レグルスギルドとダンジョン
レグルスギルドの外壁は、どこか“威圧”を帯びていた。
ただ大きいだけではない。
ここには、力がある。
強者が集まり、弱者を弾く――
そんな空気が、建物そのものから滲み出ていた。
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「……ここ、ちょっと怖いですね」
皐月が小さく呟く。
「当然だ」
新は視線を逸らさずに答える。
「ここは"弱肉強食"の熾烈なギルドだからな」
「強い人しか生き残れない?」
「そういうことだ」
入口付近では、加入テストが続いている。
剣を振るう者。
倒れる者。
歓声もなければ、慰めもない。
ただ、結果だけが残る。
だがその光景を、新は一瞥しただけで通り過ぎた。
「え、あっち行かないの?」
「必要ない」
即答だった。
正規の試験を通れば所属はできる。
だが――
そこから先が面倒だ。
余計な関係。
無駄なクエスト。
時間の浪費。
(最短で行く)
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新は建物の裏手へ回る。
人通りが一気に減る。
静かな空間。
だが――
視線だけは、増えた。
物陰。
屋根の上。
壁際。
隠す気のない“気配”。
「……見られてますね」
「当然だ」
新は足を止めない。
「ここはレグルスが秘密裏に管理してる場所だ」
つまり――
この先にあるものを知っている時点で、
すでに“選別対象”ということだ。
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裏手の奥。
古びた扉。
誰も使っていないように見える。
だが。
「ここだ」
新が手をかける。
扉を開く。
⸻
中は――
空間が歪んでいた。
石造りの円形の部屋。
中央に、黒いゲート。
揺らめくように存在している。
「……これが」
「レグルスの“裏試験”ダンジョンだ」
皐月が息を呑む。
「こんなの……初見プレイヤーじゃ絶対分からないですよ」
「だろうな」
新は肩をすくめる。
「まぁ俺がこのゲームの廃人だったことに感謝しとけ」
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その時。
「へぇ」
背後から声。
振り向く。
数人の覚醒者。
軽い笑み。
鋭い視線。
値踏みする目。
「ここに来るってことはさ」
一人が笑う。
「自信あるってことだよな?」
皐月がわずかに息を呑む。
だが新は動じない。
「ああ」
短い肯定。
それだけで、空気が変わる。
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「いいねぇ」
男が笑う。
「最近つまんなかったんだよな」
「新顔か」
「しかも女連れ」
視線が皐月に向く。
その瞬間。
新が一歩前に出た。
それだけで、空気が凍る。
「このダンジョンはレグルス専用じゃないはずだ」
静かな声。
「問題ないだろ?」
威圧ではない。
事実だけを突きつける声。
⸻
一瞬の沈黙。
そして。
「……はは」
最初の男が笑う。
「いいじゃん」
「気に入った」
「先に行けよ」
道が開く。
ここは既に試験場。
そして――
弱者に居場所はない。
⸻
新はゲートの前に立つ。
「皐月」
「うん」
「ここから先は完全に実力勝負だ」
「分かってる」
迷いのない目。
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「行くぞ」
一歩踏み出す。
黒いゲートが揺れる。
空間が歪む。
⸻
次の瞬間。
二人は別の場所に立っていた。
荒れた大地。
黒い空。
そして――
無数の気配。
「……多いですね」
「歓迎されてるな」
新は白珠に手をかける。
ここは試験。
そして同時に――
狩場。
⸻
魔物が動く。
地面が揺れる。
殺意が一斉に向く。
「来るぞ」
「はい!」
皐月が構える。
⸻
その様子を。
外から見ている者がいた。
「入ったか」
腕を組む男。
レグルスの幹部。
「どう思う?」
隣の女が問う。
「……面白い」
短く答える。
「久しぶりだな」
「“選ぶ価値があるか”悩む奴は」
⸻
そして。
さらに遠く。
「レグルス、ですか」
天宮翼が微笑む。
「いい選択ですね」
だが、その目は冷たい。
「強くなるほど――」
「壊しがいがあります」
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三つの勢力。
レギュラート。
レグルス。
聖火の集い。
そのすべてが。
新という存在に近づいている。
⸻
そして今。
選ばれる側だったはずの新は――
“選ばせる側”へと、踏み込み始めていた。




