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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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2対1の勝利判定

 ダンジョンの外にまで、凄まじい殺気が漏れ出していた。


 空気が震える。


 地面が軋む。


 監視に当たっていたレグルスのギルドメンバーたちも、異変に気付き始めていた。


「……うわ、これやばくね?」


 一人が青ざめる。


「炎さんがまた暴走してるんだろー」


 別の男は慣れたように肩をすくめた。


「止める?」


「大丈夫だろ。面倒だし、パス――」


 ゴンッ。


「いってぇ!!」


 後頭部を思い切り殴られ、男は頭を押さえて振り返る。


「誰だよ……」


 そこには、大柄な男が腕を組んで立っていた。


「あっ……」


 男の顔が引きつる。


「力弥パイセンじゃないっすかー」


「……何がパスだ、馬鹿野郎」


 低い声。


 いつもの気だるげな雰囲気とは違う。


 力弥はダンジョンの入口を見つめる。


「……この殺気」


 目が細くなる。


「炎だけじゃないな」


「あっ、俺なんか急に具合悪くなってきたから帰――」


 踵を返そうとした暁の襟首を、力弥が無言で掴んだ。


「うぐっ!」


「逃がさん」


「えぇぇ……」


「今から炎を止めに行く」


 力弥はそのまま歩き出す。


「暁、お前も来い」


「いやいやいや!」


 暁は露骨に嫌そうな顔をした。


「俺、後方支援タイプなんだけど!?」


「知るか」


「ちょっ、引っ張るなって!」


 抵抗も虚しく、暁はそのまま引きずられていった。



 一方。


 ダンジョン内部。


 新は、予想以上の苦戦を強いられていた。


(……強い)


 炎。


 水。


 どちらもゲームで何度も戦った相手だ。


 だが、実際に対峙すると、その圧力は記憶以上だった。


 それでも。


 頭だけは冷静だった。


(この勝負は勝つ必要はない)


(時間を稼げ)


 ゲームでは、この戦闘は一定時間耐え抜けばイベントが発生する。


 レグルスギルドマスター――力弥の介入。


 それが勝利条件。


(あと少し……!)


 炎が剣を振るう。


 轟音。


 炎の斬撃が一直線に走り、地面ごと焼き裂く。


 剣の届かない距離まで炎が伸びる。


「っ!」


 新は紙一重で回避する。


 熱風だけで肌が焼けそうになる。


 休む暇もない。


 今度は水だった。


 水球が蛇のようにうねり、新を包囲する。


 普通の水ではない。


 酸。


 岩すら溶かす猛毒。


 白珠で受け流しても、水滴が四散する。


 その一滴。


「……っ!」


 腕に飛んだ。


 ジュッ――


 嫌な音が響く。


 皮膚が焼け、煙が立つ。


「新!!」


 皐月の悲鳴。


「大丈夫だ!」


 そう返そうとした、その瞬間。


「やっぱさ」


 水が楽しそうに笑う。


「私、あの子と遊びたいな♪」


 狙いが変わる。


 新ではない。


 皐月。


 水が一歩踏み出す。



 その瞬間だった。


 世界が、一瞬だけ白く染まる。


 炎の瞳が見開かれる。


「……っ!」


 新が。


 消えた。


 いや。


 見えなかった。


 一瞬。


 白い光が走ったようにしか見えない。


 次の瞬間には。


 新は、水のすぐ目の前にいた。


 白珠が。


 水の首元へ、静かに添えられている。


 あと一ミリ。


 踏み込めば。


 首が落ちる。


「…………」


 水は笑顔のまま固まった。


 動けない。


 炎も理解していた。


 ここで水が少しでも動けば。


 新は迷わず斬る。


 それほど完成された間合いだった。


 沈黙。


 数秒。


 やがて。


「……負けだ」


 炎が静かに言った。


 赤い剣を鞘へ納める。


「水」


「……うん」


 水も苦笑いしながら両手を上げた。


「降参!」


 その言葉を聞き、新はゆっくり白珠を下ろす。


 皐月の前まで戻り、再び庇うように立つ。


 それでも警戒は解かない。


「もー!」


 水は頬を膨らませた。


「悪かったってば!」


 まるで叱られた子供のように肩を落とす。



 離れた場所。


 その一部始終を見ていたギルドメンバーたちは、言葉を失っていた。


「……嘘だろ」


「あの炎さんと水さん相手に……」


「一人で?」


「しかも最後……」


「あれ、何だった?」


 誰も答えられない。


 炎と水を相手に時間を稼ぐだけでも異常だ。


 だが。


 最後の一瞬。


 白い閃光。


 誰一人、新の動きを視認できなかった。



 力弥もまた、その光景を見つめていた。


 口元がゆっくりと吊り上がる。


「面白ぇ……」


 暁が嫌そうな顔をする。


「あーあ」


「また始まった」


「何が?」


 力弥は笑う。


「強い奴を見つけた時の顔だよ」


 暁は深いため息をついた。


 レグルスギルドマスター・力弥。


 彼は力を何よりも尊ぶ。


 弱者を否定はしない。


 だが。


 強者は。


 必ず自分の手元へ置きたい。


 それが彼の信念だった。


「暁」


「はいはい」


「あの二人を調べろ」


「もう始まったよ……」


「特にあの剣士だ」


 力弥の目は興奮で輝いていた。


「……新」


 その名を噛み締める。


「君は」


 口元が大きく歪む。


「我がレグルスの至高の一人になれる」


 そう呟くと、力弥はゆっくりと新たちの前へ歩き始めた。

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