正しい猫の飼い方⑫
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『それで今、世界の番人の状態は?』
「蓄積エネルギーを使い果たして、疲れて寝ている状態だね」
『カイル・リード、その状態で取り込んでいるというのか?』
「うん、放置したら消滅するか、ろくな結果にならなかったから」
カイルは静かに語った。
「大災厄がなければ、時間や人の死にさえ干渉する強大すぎる力だ。ロニオス、貴方はある程度理解していたのでは?だから誓約なんてややこしい方式で、世界の番人を縛っていた――違う?」
『……………………』
「逆にあの大災厄の時は、貴方が死んだ扱いだったから、僕は誓約をはずれて、巨大な力の方向性を指示できたと思ったんだけど?世界の番人は協力的だった。今後はどうかわからないけどね」
『その今後はどうかわからない世界の番人を、体内で保護するリスクを本当にわかっているのか?』
ロニオスの思念には重い響きが加わっていた。
「…………わかっているよ」
カイルも静かに答えた。
純白の猫の姿をしたウールヴェは、同じ金色の瞳で、カイルを見つめたあと、視線をはずした。
『わかっているならいい』
ロニオスも俺と同じ危惧を抱いているのか――と、一連の会話を聞いていたディム・トゥーラは思った。あとでロニオスと話し合う必要がある。
『で、時間への干渉の仮説をきかせてもらおうか』
「あのさ……世界の番人は、聞いているよ?そんな重要な話題を出していいの?」
『かまわない』
「実証は今回の件しかないけど?」
『かまわない』
「時間の可逆や干渉は、それこそ人が認知するかどうか、かもしれない。例えば、多くの人が目撃したような大災厄自体は、干渉することにはできない。500年前のエレンの死や、貴方の伴侶の死などには、干渉できない。多分、ロニオスに干渉できたのは、地上の人々がロニオスの存在と消滅を認知してなかったからだ。あの時、唯一の地上人であったミナリオもウールヴェが死んだと受け止めているぐらいだったろうからね。どう、この仮説は?証明者の立場としての意見が欲しいな」
ロニオスはカイルの仮説を熟考しつつ、カイルの熱い視線に気づくと、プイっと顔をそむけた。
『………………私は仮説の立証のため、復活存在しているのではない』
「え~~意見くらい聞かせてよ」
『断る』
「流行のツンデレか?」
アードゥルが小声で突っ込み、ロニオスに睨まれた。
『復興支援の件も断る。拠点に入れない私にできることはない』
「何言ってるの?拠点に入れなくても、やれることはいっぱいあるよ?」
『断る。満足に身体も転移できない状態だ。やれることはない』
「報酬があっても?」
『報酬?』
「酒」
『……………………』
「ロニオス、その沈黙は、いささか情けないですよ」
ディム・トゥーラは、抱いている猫に突っ込んだ。
『…………酒など、東国でいくらでも手に入る』
「極上でも?」
『…………………………………………』
「ふっふっふっ」
悪魔のように、カイルはほくそ笑んだ。
「僕がロニオスと対決するのに、なんの武器も用意していないと思ったの?」
『…………武器だと?』
「まあ、元々アドリーに設ける予定だったけど、僕がエトゥールに引き籠る羽目になったから、こっちに造る予定になったんだよね。メレ・エトゥールの許可もとってあるし――」
『……待て、なんの話だ?』
カイルは先程までエルネストと話し合っていた大量の高級紙の挿絵の下に埋もれている、やや大きめの丸められた羊皮紙を取り出して、卓の上に広げた。
「これ、造り酒屋と縁側付きの小さな平屋の設計図」
『――』
「欲しいと言ってたでしょ?」
カイルは、にんまりと勝利の笑みを浮かべた。
「精霊樹と聖堂に近い中庭のここらへんに設ける予定でね?当然、杜氏職人は出入りするから、多少防御壁で管理するけど。で、酒を作るには酒米がいる。エトゥールの周辺の復興計画にそれを盛り込んでみたよ」
カイルは攻撃の手を緩めない。
「王都は孤立しているから、新しく周辺に開拓用の村や街を設営しないとね。あ、酸性雨がおさまってからの話だよ?土壌改良や運搬、酒米、米、小麦、とうもろこしとかの将来的な作付計画や水路建設、ほら、まさに猫の手も借りたい状況なんだよ」
『――』
「あ、酒米の種籾は5種類ぐらい用意しててね。酒味の好みがあるだろうから、ロニオスが選択してね。品種改良がしたいなら、アードゥルの協力の約束は取り付けてある」
アードゥルが片手をあげて、同意していることを示したが、猫の顔色は悪くなる一方だった。
ロニオス包囲網成立中。




