第二話 検索に出てこない男
男の能力が“鑑定不能”だって?
そんなの、今はそうなってるだけだ。
未来永劫、そうだと誰が保証してくれる。
能力が確認されてから世界がどれだけ変な方向に加速してるか、ニュースを見れば分かる。能力者を社会の中心に据えようとする勢力が乱立して、国内だけじゃなく国際問題秒読み――なんて言葉が、冗談じゃなくなってきている。
だったら当然、「男も鑑定できる能力」が出てきてもおかしくない。
“鑑定不能”を貫通された瞬間、俺は終わる。
俺の能力は――俺を無能力者だと思っている人間が多いほど強くなる。
つまり、俺が能力者だと確信されればされるほど、俺は弱くなる。
バレたら弱体化。
弱体化した瞬間に、俺はただの無能力者に戻る。
無能力者として生きること自体が怖いわけじゃない。怖いのは、今まで俺がやってきたこと、やってしまったこと、その“責任”が全部、俺の手から落ちることだ。
だから俺は、保険をかけた。
正直、具体的な仕組みなんて分からない。俺は学者じゃないし、能力理論の専門家でもない。ただ、俺の能力は「生命体」に関わるルールの改変にだけ、妙に強く干渉できる。
なので、俺は“生き物”の側に小さな癖を足した。
――俺の能力の中身に触れようとする認識は、滑る。
見る、記録する、確信する。
そういう方向に行った瞬間、脳が「そこだけ理解しない」ようにする。
つまり、俺の能力が存在することまで消すんじゃない。“内容”だけ霧にする。
これなら、仮に男の鑑定が可能になる存在が現れても、俺だけは中身が掴めないはずだ。
……はず、なんだが。
問題は一つ。
この“霧”は万能じゃない。
疑う人間の数が増えるほど、効きが落ちる。
最悪だ。
隠すための保険が、「疑われるほど薄くなる」という仕様。
つまり俺は、疑われない生活を続けるしかない。
普通に生きるしかない。
……普通って、何だよ。
その答えを、隣の天使が毎日ぶん殴ってくる。
「お兄さん! お兄さんは朝ごはんを摂取しましたか!」
朝七時。俺の部屋の前。
インターホンじゃない。ノックでもない。
ドア越しの“直問”である。
「……まだ」
「よくないです!」
「いや、まだ起きて五分だし……」
「五分も経っているのに摂取していないのは危険です!」
危険の定義が広い。
俺がドアを開けると、そこにセラがいた。今日も今日とて羽を畳んで、生活指導の先生みたいな顔をしている。
「お兄さん、栄養は重要です。天使は学びました」
「俺は天使じゃない」
「そうですね。お兄さんは普通です」
にこっ。
笑顔で“普通”を肯定されるたび、俺は複雑な気持ちになる。
普通の人が、中心にいるのが一番――とか言うやつが、普通の概念を語るな。
「……で、何」
「これです」
セラが差し出したのは、コンビニ袋だった。中から出てきたのはおにぎり二つと、野菜ジュースと、なぜかゆで卵。
「お兄さんに、です」
「なんで」
「お兄さんは最近、栄養が不足している顔をしています」
「顔で分かるのかよ」
「分かります。羽の艶にも影響します」
「俺、羽ない」
「今は、ですね」
今はって言った。
今は、って言ったぞ。
「……セラ」
「はい」
「変なこと言うな」
「変?」
首を傾げる。純粋に分からない顔。悪意がないぶん怖い。
俺が袋を受け取ると、セラは少し満足そうに頷いた。
「お兄さんは優しいです。受け取ってくれました」
「断る流れ作れなかっただけだよ」
「それは優しいです」
言い切るな。
そしてセラは、ふいに廊下の奥――階段の方を見た。
その目が、ほんの少しだけ鋭くなる。
「……出生の波が、増えています」
俺の背筋が冷えた。
「出生って、それ……」
「羽です」
声を潜めるでもなく、さらっと言う。
