正しい猫の飼い方⑭
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
猫のウールヴェは完全に黙り込んだ。
先程までの『断る』という強気の発言は、見られなかった。
「ロニオス、どう?」
カイルがディム・トゥーラとコンビ連携をしているかのように、返答を求めることでロニオスをさらに追い詰めた。
『……………………』
白猫はごにょごにょと小声に似た思念を呟いている。
「ロニオス?何か図面に不満があるなら、今なら希望を反映修正できるよ?」
『…………………………狭い……」
「なんだって?」
『狭いっ!造り酒屋の面積が足りないっ!もっと広げる必要があるっ!東国の酒蔵文化を舐めるなっ!』
「あ、ちゃんとこちら側に増築できる設計になっているよ」
その文句を予想していたかのようにカイルが言う。
カイルが再び広げた図面を、白猫はディム・トゥーラの腕の中から首をのばし覗き込んだ。
「ほらね」
『米の発酵酒の酒樽は杉一択だっ!』
「樫じゃないんだ?」
『香りが違う。仕込桶も杉だっ!』
「西の民に頼んで作ってもらうよ」
『縁側の方向は、精霊樹の方向だっ!』
「いいよ」
『人の出入りは好まないっ!』
「え?僕達ぐらいはいいでしょう?」
『……まあ……君たちは当然だな……』
猫の思念の調子がやや落ちた。
「ファーレンシアや僕の娘は?」
『……別に同行してくるのは、かまわない』
「…………僕の娘は、僕との同行は難しいかな……」
カイルは少し遠い目をした。
ロニオスはディム・トゥーラを問うように見上げた。
「カイルの中の世界の番人に怯えて、カイルを拒絶しています。能力者であることは、確認済みです」
『ほう』
「カイルを聖堂の壁まで弾き飛ばした」
『成人男性を?どれくらいの距離だ?』
「15メートルくらい。俺のウールヴェが庇わなければ、背骨は損傷していたでしょうね」
『医療担当者がいれば、問題ないだろう』
「まあ、そうですね」
「痛いのは僕なんだけど?どうして問題ないって判断するのさ?」
「何が問題だ?」
『犠牲になるのが、カイル・リードだけなら問題ないだろう』
「…………ひどい……」
カイルは胸を手で押さえて、本気で嘆いた。支援追跡者と血縁者はカイルの処遇に冷淡すぎた。
「本音を言えば、俺一人で手に余る事態なので助言が欲しいです」
『君が支援追跡者になればいいだろう』
「俺も常に地上にいるわけじゃないんです。手を貸してください」
ウールヴェは、離れた場所で赤子を取り囲む若い母親と侍女集団をちらりと見た。
『娘の名前は?』
「エイア」
カイルが答えた。
『能力を検定するにも、私の能力が回復してからだ。しかも回復するのが、いつになるかわからん。期待しないでくれ』
「その点でも、エトゥールの精霊樹か僕のそばにいた方がいいと思ったんだ。多少は癒しの力が働くでしょ?」
『……』
二人の期待に満ちた視線に、ウールヴェは短い吐息をついた。
『…………私の静かな老後計画はどこへ行った……』
「ジェニ・ロウの元に連行しないことに感謝してください」
『時折、脅しをチラつかせるのはやめろっ!旅にでるぞっ?!』
「……そんなに所長の奥さんって、怖いのか……」
「ああ、まあ、怖いかな……」
ディム・トゥーラも否定はしなかった。エド・ロウの妻であり、ロニオスの元副官であるジェニ・ロウは、中央の管理官であり、観測ステーションの最高権力者だ。
「じゃあ、地上滞在の環境を提供する僕達の提案は悪くないはずだけど?さらに条件をつめようよ?――ファーレンシアやメレ・エトゥールが出入りすると専属護衛はついてくるけど許容してくれる?」
『一人二人程度なら』
「ウールヴェの出入りは?」
『ウールヴェはそれほど数は残っていないだろう?』
カイルは、しばしウールヴェの生存数を頭の中で、数えあげた。
「50頭以上いるね……」
『なぜ、そんなに残っている?特攻をかけたのではないのか?!』
ロニオスは驚きの声をあげた。
「セオディア・メレ・エトゥールのウールヴェが半数以上だよ。世界の番人と交渉して、関係者のウールヴェは除外してもらったんだ。絆の衝撃を皆に与えたくなかった」
カイルの言葉に、ロニオスは再び吐息をもらした。




