第一話 古民家
最初だけちょこっとホラー。
二話目からはほんわかします。
是非、三話目まで足を運んでもらえたら嬉しいです。
三話で可愛い?猫又が出てきます。
よろしくお願いします。
──バタバタバタバタ
「な、なんだ⁉︎」
何かが天井を走っている音で目が覚めた。
目が覚めたのに目を開くことができない。叫んだはずの声もかすれた息となって消えてしまった。
まるで石になってしまったかのように身体が動かせない。
──なんだよ、これ……。
必死にもがくが、首から下が鉛になったように重い。込められる力のすべてを振り絞って足掻いた、その瞬間。ふっと身体が軽くなった。
──助かった……のか?
安堵の息を吐き出しかけたときだった。
「「あーそーぼー?」」
幼い無邪気な声が降ってきた。
冷たいものが背筋を走り、固まった首を無理やり動かす。恐る恐る天井を見上げると──
何か小さな影が俺に向かって落ちてきた。
「きゃー‼︎」
「ぐえっ」
その塊が腹へと直撃し、カエルが潰れたような声が口から漏れた。
「まじ……なに……? 死ぬ……」
痛みに呻いていると、再び腹へと衝撃が走った。
「わー!!」
「おえっ」
一度でいいだろ、一度で。
そう訴えたくなるほどの激痛が腹を貫き、呼吸が詰まる。身を丸めようにも、腹の上に乗った何かが重しとなって思うように動けない。
「ちょ……どいて……。死ぬ……」
息も絶え絶えに訴えかけると、それは「きゃはは!」と楽しそうに叫び、お腹の上から走り去っていった。
周りを駆け回るドタドタという音に包まれながら、激痛と戦い身体を丸くする。
「なんだよ……まじで……」
ぼんやりと歪んだ視界には、赤と青の着物を着た二人の子供が走っているのがうっすらと見えた。
──座敷わらし……?
今日一日の出来事がフラッシュバックする。
俺の意識は、静かに闇へと沈んでいった。
⸻⸻⸻⸻
数時間前。
俺は、一軒の古民家を前に立ち尽くしていた。
「いや、嘘だろ……」
外壁は剥がれ、塀も今にも崩れ落ちそうだ。庭には膝丈まで伸びた雑草が生い茂り、荒れ果てている。
そんな廃屋同然の建物。
それが俺が購入したばかりの一軒家だった。
「ヤバすぎるだろ」
購入前に見た写真と比べると、雲泥の差だ。
イライラしながらスマホを取り出し、不動産屋の番号を呼び出す。
──トゥルルル、ガチャ
『はい、SG不動産 井上です』
「もしもし、柏木です。なんですか、この家」
開口一番、イライラした口調になってしまったが仕方がない。
『なんですか……って、なにかありましたか?』
「なにかって……、ふざけてるんですか!?買った家、ボロボロなんですけど!」
『あー。うちは仲介しただけなので。売買後については直接やり取りしていただくしかないですね』
──こいつ、知ってたな。
ふっと鼻で笑った担当に、苛立ちが隠せない。しばらく食い下がったが、返ってくるのは同じ言葉ばかり。挙げ句の果てに、
『そもそも、購入前に見に行かれなかったんですか?』
と鼻で笑うように言われ、言い返す気力も失せた。
俺が黙り込むと、『それでは、またご縁がありましたらよろしくお願いします』と奴は言い放ち、俺が口を開く前に一方的に切られた。
「……は?」
耳元で鳴る無機質な発信音がやけに大きく響いた。
「二度と利用するかよ」
喋らなくなったスマホを睨みつけるが、なにか変わるはずもない。
目の前の我が家から視線を逸らし、肺の中の空気をすべて吐き出した。
三週間前の俺、やめておけ。早まるな。
そう言えるものなら言ってやりたい。
だが、そんなことが出来るはずもなく。
「俺がなにしたってんだよ……」
頭を抱えてしゃがみ込んだ俺の後ろで、にゃーんという鳴き声がした。ちらりと見ると、黄色いまん丸な目がこちらをじっと見つめていた。
野良猫にまで慰められた気分になって、じわりと目頭が熱くなる。
この家を見つけたのは、廃人のようになっていた俺がネットの海に漂っている時だった。
──現代社会に疲れ果てたあなたへ。
疲れ切った都会の生活から、海が見える高台のマイホームを貴方に。
室内リノベ済、ネット環境◯、即入居可。
──これだ。
気がついたら電話をかけていた。
そこからはトントン拍子。
三週間ほどで手に入れてしまったマイホーム。
その結果が、目の前の──コレ。
「値段が安い時点で、気づけって話だよなぁ」
そうは言っても、貯金の大半をはたいて買ったんだけど。
しゃがみ込んだまま頭を掻きむしり立ち上がる。
「とりあえず、中入るか」
クヨクヨしていても仕方がない。荷物はすべて、高速を走っているトラックの中だ。売主に電話をしようにも、書類一式も荷物の中。万事休す、お手上げだった。
最悪、実家に転がり込めばいい。
必死に自分に言い聞かせ、ノロノロと手をリュックへと伸ばした。鍵を取り出し、鍵穴へ差し込む。
──カチャ
意外にも鍵はすんなりと回った。
ガラガラと古びた音を立てながら、玄関の引き戸がゆっくりと動く。
目を閉じて気持ちを整えた。「よしっ」と気合を入れて目を開ける。
そこには予想外の光景が広がっていた。
「嘘……だろ……?」
思わず言葉を失ってしまうほど綺麗な室内。
廊下のフローリングは玄関から差し込んだ光を反射し、真新しい畳の香りが鼻をくすぐる。
ある意味、予想外。ある意味、期待以上。
「写真どおりじゃん……」
足取りは軽く、今なら引越しの片付けも捗りそうだ。まぁ、荷物はまだ来ないんだけど。
「おおー」
突き当たりのドアを開けると、そこにはまるでモデルルームのようなリビングが広がっていた。
傷ひとつないフローリングに、壁と一体化した造り付けの棚。余計な装飾はないのに、不思議と目を奪われる。
「いいじゃん、完璧じゃん」
──意外と良い買い物をしたぞ。
そう思った、その時だった。
──かたん
どこからか音がした。
「ん?」
確かに音がした。だが、どこから聞こえたか分からない。
──ガタガタガタガタ
今度は激しい音が鳴り響いた。音がなる方へ視線を向けると、まるで誰かが外から揺すっているかのように窓がガタガタと小刻みに振動している。
不審に思って外を覗いてみるが、そこには誰の姿もない。
「なんだ?」
──バタン
大きな音を立て、リビングのドアが閉まった。
「は……?」
扉へ駆け寄り、ドアノブを回しても空回りするばかり。開く気配が全くない。
──閉じ込められた?
気づいた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
「なんなんだよっ!もう!」
叫んだところで何も変わらないが、叫ばずにはいられなかった。
次から次に起こる怪奇現象にパニックとなった俺は、クスクスと笑う子供の声に全く気づかなかった。




