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第93話 ずっとあなたが大切だった

 会場の外に出ると、もう事件の収拾がついていて貴族達は屋敷へと帰っていた。

 残っているのはハインツの人間とエデルだけだ。


「ようやく一段落が終わったね、皆お疲れ様。後は裁判で彼らを裁いて、リヴェスを後継者とする手続きだけになるね」

「まあ、裁判といっても国民に知らせるために行うだけで、裁判と呼べるようなものではないがな」


 本来裁判といえば証拠を提出し、被告人の罪を明らかにするなど弁論を行うものだが、ミランが犯した罪については会場に居た貴族達が目撃者であり証人である。

 それに、ハインツに手を貸した協力者が治安判事を行うシュルツ公爵と、国の官僚を務めるエデルなのだから、弁論せずとも罪は明らかでする意味もない。


 ただ形だけでも裁判を行ってミランはこんな罪を犯した、と知らせるだけに過ぎないのだ。


「あと少しで全て終わる。そのために今日はもう解散しようか」

「そうだな」

「でしたら僕の屋敷に泊まりませんか?その方が明日も動きやすいでしょうし」

「ならお言葉に甘えようかな」


 エデルの屋敷に向かうことになったが、ここには五人居る。

 そして四人乗りの馬車が二つ。


「どう乗り分けようか…?」

「ルーが弟と二人で乗るのか良いだろう。話したいこともあると思うしな」

「それは困ります」

「何でお前が困るんだ」


 リヴェスの振り分けに不満を行ったのはノーヴァだ。

 良い采配だったと思うのだが、何が不満なのか。

 ルーペアトが不満に思うならまだしも。


「僕はリヴェスに話があるんです。それを彼に聞かれるのは嫌ですよ」

「えーあんなにあれこれ話した仲なのに?」

「いつも察するのに今日は面倒ですね」

「おい、ハルトを悪く言うな」

「冗談ですよ。嫌なのは本当ですが」

「二人にさせてあげたいけど、彼女達の方も二人にさせてあげるべきでしょ?」


 ティハルトからしたら悩ましい事柄だろう。

 リヴェスとノーヴァの関係をよく知っているからこそ、関係が修復するかもしれない今、二人に話し合ってほしいと思っているだろうし、ルーペアトとエデルの姉弟を二人にしてあげたいという気持ちもあるだろうから。


 しかし、馬車は二つしかない。

 最悪の場合、待ってでももう一つ用意してもらうことになる。


「僕は陛下が一緒でも良いですよ。ね?姉さん」

「うん。私も大丈夫ですよ」

「本当に良いのかい?」

「この先話す機会はいくらでもありますから、僕は別に姉さんと二人で話すことを急いでないですし、陛下が居てくれたら話がもっと盛り上がりそうなので」

「嬉しいな、ありがとう」

「じゃあ決まりですね」


 そしてリヴェスとノーヴァが二人で馬車に乗ることになった。


(これで二人の関係が良い方向に進みますように)


 ルーペアトは馬車に乗るリヴェスを見ながら祈る。


 スイッチや爆弾を作ったのがノーヴァだと聞いた時は、また関係が悪化するんじゃないかと思った。

 でもノーヴァの目的はリヴェスをヴィズィオネアの皇帝にすることだと言っていたから、きっとリヴェスを想っていると信じている。


 馬車でノーヴァと二人きりになったリヴェスはすぐに口を開いた。


「聞きたいことは山ほどあるんだが」


 ティハルトからノーヴァはリヴェスを皇帝にして、宰相になるのが目的なのは聞いている。

 しかし理由はわからないし、ミランに加担するふりをしてまで目的を果たそうとしているのが理解出来ない。


「わかってますよ。で、どうして僕があの時のことを黙っているのか、答えは出たんですか?」

「今それを聞くのか?」

「そこから話さないとおかしくなるのでね」


 両親の訃報が書かれた新聞を書いたのがノーヴァだと知ってから、リヴェスが考え続けていた謎だ。

 その答えはルーペアトと話して答えは出たものの、当たっている自信はない。


「お前は俺が皇族じゃなくなったことに怒っていただろ?だから、俺に皇族でいてほしかったのと、皇族じゃなくなった俺の今後を心配してくれていたんじゃないかと考えたんだが…」