「この建物の近く。昨日より濃いです」
俺は笑いながら、必死に話題をずらした。
「……今日は風強いしな。ほら、羽が揺れてるし」
「風は関係ありません。波です」
「波って言うな」
「中心は……」
「言うな」
俺が遮ると、セラはぱちっと瞬きをした。
「お兄さんは、“その言葉”が嫌いですね」
「……嫌いというか、怖い」
「怖い?」
セラは少しだけ考えて、にこっと笑った。
「安心してください。わたしたちは、お兄さんを壊しません」
その言い方だと、壊せる前提じゃないか。
俺は袋を握ったまま、苦笑いで誤魔化した。
「はいはい。朝飯ありがとう。学校行くから」
「いってらっしゃい。お兄さん」
セラは手を振った。
天使が近所にいるだけで、人生の難易度が一段上がる。
――疑われない生活、遠すぎる。
放課後。
本屋に寄って帰ろうとしていた。参考書はこの間買ったばかりなのに、なぜかもう「追加で必要な気がする」という不安が湧く。高校生の不安って、だいたい金で解決しようとして失敗する。
駅前の歩道。
人の流れに混じって歩いていると、ふと、空気が変わった気がした。
視線じゃない。圧だ。
振り向いた瞬間、俺は反射で足を止めた。
そこにいたのは、大人の女性だった。
黒いスーツ。細身。髪はきっちりまとめていて、表情は穏やか――なのに、目だけが鋭い。人混みの中で、その人だけ輪郭が浮いて見える。
そして、俺のすぐ目の前まで来ると、迷いなく言った。
「こんにちは。少し、時間いい?」
声も落ち着いている。落ち着きすぎている。
俺は警戒しながら答えた。
「……誰ですか」
女性は、名刺を差し出した。
白地に、すっきりした文字。
藍川 綾香
その名前を見た瞬間、心臓が一拍、遅れた。
「……藍川、綾香?」
聞いたことがある。
能力者の組織がいくつもできた中で、やたらメディアに名前だけ出てくる女。確か、何かの会見で「能力者同士の衝突を抑える」とか言っていたはずだ。自警団だのギルドだの、色んな呼び名が飛び交う中で、“一番それっぽい肩書”を持っていると噂される人物。
ただ、肝心の能力が分からない。
男の能力は鑑定できない――じゃなくて、藍川綾香は女だ。女なら鑑定できるはずなのに、綾香の能力だけは妙に情報が出回っていない。
つまり、盛ってる可能性もある。
「強いらしい」っていう評判ほど信用ならないものはない。
綾香は微笑んだ。
「知ってるんだ。よかった」
「……ニュースで」
「うん。それで十分」
十分なのか。
俺が警戒を崩さないのを見て、綾香は一歩引いた。距離の取り方がうまい。人を追い詰めない。でも逃がさない。
「君の名前、聞いていい?」
「……透です」
「透くん。高校生?」
「はい」
「いいね。話が早い」
話が早いの嫌だな。
綾香は、駅前の喧騒の中でも聞き取りやすい声量で、さらっと言った。
「この街に、“天使少女を生み出した存在”がいる」
俺は顔に出さないように必死で努力した。
(おい)
(いきなり核心ぶっ込むな)
綾香は続ける。
「見つけたい。……手伝ってほしい」
「……なんで俺に」
声が少しだけ硬くなった。
綾香は俺の反応を見て、すぐに言葉を選び直した。
「いきなり言われても困るよね。だから順番に話す」
そして、少しだけ申し訳なさそうに笑った。
「まず私の能力から」
俺は内心で警戒を強めた。こういう人は、肝心なところを“さらっと正しい順番”で出してくる。
綾香は、手のひらを上に向けた。
「私の能力は、『魔法使いになれる』能力」
「……魔法?」
「そう。私一人にだけ、“魔力”という概念が反映される」
綾香の手のひらの上に、小さな光が灯った。
火じゃない。熱もない。なのに、ちゃんと明るい。
光はふわっと浮いて、形を変え、指先に沿って糸みたいに伸びた。
