発明家『リラ』
ましろ、イリス、シュバルツの三人は報告のため、〈フリーデン〉本部へ向かった。
ロビーに到着してすぐ、コードネーム『リラ』と顔を合わせた。
紫色の髪と瞳が特徴の少女、リラ。
科学をこよなく愛する発明家で、「イヒヒ」と笑いながら奇抜な発想を口にすることもあるが、その実力は確かで、仲間たちからも信頼されている。
リラはましろたちに歩み寄り、気さくに声をかけた。
「お疲れ様、ヴァイス」
「ただいま、リラ」
「今回もたくさん捕まえてきたの?」
「うん。後はリラに任せるね」
「イヒヒ……大船に乗ったつもりで任せて! あたしが全部吐かせてあげる」
この後、リラは男たちを一人ずつ尋問する。
リラが調合した薬を投与されると、理性による抑制が緩み、隠していた情報を次々と口にしてしまう。どんなに口が堅い者でも、リラの前では抗えない。
先日捕らえた背の低い男の尋問も、リラが担当した。
その結果、男の歪んだ思想が浮き彫りになった。
男は社会への強い憎悪を抱き、混乱と破壊を望んでいた。
さらに、自分と同じように不満を抱く者たちを見つけては取り込み、利用していたらしい。
リラが男たちを尋問している間、ましろは本部内の射撃場へ向かい、射撃の腕を磨いた。
その後、道場で人型ロボットを相手に格闘訓練に打ち込む。
ロボットを最高難度に設定し、ましろは互角の攻防を繰り広げた。
気づけば時間は過ぎ、窓の外の空は夕焼け色に染まっていた。
ましろが休憩所のベンチに座って休んでいると、尋問を終えたリラがやってくる。
「お疲れ様、リラ。どうだった?」
「武器の入手経路が分かった。すぐに摘発できるよ」
「そっか」
「もう少し調べ上げたら、まだ何か吐くかもしれない。イヒヒ……!」
「調べてくれてありがと、リラ。人数も多かったし、大変だったでしょ?」
「別に……これくらい、大したことじゃない」
「さすが、リラ!」
ましろが褒めると、リラは嬉しそうに微笑んだ。
「あ、そうだ! ヴァイスに頼みたいことがあるんだけど……」
リラは少し表情を引き締めると、話題を切り替える。
「頼みたいこと?」
ましろは不思議そうに首を傾げた。
「明日、予定は空いてる?」
その質問を聞き、ましろはイリスを一瞥する。イリスが無言で頷くと、ましろは視線を戻して答えた。
「うん、空いてるよ」
「じゃあ、あたしの任務を手伝って欲しいんだけど……」
「うん、いいよ!」
「ありがとう。任務の内容は後で連絡する」
「わかった」
「それじゃあ、また明日」
「うん、またね!」
ましろは立ち去るリラを見送った。
翌日——。
ましろとイリスはリラの任務に同行した。
任務の内容は、違法な臓器売買に関与する組織の調査だった。
すでにリラが下調べを済ませており、後は現地での調査のみとなった。
ましろとイリスはリラと共に、闇取引が行われるという現場へと向かう。
リラが突きとめた受け渡し場所は、駅近くに設置された有料ロッカーだった。
ましろたちは付近の物陰に身を潜め、有料ロッカーを監視する。
やがて、若い男がやってきた。
全身を黒い服で固め、顔もフードで隠している。その姿は周囲から見ても不自然だった。
男は周囲を見回しながら、警戒した足取りで歩いていた。手には保冷バッグを持っている。
有料ロッカーの前で立ち止まり、左右を入念に確認した後、保冷バッグを素早くロッカーの中に押し込んだ。
保冷バッグがロッカーへ入れられたのを見届けると、ましろは物陰から飛び出した。
一瞬で男の腕を捻り上げ、そのまま地面へ押さえ込む。
リラは有料ロッカーから保冷バッグを取り出し、中を確認した。
バッグの中には培養臓器が収められていた。
どれもiPS細胞から培養された人工臓器だ。
本来刻印されているはずの識別番号が見当たらない。
データベースを照合しても、登録情報は存在しなかった。
決定的な証拠を確認すると、ましろたちは近くに待機していた〈フリーデン〉の車両に乗り込み、そのまま男を尋問室へ連行した。
そこで、男を椅子に縛り上げ、仲間の情報を引き出すために尋問を始めた。
だが、男はなかなか口を割らない。