「間違ってはいないですね。むしろそこまで考えられたのが意外なくらい。そもそも完璧な正解が出てくると思ってないので」

「お前な…」


 リヴェス一人で出した答えではないから、意外だと言われても反論は出来ない。

 しかし正解が出ると期待されていないのはどうかと思う。


 思い返してみると、ノーヴァには振り回されてばかりな気がする。


「僕はリヴェスと親友だと思ってました。だから皇族だと聞かされた時は、嘘をつかれていたんだと落ち込んだんですよ。それでもあなたに追いつこうと勉強して宰相になろうと思っていたのに、あなたが皇族の身分を捨てたなんて言うから、僕の夢が台無しになったんじゃないですか。…まあ、僕のただの我儘ですけど」


 リヴェスはまさかノーヴァにそれほど想われていたとは思わず、驚きで何も言葉を返せなかった。

 ノーヴァが正解が出ないとわかっていたのは、リヴェスが自分を卑下していることから、自分が想われていることに気づけないと思っていたのだろう。


「それからして、あの男に頼まれて英雄を探していれば、彼女が英雄の可能性が高いと思ってね。なら彼女は皇族だろうし、ミランを排除すれば自然とリヴェスが皇帝になると考えたんだよ」

「…なんとなくわかった。それを何でもっと早く言ってくれなかったんだ」

「それは僕も意地になってたんですよ」


 自分はこんなにもリヴェスを想っていたのに、リヴェスは皇族じゃなくなったというだけで、もう今までのように頻繁に会えないと言うから、リヴェスにとって自分は大切な存在ではなかったのだと。


 そこで商会長になり、商会に関する者が何か起こしたらリヴェスが会いに来てくれることがわかった。

 だからあえて問題を起こしたり、意地悪をしていたのだ。


「実は僕にとって一番大切な人はウィノラではなく、リヴェスなんですよ。リヴェスにとってはそうじゃなかったみたいですが」

「そんなことはない。俺だってノーヴァのことを一番の友人だと思っていた。だからこそ、肉親を殺した俺なんかがノーヴァのそばに居るべきじゃないと離れたんだ」

「離れた理由はなんとなく察しがついていましたが、一番の友人ですか…、それを聞けてやっと報われた気がしますよ」


 お互いに大切に想っていたのだから、早く話し合っていればすぐに元の関係に戻れていただろう。

 それはティハルトにも散々言われ続けていたことだ。


 でもここまで話し合う時間を延ばし、意地を張っていたからこそ、気づけた部分がたくさんある。

 きっとあの後すぐに話していたなら、リヴェスは頑なにノーヴァのそばを離れようとしていただろう。


 リヴェスがノーヴァを大切に想う気持ちが強い程、離れようとするからだ。

 なら問題を起こしてノーヴァを想う気持ちが減らせるほど、離れようと思わなくなると考えた。


「まだ僕の目的が達成されたわけじゃないですが、その時がもう目前に迫ってきてますね。あ、勿論宰相に任命してくれますよね?」


 この確認はしておかなければ。

 いくらノーヴァが宰相になるつもりで動いていても、リヴェスが宰相にしてくれなければ目的は果たされない。


「フッ…、わかったよ。だが商会は良いのか?それにリオポルダ男爵令嬢も」

「ここまで緻密に計画しておいて何も考えてないわけないでしょう。ウィノラに関しても大丈夫だよ。リヴェスがヴィズィオネアに居るなら彼女も居るからね」

「確かに、ルーが居るなら喜んでついて来そうだ」


 情報収集力が高いノーヴァが宰相になってくれれば、今後ヴィズィオネアを治めて行く上で役に立ってくれることだろう。

 官僚にルーペアトの弟であるエデルが居て、更には今回の計画で信頼出来るヴィズィオネアの貴族も増えたことだ。

 ヴィズィオネアはどんどん良い国になっていくと確信している。


「今まで悪かった、ノーヴァの想いに気づけなくて」

「僕の方こそ意地を張って悪かったです。これで仲直りですね」

「ああ、これからよろしく頼む」

「こちらこそ」


 握手を交わし、八年経ってようやく二人は仲直りすることが出来た。

 ティハルトとルーペアト、そしてウィノラなど事情を知っている者は、仲直りしたと聞いて喜んでくれるだろう。


「それにしても八年って拗らせ過ぎましたね」

「そうだな。でも、俺ららしい」


 エデルの屋敷に着くまで、二人は昔のように笑いながら話し合っていた。

読んで頂きありがとうございました!


ノーヴァのリヴェスに対する気持ちですが、尊敬は勿論のこと友達以上恋人未満の様な気持ちで、大切な人はリヴェス、愛している人はウィノラという感じです!


それほどノーヴァがリヴェスを大切に想うようになったきっかけは、後に番外編で出しますので楽しみにしていて下さい^^


次回は木曜7時となります。

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