第25話 心強い味方
リヴェスの過去の話を聞いてから数日、その間に着々と準備を進めていった。
建国祭の日まで後三日、今日は会場を下見するのと同時に陛下、つまりリヴェスの兄を紹介してもらう。
それを聞いて、ルーペアトは緊張して落ち着けずにいた。
(私、大丈夫かな……)
お互いに準備で忙しいが、同じ場所に居合わせるから挨拶だけはしようということになったのだ。
会場には下見と準備で行くため、服装はパーティーに行くような華やかなドレスではなく、動きやすい服を纏っている。 それにお化粧をしていれば、多少見目は良くなるのにそれもない。整った顔立ちをしているリヴェスには、同じく美人で可愛げのある令嬢が似合っているだろうに、自分には可愛さの欠片もないとルーペアトは卑下していた。
なんといっても、ルーペアトは幼い頃から剣を振るうことばかりしていたわけで、普通の令嬢のような刺繍などの可愛らしい趣味も持ち合わせていない。強いて言うなら花を愛でているくらいだろうか。
それに、世の令嬢の大半は愛され、綺麗なものだけを見て純粋無垢に育ち、人を手に掛けることとは完全に無縁だ。
しかしルーペアトは平民で令嬢にとって無縁の道を歩いて来た。だから過去のことだって、良い行いだとは言い難い。純粋無垢ではないし、闇ばかり見て育っている。
そんな自分がリヴェスのたった一人の家族に会っても良いのかと、不安で仕方がない。
とにかく自分に自信が持てなかった。
会いたいと願っていたものの、いざ会うとなるとこんなにも楽しみが不安になることが不思議だ。
(困った……)
どうしようかと悩んでいる内に、会場へ向かう準備が出来てしまってもう行かなければならない。
自信をつける方法も不安を減らす方法も浮かばず、ルーペアトは溜息をつきながら馬車へと向かった。
「どうした?顔色が良くないが体調が悪いのか?」
不安が表情と顔色に出ていたのだろう、外に出てきたらすぐにリヴェスに心配させてしまった。
「どこも悪くはないのですが…、リヴェスの妻として陛下に会うのに自分に自信が持てなくて…」
あまりにも案が浮かばなかったルーペアトは、本音を吐露する。
それに対してリヴェスは何か考えている様子だった。
「…そうだな、自信が持てない理由を教えてくれないか?何か思いつくかもしれない、向かいながら話そう」
「はい、ありがとうございます」
どうやら一緒に自信をつける方法を探してくれるようだ。それはとても心強いが、こんなことで頭を使わせてしまうのも申し訳ない。
色々思うことはあるけれども、とりあえず会場に向かうため馬車に乗り込んだ。
「…まず、陛下に会うのにみすぼらしくないですか?装飾品だって着けてないですし、言わなければリヴェスの妻だとわかりません」
「それなら問題ない。兄上も準備するのに正装を着ているわけではないし、人前に軽々と出られる身分ではないから変装している。兄上が皇帝だと気づく者は居ないから同じだろう?」
「あ…確かに…、陛下も動きやすい格好して来ますよね」
「周りからしてみれば、ただ俺が準備のことで貴族と話している様に見える」
皇帝だから常に煌びやかな服装をしているものだと思っていたが、言われてみれば準備にそんな服を着ているのはおかしい。人が群がったり、命の危険もあるのだから変装するのも当たり前だ。
リヴェスが元皇族だったことで、陛下側の詳しい話が聞けるのが本当に助かる。
「ですが服装は大丈夫でも、顔立ちも天と地の差ですし、令嬢らしくもありませんよ…?」
「自己評価が低いな…。ルーはそこらの令嬢と比べものにならないほど顔立ちは良いと思うが」
「そうです…比べものにならないほど悪……え?」
(比べものにならないほど、良い…?)
まさかそこまで言われるとは思わず、聞き間違えたのかと思った。
リヴェスがルーペアトの見た目を悪く言うことはないとわかっていたから、言われてもせいぜい気にしなくても大丈夫だとか、ただ良い方だと言われるくらいだと思っていたのだ。
「お世辞じゃなく本心だ」
お世辞でもそれは言い過ぎではないだろうか、なんて思っていたのを読まれたかのようにリヴェスは付け加えてきた。
身に余る褒め言葉にルーペアトは何も返せず呆然としてしまう。
「…俺から見ればの話だし、他の者はそう思わないかもしれない。だから悪く言われた時は俺に言うといい。俺と兄上が許さないからな」
「陛下も、ですか?」
「ああ。契約結婚でも俺が自ら結婚すると望んだからな、兄上もルーに会えるのを楽しみにしているんだ。兄上はルーの義兄になるわけだし、契約が終わってもルーのことは大切にしてくれる」
その話には何故かすぐに納得がいった。リヴェスがこれだけルーペアトを大切にしてくれているのだから、血の繋がった陛下も同じように大切にしてくれると。
(陛下も楽しみにして下さっているんだ…)
そう思うと気持ちもかなり楽になった気がした。
契約結婚だということをリヴェスが話しているなら、生まれのこともデヴィン伯爵家のことも知っているだろう。
だから最初から何も気にする必要はなかったのかもしれない。
「本当にありがとうございます」
「表情が良くなったな」
色んな気持ちを込めて感謝を伝えれば、リヴェスは柔らかな微笑みを返してくれた。
そんな姿にルーペアトは胸がジンと熱く締め付けられる。その温かさを感じて涙が出そうだった。
(私にハインツで一番心強い味方がついてくれているな…)
皇帝とその弟、これ以上に心強い味方なんて居ない。
出会えたのは奇跡だ。手放したくない、手放してはいけない。でもいつかは離れなければいけないのだ。
だって、本当はハインツに居るべき存在ではないのだから。
読んで頂きありがとうございました!
不調が治ればまた別の所が不調に…
最近は暖かい日もありますが、皆様も体調にはお気をつけ下さいね
皆様の健康を願っております-人-
次回は火曜7時となります。