しばらくすると、リラは腰に掛けたミニポーチから注射器を取り出した。
その中には、彼女自身が開発した特殊な自白剤が入っている。
リラは躊躇いなく男の腕にそれを突き刺した。
やがて男の肩から力が抜け、警戒に満ちていた表情が崩れていく。
リラは男の目を見据え、冷徹な声で問いかけた。
「もう一度聞く。お前の仲間は誰で、今どこにいる?」
男は数秒の沈黙の後、力なく口を開いた。
「○○病院の○○だ」
その後も尋問を続け、組織に関する情報を次々と聞き出した。
報告を受けた他のエージェントたちは直ちに病院へ向かう。
医師の確保を仲間に任せると、ましろたちは男から聞き出した闇組織の拠点へ向かった。
闇組織の拠点は、街の片隅にひっそりと佇む、無機質な鉄筋コンクリート造のビルだった。
周囲には人通りも少なく、薄暗い雰囲気が漂っている。
ましろたちは周囲の物陰に身を隠し、ビルをじっと見張った。
時折、スーツを着た男や柄シャツをまとった若い男など、ガラの悪い連中がビルに出入りしている。
イリスがビル内部をスキャンしたが、ボスらしき人物は確認できなかった。
ただ、複数の武装した人物が建物内にいることがわかった。
ましろたちはボスが現れるまで息を潜め、突入の機をうかがう。
数時間が過ぎた頃。
ビルの前に高級リムジン型飛行車が静かに降り立った。
ドアが開き、中からスーツ姿の恰幅のいい男が姿を現す。
指には高価そうな指輪が光り、その顔には傲慢な笑みが浮かんでいた。
闇組織のボスである。
ボスがビルの中に入り、自室へ向かったことをイリスが確認した瞬間、ましろたちは一斉に動き出した。
イリスは外で監視を続け、ましろは正面入口から、リラは屋上から同時に突入した。
突入の瞬間、闇組織は即座に反応し、男たちが銃を抜いて迎撃態勢を取った。
しかし、その抵抗はあまりにも無力だった。
ましろは正確な射撃で非殺傷弾を撃ち込み、男たちを次々と無力化していく。
誰一人として、ましろの進撃を止められなかった。
リラは発明品を駆使しながら突き進む。
小型の蜘蛛型ロボット二機が内蔵銃を連射し、銃声がビル内に響き渡る。
接近してきた相手は、リラが強化グローブで次々と殴り倒していった。
二人の圧倒的な強さに、闇組織は全く歯が立たなかった。
その頃――。
「な、なんだと⁉ もう制圧されたのか⁉」
ボスは部下からの報告を聞き、顔を青ざめさせた。
「くそっ! 役立たず共が!」
窓の外へ視線を向ける。
屋上には、先ほどの高級リムジン型飛行車が待機していた。
「こうなったら逃げるしかない!」
ボスは慌てて執務室を飛び出し、屋上へ続く階段を駆け上がった。
息を切らしながら屋上へ飛び出し、飛行車へ乗り込もうとする。
しかし、ドアが開かない。
「なっ――開かない⁉」
外で待機していたイリスがすでに飛行車の制御を奪い、ドアをロックしていた。
ボスは強引にドアをこじ開けようとするが、ビクともしない。
その時。
「イヒヒ! 残念だったね」
屋上の出入口付近からリラの声が響いた。
「ひっ……⁉」
ボスは振り向く。
リラの姿を捉えた瞬間、慌てて拳銃を抜いた。
しかし引き金を引くより早く、リラが一気に間合いを詰めた。
強烈な拳がボスの腹部へめり込む。
「ぐぼっ!」
ボスの身体がくの字に折れ曲がった。
数歩よろめいた末、その場へ崩れ落ちる。
ボスを確保した頃には、建物内の構成員たちもすでに制圧されていた。
ましろたちは残る者たちを縛り上げ、全員の身柄を確保した。
ほどなく〈フリーデン〉の回収班が到着する。
確保した構成員たちの引き渡しを終えると、ましろたちは後処理を任せてその場を後にした。
帰り道、リラは歩きながらましろに礼を言った。
「ヴァイスのおかげで早く片づいた。ありがとう」
「そんなことないよ。私はリラのサポートをしただけ。ここまでスムーズに進んだのは、リラが頑張って調べてくれたおかげだよ!」
「イヒヒ……無事に済んでよかった」
「そうだね」
ましろたちの迅速な行動により、違法な臓器売買組織は壊滅した。
一般人への被害も未然に防がれ、任務は成功裏に幕を閉じた。




