正しい猫の飼い方⑬
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カイルは、さらに羊皮紙を出してきた。
「これ、開墾の計画書と工程表ね。あ、僕の優秀な専属護衛達は、加護持ちで、ロニオスと直接に会話できるから、必要な指示を周囲の人間に通訳できるよ。種籾の数から考えて、お酒を仕込めるのは3年後くらいだと思うけど、どう思う?」
『……………………』
「天候不順や食糧不足が進行すると酒造りの文化は衰退するから、なんとしてでも阻止しないとね?メレ・エトゥールと相談して、世界を救った精霊達への奉納って方針で動いているんだ。エトゥールの民の大半は喜んで奉仕するだろう。大災厄の顛末をその目で目撃しているからね」
カイルは自分の意見にうんうんと頷く。
「雇用も生み出せるし、エトゥール周辺の土地再生のきっかけにもなる。なんたって大陸の穀倉地帯でもあったんだから再生は必要なんだよ。大陸中が天候不順の飢餓問題に陥ったら、落ちついてお酒も飲めないし、お酒の品質は落ちる。大問題でしょ?」
カイルは計画書の羊皮紙を一度猫の視界の前に広げてから、卓に積み上げていく。ほんの短時間でそれは山積みと言っていい状態になった。
「流通はリルが商人ギルドを通じて管理してくれることになっていて――あ、リルというのは、僕達の同僚サイラスの養い子で、まだ10代だけど、なかなか凄腕の商人だよ。彼女なら大陸各地の米の発酵酒を調達してくれると思うよ。未知の名品があると思うと励みになるねぇ」
語り続けるカイルを、白猫は尻尾を最高に太くして、恐怖の眼差しを向けていた。
『なんだ、この人を追い詰める悪魔は…………親の顔が見たいぞ』
「鏡をお持ちしましょうか?」
「ロニオス、諦めた方がいい」
カイルの描いた博物誌用の挿絵を整理しながら、どこか他人事のようにエルネストが、忠告をした。
「カイル・リードは人を巻き込む計画のためには、膨大な計画書の作成を苦にしない性格をしている。私達も過去に想像を超える量の計画書に埋もれた経験がある。抵抗する手段としては、いかに自分の要望を取り込ませるか、だ。よく議論して修正することしか、彼の暴挙を和らげる手段は、ない」
『…………エルネスト、君は何をしているんだ?』
「私はうっかりと、大災厄に協力するなら災厄後に彼を奴隷のようにこき使っていいという話で、手を貸したはずなのだが……気がつけば、博物誌の中で薬草関連をまとめるのに、逆に私が奴隷のようにこき使われている」
「これだってちゃんと博物誌の内容でしょ?」
批判にカイルが拗ねたように唇を尖らせる。
「確かにどの項目から編纂したいと、希望を述べなかった私の最大のミスだ。今、激しく後悔している」
エルネストは少し遠い目をしていた。
「必要とする項目を最優先にするのは、当然じゃない?研究の基本だよ」
「それは必ずしも私との希望とは一致いない、と宣言しているな?まさに、はめられた」
「ちなみに危険生物の動物関連は俺が編纂に協力していて、アードゥルは薬草・毒草の植物一般で協力していますよ」
ディム・トゥーラはさりげなく、不吉な内容をおりまぜた。
『…………ディム・トゥーラ、今、君はカイル・リードにいいように使われている、と宣言していないか?』
「俺はいつでも、この馬鹿にいいように使われているんですよ。今まで、気づかなかったんですか?」
ディム・トゥーラの悟りをひらいたような言葉が返ってきた。
「ロニオスは、博物誌の編纂では、どの分野で協力しますか?まさか、酒文化論のみ、なんて言わないでくださいよ」
『だから、私を頭数にいれるなと――』
「カイルの容赦なさの外堀の埋め方は、多分、セオディア・メレ・エトゥール仕込みだ」
『……………………は?』
ディム・トゥーラは証言をした。
「貴方が、大災厄前の結婚の儀の祝宴で、『私は縁側で日向ぼっこをしながら、朝から酒を飲んで、ほのぼのと昼寝をするのが夢だ。この夢は誰にも譲らない』なんて言うからですよ?その夢を釣り餌として採用されただけです。俺は妥協点を探すことを勧めますがね?この先、何十年も暮らすことを考えれば、自分にあった環境を確保構築することは悪くないはずでしょう。酒文化が絶滅するか、息子に利用されるかを考えれば、貴方は絶対に後者を選択するでしょ?」
『――』