周囲の人は気づかない。気づけないのか、気づいても見なかったことにしているのか。
綾香は淡々と言った。
「魔力を使えば、理論上、どんな魔法も使える。――ただし」
光が消えた。
綾香は小さく息を吐く。ほんの一瞬、肩が落ちた。
「強い魔法ほど魔力が要る。私は普段、できるだけ節約して貯めてる。いざという時のためにね」
「……じゃあ、その光も節約?」
「これはお披露目。営業経費」
営業経費で魔法を出すな。
でも、納得はした。
最強を自称してもいい。これが“魔法”なら、確かに強い。能力という枠を飛び越えている感じがする。
綾香は俺の目を見た。
「私は今、天使の件で動いてる」
俺は頷くしかなかった。
「天使の発生が、平日昼間だったのは知ってる?」
「……ニュースで見ました」
「そう。平日昼間。つまり、社会人より学生の方が動ける時間帯」
綾香の言い方は淡々としているのに、内容は冷たい推理だった。
「天使の“生みの親”が、もし人間なら。可能性として、学生――特に男の可能性が出る」
心臓がうるさい。
俺は無関係な顔で聞き役に徹した。
「……それで」
「魔力を大量に支払って、この街の“学生男性全員”に検索をかけた」
「検索?」
綾香は頷いた。
「能力ログの検索」
俺は一瞬、意味が分からなかった。
ログ? 能力にログ?
綾香は俺の顔を見て、説明を短くした。
「能力が世界に干渉すると、“履歴”が残る。データベースみたいなものを想像してもいい。でも私は中身は見れない。読むことはできない。……ただ、検索だけはできる」
「……便利すぎません?」
「便利だよ。だから高い」
綾香は苦笑した。
「対象人数が多いほど、期間が長いほど、関連度を高精度にするほど、魔力を食う。平日昼間に絞って、場所も絞って、それでも――かなり持っていかれた」
「……結果は」
「ゼロ」
綾香は即答した。
「天使の発生ログと関連性がある能力者は、学生男性の中に一人もいなかった」
俺は、心の中で叫んだ。
(そりゃそうだよ!!)
(俺の能力、ログに載るわけ……いや、載るのか?)
俺はログなんて知らなかった。でも、俺がやったのは“ルール”の改変だ。世界に干渉してる。履歴が残るのが普通なら、残っていてもおかしくない。
綾香が言う。
「……ただし」
来た。
俺は表情を変えないように、顎の力を抜いた。
「透くん。君だけ、検索ができなかった」
「……は?」
声が裏返りそうになった。
綾香は、ポケットから小さな端末みたいなものを出した。スマホより薄い。画面に、幾何学的な模様が浮かんでいる。魔法のUIって感じだ。
「この街の学生男性、全員は一覧に出る。検索はできる。だけど男は能力参照ができない。だから普通は、こう出る」
画面をこちらに向ける。
そこには文字が浮かんでいた。
『対象:男 検索:可 能力参照:鑑定不能』
「……これが“普通”」
綾香は指を滑らせ、別の項目を呼び出した。
『対象:不明 検索:不能 能力参照:不明』
俺の喉が鳴った。
「……それ、俺?」
「そう」
綾香は、信じられないものを見る目ではなかった。むしろ、妙に落ち着いている。
「透くん。君は“能力が見えない”んじゃない。“検索にかからない”」
「……バグじゃないですか」
「最初はそう思った。二回やった」
「二回も!?」
思わず突っ込んでしまった。
綾香は真顔で頷いた。
「高かった」
「やめてくださいよ! そんな、俺に二回も高いの当てて!」
「当ててない。検索が当たってない」
言い回しがひどい。
俺は頭を抱えたくなった。笑いに逃げたいのに、笑えない。これは笑い話じゃない。
綾香は続ける。
「私は天使のエネルギー源を、魔法でソナーみたいに探知した。大雑把にね。その結果、中心はこの街だと分かった」
