楚漢戦争で楚の項羽を破り、漢王朝成立を成し遂げた漢の初代皇帝(漢高祖)。


さらに異色なのが、

石勒せき ろく

彼の人生は、信じられないほど過酷だった。

もともとは支配階級ではなく、

戦乱の中で奴隷として扱われた身だった。

しかし乱世は、身分の壁を破壊する。

才能と武力を持つ者が上へ進める時代。

石勒は軍を率いるようになり、

やがて自らの国を建て、

皇帝となった。

奴隷だった男が、

かつて自分を支配した者たちと同じ「王座」に座ったのである。

※もとは匈奴系の出身で、奴隷から皇帝にまで上り詰めた五胡十六国時代の後趙こうちょうの建国者。


そして近代中国にも、

洪秀全こう しゅうぜん

という人物が現れる。

農村出身の青年。

何度も科挙に失敗し、

社会から認められなかった男。

しかし彼は独自の思想を掲げ、

巨大な反乱勢力を作り上げた。

「天王」と名乗り、

一時は清王朝を揺るがすほどの勢力となった。

※「天王」を名乗り、大規模な反乱を起こした清末の太平天国の指導者。


なぜ中国では、このような人物が何度も現れたのか。

理由の一つは、

中国が何度も「破壊と再生」を経験したからである。

王朝が腐敗する。

民衆が苦しむ。

反乱が起きる。

古い支配者が倒れる。

そして、新しい英雄が現れる。

この繰り返しだった。


しかし、中国史のもう一つの特徴がある。

それは――

支配する民族そのものが変わること。

中国という巨大な土地は、何度も外部勢力の侵入を受けた。

北方の遊牧民族。

草原の騎馬民族。

異なる文化を持つ勢力。

彼らは時に侵略者として現れ、

時に中国を支配する新しい王朝を築いた。

例えば、

靖康の変では北方民族の勢力が宋を崩壊させ、

後には

元王朝

が中国全土を支配した。

さらに後には、

清王朝

が巨大な帝国を築いた。

中国史とは、

「同じ国が続いた歴史」

ではなく、

「何度も別の勢力が入り、新しい時代を作った歴史」

でもあった。


そして、もう一つ。

中国の歴史書には、

時として巨大な数字が登場する。

「百万の軍勢」

「十万の騎兵」

「数十万の兵士」

古代の戦争記録には、非常に大きな兵数が記されることがある。

もちろん、すべてが嘘というわけではない。

しかし当時の記録では、

敵を恐れさせるため、

味方の威勢を示すため、

勝利を大きく見せるため、

数字が誇張されることもあった。


中国には「号令」と呼ばれる手法があり、他勢力を威圧するために、実際の兵数を大きく誇張して伝えることがあった。

時には兵数を十倍以上に盛り、

「これから大軍で攻め込むぞ」

と相手に恐怖を与え、戦う前から優位に立とうとしたのである。


たとえをあげると――

戦場では、兵数そのものが武器だった。

敵に向けて使者が叫ぶ。

「我が軍は十万!」

「いや――百万を超える大軍が、まもなく貴国へ押し寄せる!」

城壁の兵士たちは息を飲む。

百万の軍勢。

その数字だけで、戦う前から恐怖が広がっていく。

しかし、実際の兵数はその数字には遠く及ばない。

それでも、大きく掲げられた数字は敵の心を揺さぶった。

これもまた、戦争における心理戦だった。

戦争とは、

剣や槍だけではない。

情報。

噂。

威圧。

心理戦。

すべてを使った戦いだった。


これが戦場における「号令」。

敵を威圧し、自軍を強大に見せ戦う前から「勝てるはずがない」と思わせるための心理戦だった。

戦いは、武器がぶつかる前から始まっていたのである。

そして、その数字は歴史書にも記されていく。

「百万の大軍が進軍した」

「数十万の兵が激突した」

壮大な数字は、時代を超えて語り継がれる。

もちろん、すべてが虚構というわけではない。

巨大な国家では本当に大軍が動くこともあった。

しかし、勝利や威厳を示すため、数字が大きく表現されることもあった。

その結果――

中国史の戦争は、時に現実以上の壮大な物語として後世に残った。


一方、日本の歴史を見る。

例えば、

関ヶ原の戦い。

天下分け目の戦い。

東軍と西軍が激突した、日本史上最大級の合戦である。

両軍合わせて約15万〜17万人規模と言われる。

もし、この戦いでも敵を威圧するために、

「我が軍は百万!」

「敵軍は五十万!」

と、実際以上の数字が記録されていたなら――

後世の人々が見る関ヶ原は、さらに巨大な戦争物語として世界的に受けて語られていたかもしれない。


中国史が面白い理由の一つは、

事実そのものだけではなく、

そこに残された巨大なスケールの物語にもある。

農民が皇帝になる。

奴隷が王になる。

数十万、時には百万とも伝えられる軍勢がぶつかり

英雄たちが天下を争う。

まるで神話のような世界が、歴史書の中に広がっている。

しかし、日本史のスケールが小さいわけではない。

日本の歴史記録は、比較的「実際の規模」を重視する傾向があり、戦力や出来事を現実的な数字で残してきた。

そのため、中国史のような「巨大な数字による迫力」と比べると、物語としての印象が違って見える。

簡単に言えば、物語として見た場合、スケールが小さく感じられてしまうのである。

結局、スケールの違いから子供受けするのはやはり中国史である可能性が高いという現実がある。


中国史は――

現実に起きた歴史の中へ、伝説や誇張された虚構の物語が織り込まれ、英雄たちの叙事詩のような壮大な世界が形作られている。


日本史は――

日本の歴史は、限られた国土や兵力の中で、

武将たちの知略。

兵士たちの覚悟。

緻密な戦術。

人間同士の駆け引き。

そうした部分が強く描かれている。


中国史が、

巨大な国家と英雄たちがぶつかる壮大な歴史ドラマ

だとすれば、

日本史は、

限られた力の中で、人間の知恵と決断が輝く歴史ドラマ

なのである。


どちらも違う魅力を持っている。

歴史とは、単なる数字の記録ではない。

勝者が残した記録であり、

敗者が残した想いであり、

そして――

人々が後世へ伝え続けた、

壮大な物語そのものなのだ。


中国史とは、不思議な世界である。

農民だった男が皇帝になる。

奴隷だった男が王になる。

異民族が中国を支配する。

巨大な帝国が一夜で崩れる。

そして、歴史書には英雄たちの姿が何倍にも大きく描かれる。

まるで――

現実世界で繰り広げられた、

最も壮大な大河ファンタジー。

それが中国五千年の歴史なのである。


「中華五千年」という、世界最大級の歴史ドラマの物語の一部を抜粋する。

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