第92話 これで本当に最後
俯いていたミランが顔を上げたと思ったら、その表情に驚いてしまった。
憎しみが籠もった瞳に涙が溢れていたからだ。
(え?泣いてる…?)
「…結局、俺の味方は誰も居ないんだな。あーあ、ロダリオを殺すのは辞めるわ。お前が死んで他の奴らが悲しむ姿ほど、つまらないものはない。…俺が死んだって誰も悲しまねぇのに」
最後の一言はよく耳を澄ましていないと聞こえないくらいの、本当に小さな呟きだった。
リヴェスを殺さないと言った言葉は、新しい作戦なのではないかという考えが過ったが、殺気もなくなっているし嘘ではなさそうだ。
「だが俺は計画を諦めたわけじゃない」
そう言ったミランは踵を返し、会場の方へと走り出す。
「おい、待て!」
会場に向かったということは、ミランの両親が会場に居るのではないかと考えていたエデルの予想は当たっていたのだろう。
そうでなければ今更会場に向かう理由がない。
ミランは剣を持っているし、両親を殺そうとしているはずだ。
すぐにリヴェスとルーペアトが追いかけようとするも、走り出したのがミランと同時ではないため、なかなか追いつくことが出来ない。
そんな時、ルーペアトはあることを思い出した。
(この光景…あの時みたい)
思い出したのはリヴェスとの出会いである、夜会で怪しい人間を追っていた時のことだ。
あの時男を捕らえた方法と同じことをすればミランを捕まえられると考え、ルーペアトは片足の靴を脱いでミランの後頭部へ思い切り投げた。
「いってぇ…!!」
靴は見事にミランの後頭部に良い音を立てて直撃し、痛みで思わず頭を抱え蹲ってしまい、リヴェスに捕まった。
「もう逃がさないからな」
「くそっ…!靴を投げる女がどこにいんだよ!」
「ここに居るでしょ。ちなみに靴を投げたのはこれで二回目なの。剣じゃないだけ良かったと思ったら?」
「俺の計画がこんな形で終わるなんて屈辱だ…!」
ルーペアトは靴を拾い、履き直しながらミランに言い返す。
動きやすいように踵はそれほど高くないものの、硬く鋭いため攻撃力はかなり高い。
当分の間は腫れて痛むことだろう。
「こうして助けられるのは二度目だな、助かった」
「今回も靴が役に立って良かったです」
ミランの腕を縛り終え、リヴェスと同じことを思い浮かべながら話していれば、後ろから笑い声が聞こえてきた。
「あはは!まさか姉さんが靴でミランを止めるなんて思わなかったよ。やっぱり姉さんは凄いね」
「しかも二回目って…面白過ぎますよ」
「ノーヴァはまだしも、エデルまで…」
エデルはお腹を抱えるほど笑っているし、ノーヴァも笑うのを抑えきれていない。
「おい!俺を放置したまま談笑するな!」
「後で話は聞いてやる。とりあえず部屋に入れて見張らせておく、そして俺達は会場に行こう」
「そうですね」
ミランは最後まで何か叫んていたが、リヴェスの部下達に連れられて行った。
ルーペアトはリヴェスと共に会場内の確認と、ミランの両親を探しに向かう。
恐らくミランの部下が見張っているだろうから、場所はすぐにわかるだろう。
会場に入ってから暫く経った後、服を着替えたりする用途で使われる準備室の周りだけ人の気配がなく、異様な雰囲気だけが漂っている。
まさかこんなところに居るとは思いもしなかった。
扉を開ければ予想通り、ミランの両親は拘束されていて、ルーペアトも知っている騎士が何人か立っていた。
「何をしにきた」
「久しぶりですね」
睨みつけながら剣を向けてきたのは、以前小屋に閉じ込められた時に戦った幹部らしき騎士だ。
リヴェスは剣を持たずにルーペアトと騎士の間に割って入り、堂々と宣言を始める。
「今回の事件の首謀者であるミラン皇太子は捕らえた。もう争い事は起こしたくない、その剣を下ろせ」
「…そうか、終わったのか」
以外にも騎士はあっさりと剣を下ろし、他の騎士達も戦う気はもうないようだ。
ミランの味方が居ないという言葉には、部下のことも含まれていたのだろうか。
ルーペアトを捕らえた時、主に会わせるなどと言っていたのに、忠誠心はないのかとルーペアトは不思議に思う。
ミランに意見を行ったり、否定したりするようなことがあれば、命がないとでも思って従っていただけなのかもしれない。
「両陛下も拘束を解かずにこのまま連れて行かせてもらう」
「わかっている。…はぁ、どこで間違えたのだろうな」
「あなたがミランと結婚していればこんなことにはならなかったのに!」
皇帝は抗うことはせず諦めた様子だが、皇后は全てルーペアトのせいだとキツく睨みながら憤慨していた。
皇后の、そしてミランの思い通りにならなくて本当に良かったと、心から安堵する。
「少なくとも、どちらかが彼に対しちゃんと向き合い、愛していたなら、こんなことをする人間に育たなかったはずだ」
「…そうか」
皇帝はリヴェスの言葉に一言だけ呟き、後から来たリヴェスの部下に連れられて会場から出て行った。
騎士達も疑いたくなるほどに従順で、何も言わずとも会場を出て行く。
今は抵抗するよりリヴェスに従う方が、今後を考えると良い判断だと思うけれども、あまりにも切り替えが早すぎる。
「まだ色々やることは残っているけど、ひとまず終わりましたね」
「ああ、一時はどうなるかと思ったが、無事上手く行って良かった」
「リヴェスの首に剣が突きつけられた時は本当に冷や冷やしました…。もうあんなことはしないで下さい」
「すまない。二度としないと約束する」
「はい、絶対ですからね」
これから皇室の処遇について考えたり、ノーヴァの考えなども聞く必要があるが、ようやく一息つくことが出来る。
ここまで成し遂げられたのは皆のおかげだ。感謝してもしきれない。
「俺達も戻ろう」
「そうですね」
夫婦なのに隣り合って歩くだけの関係も、全てが片づいた時には変わっていることだろう。
読んで頂きありがとうございました!
まだまだミランは登場しますが、本当にようやくここまで来ました!
長かったようで短かったような…(´-`)
とにかく、物語もまだ続いていきますので、引き続き頑張って参ります!
次回は日曜7時となります。