中心。
その単語が出た瞬間、セラの声が脳内でリフレインした。
出生の波。
中心。
普通の人が、中心にいるのが一番。
「それで、別方向からアプローチしようとした。中心地付近にいる“学生男性”に絞って検索した。……君だけが穴だった」
綾香は淡々と、でも確信を持って言う。
「だから会いに来た」
俺は、息を吐いた。
詰んでる。
いや、まだだ。まだ“疑われた”と確定したわけじゃない。綾香は今のところ、“不明”だと言っているだけ。疑っているとは言っていない。
疑いの数が増えるほど、俺の霧は薄くなる。
だから、ここで綾香に「こいつが怪しい」と確信させたら終わりだ。
俺は努めて平然を装った。
「……でも、それだけで俺に頼むのは変じゃないですか。俺、普通の高校生ですよ」
普通。
俺が言うと、なんか自分で傷つく。
綾香は少しだけ笑った。
「そう言えるのは助かる。私は今、君を犯人だと決めてない」
その言葉に、ほんの少し救われた自分が嫌だった。
「ただ、“穴”は放っておけない。穴は、いずれ誰かが指を突っ込む」
その表現が妙に具体的で、胃が痛くなった。
「君は、天使の発生源を知ってる?」
「知らないです」
嘘ではない。俺は“やった”が、“どう生まれたか”の詳細は知らない。思いつきでルールを足しただけだ。
綾香は頷いた。
「じゃあ質問を変える。君は最近、羽のある女の子に会った?」
俺の心臓が跳ねた。
ここで「会った」と言えば疑いが増える。
でも、隠しても意味がない可能性が高い。
だって隣に住んでる。
しかも、今この瞬間も廊下にいるかもしれない。
俺は、言葉を選んで、最小限の情報だけ出した。
「……ニュースで見るくらいです」
綾香は俺をじっと見た。
その視線が、疑いかどうか分からない。分からないのが一番怖い。
綾香は、ふっと目を細めた。
「透くん。もう一つ言う」
俺は黙って聞いた。
「君が“穴”であることは、私が魔力を払わなければ分からなかった。つまり、今の段階で君を疑ってる人間は少ない」
それは事実だろう。綾香の検索は高コスト。誰もが持ってる手段じゃない。
「だから、今のうちに動きたい」
綾香は真剣な声で言った。
「天使の件は、放っておくと“能力者社会”を壊す。能力者を治安側に取り込んで国が割れるのを止めようとしてる組織もあるのに、上位存在が生まれたら、全部ひっくり返る」
能力者のカーストが下がる。
その焦りが、強硬策になる。
そこまで言われると、確かに洒落にならない。
俺は、無関係なふりをしながら、最低限の同意を返す。
「……確かに、危ないかも」
「危ない。だから協力してほしい」
綾香は名刺をもう一度軽く指で叩いた。
「私は君に、いきなり秘密を全部吐けとは言わない。……ただ、君の周りで起きていることを教えてほしい」
俺の周りで起きていること。
隣に天使が引っ越してきたこと。
“出生の波が増えている”と言われたこと。
そして、俺が中心にいると言われたこと。
全部言った瞬間、綾香の疑いが増える。
疑いが増えれば、霧が薄くなる。
薄くなれば、俺の保険が崩れる。
俺は笑って誤魔化した。
「……俺、本当に普通なんで。周りって言われても、学校と家くらいですよ」
「家はどこ?」
「……近くです」
「案内して」
「え?」
即答すぎる。
綾香は平然としていた。
「ソナーで中心付近は分かってる。でも確定させるには現場が要る。君が穴なら、穴の周辺に何かある可能性が高い」
まずい。
綾香を家に連れていく=セラと鉢合わせる可能性が高い。
セラが「強い男性能力者知りませんか」とか言い出したら、綾香の疑いが跳ね上がる。
疑いが増えたら、俺の霧が薄くなる。
霧が薄くなったら、綾香の検索が“通る”可能性が上がる。
