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【新連載】エトゥールの魔導師 閑話集〜大災厄の後始末〜  作者: 阿樹弥生
報告書1 閑話:正しい猫の飼い方
14/16

正しい猫の飼い方⑭

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 猫のウールヴェは完全に黙り込んだ。

 先程までの『断る』という強気の発言は、見られなかった。


「ロニオス、どう?」


 カイルがディム・トゥーラとコンビ連携をしているかのように、返答を求めることでロニオスをさらに追い詰めた。


『……………………』


 白猫はごにょごにょと小声に似た思念を呟いている。


「ロニオス?何か図面に不満があるなら、今なら希望を反映修正できるよ?」

『…………………………狭い……」

「なんだって?」

『狭いっ!造り酒屋の面積が足りないっ!もっと広げる必要があるっ!東国の酒蔵文化を舐めるなっ!』

「あ、ちゃんとこちら側に増築できる設計になっているよ」


 その文句を予想していたかのようにカイルが言う。

 カイルが再び広げた図面を、白猫はディム・トゥーラの腕の中から首をのばし覗き込んだ。


「ほらね」

『米の発酵酒の酒樽は杉一択だっ!』

(オーク)じゃないんだ?」

『香りが違う。仕込桶も杉だっ!』

「西の民に頼んで作ってもらうよ」

『縁側の方向は、精霊樹の方向だっ!』

「いいよ」

『人の出入りは好まないっ!』

「え?僕達ぐらいはいいでしょう?」

『……まあ……君たちは当然だな……』


 猫の思念の調子がやや落ちた。


「ファーレンシアや僕の娘は?」

『……別に同行してくるのは、かまわない』

「…………僕の娘は、僕との同行は難しいかな……」


 カイルは少し遠い目をした。

 ロニオスはディム・トゥーラを問うように見上げた。


「カイルの中の世界の番人に怯えて、カイルを拒絶しています。能力者であることは、確認済みです」

『ほう』

「カイルを聖堂の壁まで弾き飛ばした」

『成人男性を?どれくらいの距離だ?』

「15メートルくらい。俺のウールヴェが庇わなければ、背骨は損傷していたでしょうね」

『医療担当者がいれば、問題ないだろう』

「まあ、そうですね」

「痛いのは僕なんだけど?どうして問題ないって判断するのさ?」

「何が問題だ?」

『犠牲になるのが、カイル・リードだけなら問題ないだろう』

「…………ひどい……」


 カイルは胸を手で押さえて、本気で嘆いた。支援追跡者と血縁者はカイルの処遇に冷淡すぎた。


「本音を言えば、俺一人で手に余る事態なので助言が欲しいです」

『君が支援追跡者になればいいだろう』

「俺も常に地上にいるわけじゃないんです。手を貸してください」


 ウールヴェは、離れた場所で赤子を取り囲む若い母親と侍女集団をちらりと見た。


『娘の名前は?』

「エイア」


 カイルが答えた。


『能力を検定するにも、私の能力が回復してからだ。しかも回復するのが、いつになるかわからん。期待しないでくれ』

「その点でも、エトゥールの精霊樹か僕のそばにいた方がいいと思ったんだ。多少は癒しの力が働くでしょ?」

『……』


 二人の期待に満ちた視線に、ウールヴェは短い吐息をついた。


『…………私の静かな老後計画はどこへ行った……』

「ジェニ・ロウの元に連行しないことに感謝してください」

『時折、脅しをチラつかせるのはやめろっ!旅にでるぞっ?!』

「……そんなに所長の奥さんって、怖いのか……」

「ああ、まあ、怖いかな……」


 ディム・トゥーラも否定はしなかった。エド・ロウの妻であり、ロニオスの元副官であるジェニ・ロウは、中央の管理官であり、観測ステーションの最高権力者だ。


「じゃあ、地上滞在の環境を提供する僕達の提案は悪くないはずだけど?さらに条件をつめようよ?――ファーレンシアやメレ・エトゥールが出入りすると専属護衛はついてくるけど許容してくれる?」

『一人二人程度なら』

「ウールヴェの出入りは?」

『ウールヴェはそれほど数は残っていないだろう?』


 カイルは、しばしウールヴェの生存数を頭の中で、数えあげた。


「50頭以上いるね……」

『なぜ、そんなに残っている?特攻をかけたのではないのか?!』


 ロニオスは驚きの声をあげた。


「セオディア・メレ・エトゥールのウールヴェが半数以上だよ。世界の番人と交渉して、関係者のウールヴェは除外してもらったんだ。絆の衝撃を皆に与えたくなかった」


 カイルの言葉に、ロニオスは再び吐息をもらした。

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