最悪の連鎖が、頭の中で一瞬で完成した。
「いや、今日はちょっと……」
俺が逃げ口上を探していると、綾香は一歩も引かずに言った。
「透くん。君が本当に普通なら、案内しても損はない。普通ならね」
――普通、という言葉が槍みたいに刺さる。
こいつ、会話がうまい。
俺が“普通でいたい”のを知ってるみたいに、その一点を突いてくる。
俺は、苦し紛れに条件を出した。
「……分かりました。でも、ちょっとだけです。近所の人に変に見られるのは嫌なんで」
綾香は、あっさり頷いた。
「了解。私は目立たないようにするのが得意」
絶対嘘だ。あなた、存在が目立つ。
アパートの前まで来ると、俺は心臓が口から出そうだった。
頼む。セラ、今は出てくるな。
俺は祈るように階段を上った。
……祈りは、だいたい裏切られる。
二階の廊下。
俺の部屋の前。
そこに、セラがいた。
まるで待っていたみたいに。
「あ! お兄さん、おかえりなさい!」
元気な声が廊下に響く。
終わった。
綾香の視線が、セラに向く。
セラも、綾香を見る。
そしてセラは、目を輝かせた。
「わあ……きれいな匂い」
匂い。
やめろ、匂いで何か言うな。
セラは一歩近づいて、無邪気に言った。
「あなた、魔力の匂いがします!」
綾香の眉が、ほんの少し動いた。
「……分かるの?」
「はい! 天使は、分かります!」
セラは胸を張る。誇るな。
綾香は静かにセラを観察している。職業病みたいな目だ。これは――疑いが増えるやつだ。
俺の背中に冷たい汗が流れる。
疑う人間の数が増えるほど、霧が薄くなる。
霧が薄くなれば、綾香の検索が通る可能性が上がる。
俺は急いで間に入った。
「セラ、挨拶。……この人は、ただの知り合い」
「知り合い?」
セラはにこにこして、綾香に頭を下げた。
「はじめまして! お隣に住んでいます、セラです!」
綾香は一瞬だけ目を細めたあと、丁寧に会釈を返した。
「藍川綾香です。よろしく」
セラは目をぱちぱちさせた。
「藍川……綾香……」
名前に反応した。
やめろ。知ってるのか。知ってるなら余計なこと言うな。
セラは、無邪気なまま言った。
「有名な人です!」
綾香が少しだけ笑った。
「有名は困るんだけどね」
会話は穏やか。でも俺の頭の中では警報が鳴り続けている。
セラが、ふいに俺を見る。
そして、何でもないみたいに言った。
「お兄さん。今日も普通ですね」
その瞬間、綾香の視線が俺に戻った。
……今のは、ただの世間話か?
それとも、セラはわざと「普通」を強調して、俺を守ろうとしたのか?
分からない。
分からないけど、ひとつだけ分かる。
綾香の中で、“疑い”が芽を出した。
芽が出た瞬間から、俺の霧は薄くなる。
綾香は静かな声で言った。
「透くん。君、隣に天使がいるんだ」
「……たまたま」
「たまたま、ね」
綾香は笑わない。
「私のソナー、もう一度だけ使う。節約してた分を切り崩す価値がある」
俺は、喉の奥で息を呑んだ。
やめろ。
今、疑いが増えた状態でそれをやったら――
セラが、綾香の袖をちょんと引いた。
「綾香さん。探し物ですか?」
「……ええ。天使の生みの親を」
セラはにっこり笑った。
「じゃあ、わたしも手伝います。創造主を探しているので」
綾香の目が、初めて大きく開いた。
「……創造主?」
セラは明るい声で言った。
「はい! この辺で強い男性能力者、知りませんか?」
綾香の視線が、俺に刺さる。
疑いが、増えた。
霧が、薄くなる。
俺は笑うしかなかった。
「悪いけど……わからん」
嘘だ。
分かってる。
分かってるのに、“分からない”と言い続けなきゃいけない。
俺の新生活は、二話目にしてもう、逃げ場がなくなり始めていた。




