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国の元最強女剣士は、隣国の契約夫に大切にされる  作者: 希空 蒼


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第24話 八年前の出来事

 リヴェスは皇族として産まれたものの、物心がつき始めた頃から既に別塔で暮らしていた。そこは皇宮、離宮のある敷地の中で特に孤立している場所だ。

 本来は襲撃がないか見張るために使う塔だが、灯り一つもない薄暗い部屋がリヴェスにお似合いだと、母親によって追いやられていた。


 生まれたことを公表されることもなく、知っている人物も数少ないことから、次第にリヴェスが居た記憶も失われていき居ないのも同然に。

 そんな中リヴェスは、塔にあった少しの本を何度も読み返して自力で言語能力を手に入れ、剣を何万回と振り剣術を自分のものにした。

 食事は皇宮に潜んで食べたり、街で裏仕事をして稼いで何とか生き延びてきたのだ。


 そんな生活が続いて十四歳になってしばらくして、ある人物が塔を訪ねて来た。


「初めまして。ずっと…ずっと会いたかった」


 今にも泣き出しそうに目に涙を浮かべていた青年は、空色の髪に橙色の瞳ですぐに自分の兄だとリヴェスは気づく。

 しかし、何故会いたかったのかと疑問に思い警戒して、始めは一言も話さなかった。


「僕は君の兄のティハルトだよ。名前は?」


 名前を聞かれたリヴェスは、鼻を鳴らしてそっぽを向き「そんなものはない」と強く突き放した。ティハルトは申し訳ないというような表情を浮かべ、小さく「そっか…そうだよね」と拳を握って下を向く。


「…今更僕の話なんて聞きたくないかもしれないけど、何も返さなくて良いからただ聞いてほしい」


 そう言ってティハルトはここまで来てリヴェスに会いに来た理由を話し始めた。

 まずリヴェスが生まれた時ティハルトは六歳で、ここに来たのは二十歳だ。その十四年の間にどうして会いに来れなかったのか。

 そこから話は始まった。


 ティハルトはそもそも弟が産まれると知って、そのことを凄く楽しみにしていたのだ。兄として良い手本になれるよう必死に頑張って来た。

 しかし、母親のお腹が元に戻ったのにリヴェスには会わせてもらえず、あろうことか存在は亡き者の様に扱われていたのだ。

 会いたいと母親に懇願しても「あなたに弟は居ない」と会わせてくれることはなかった。抜け出そうにも、幼い頃はまだ勉強の予定が詰められていて行けず、抜け出せてもすぐに騎士に見つかってしまい会いに行くことが出来ず。


 そして十四年が経って二十歳になり、使用人や騎士達を上手く使うようになった。

 わざと時間の掛かることを頼んで見張りを遠ざけ、騎士達にも嘘をついて別の場所に行かせ、そこまでしてようやく塔に来ることが出来て今に至る。


「会いに来るのが遅くなってごめん。…これからは頻繁に会いに来てもいいかな?」


 ティハルトの話が本当かどうかはわからない。それでもティハルトの浮かべる表情の全てが嘘ではないような気がして、信じてみたいと思いリヴェスが静かに頷けば、ティハルトはやっと笑顔を見せ「ありがとう」と嬉しそうだった。


 それからティハルトは本当に頻繁に塔に来るようになり、来る度に食料や服、本などこれまで与えられなかったものを持って来てくれ、リヴェスは更に知識を身に着けていく。

 時にはティハルトに教えてもらったりと、仲は深まっていき兄上と呼ぶまでになった。


 しかし、そんな楽しい生活も長くは続かず、半年を過ぎた頃母親に気づかれティハルトを迎えに塔までやって来たのだ。


「部屋に居ないから探してみれば、こんなところに居たなんて…。そんな子といたらあなたまで呪われてしまうわ」

「呪われることなんてありません」

「あら、もしかして既に何か吹き込まれでもしたのかしら。そうじゃなきゃハルトがここに来るなんてありえないわ。…お前、一体何をしたの」


 母親は鋭くリヴェスを睨み、ティハルトはそれを見てリヴェスを背中に庇うように隠した。


「僕が会いたいから来ているんです。彼は何も悪くありません」

「兄上…」

「…そう。まさかあなたが私に歯向かうなんて…、暫くは外出禁止ね」


 そう言って息子二人に対し冷たい目線を向けた母親は背を向け去って行った。

 ティハルトは暗い表情をしていたがすぐに切り替え、リヴェスの方を向いて微笑む。


「大丈夫、絶対手出しはさせないから。…ただ、当分は来れそうにない」

「そんな無理しなくてもいいのに…」

「無理してないよ。僕にとって弟と過ごす時間が唯一落ち着ける時間だから」


(兄上は母上に愛されているんじゃなかったのか…?)


 母親がティハルトに向ける視線は愛情を持っているとはとても思えなかった。言葉では大事な息子を守ろうとしているように聞こえるけれど、愛よりも束縛や執着心に近い気がする。

 何故そこまで執着しているのかはわからない。だからこそ、その理由を知らなければならないだろう。それを知って対処することが、今リヴェスに出来ることだろうから。


「そうだ。次ゆっくり話せる時は名前を決めよう、約束だ」

「うん」

「じゃあ、またね」


 リヴェスの頭を撫でて、ティハルトも皇宮へと戻って行った。

 そしてリヴェスにはある決心が生まれる。


(…兄上を守れるのは俺だけだ)


 この日から数週間経っても経ってもティハルトは現れず、まだ外出禁止が解かれていないことを悟り、リヴェスは裏仕事で仲良くなった人物を集め皇室の情報を集め始めた。

 数日の調査でわかったことは、両親は政略結婚で母親は令嬢の頃から当時皇太子だった父親に恋をしていたそうだ。念願だった好きな人との結婚、しかし父親から愛の眼差しを向けられることはなかった。

 皇帝になるための駒としか見ていなかったのだ。そのため、愛する人によく似たティハルトを溺愛するようになった、ように思えるが実際はただ母親が得られなかったものをティハルトに求めていただけだったのだ。ティハルト自身を愛しているわけじゃない、ただ似ているから愛しているだけで、ティハルトを通して父親を見ている。


 ティハルトは大人になるにつれてますます父親に似ていくことだろう。それはより一層母親の執着心を強める。このままではティハルトは母親に縛られたままだ。

 解放するには殺すしかない。ついでに無関心な父親も殺して、ティハルトに即位してもらえばいいのだから。

 ティハルトは絶対に良い皇帝になる。人の上に立って国を纏める才能があると、リヴェスは感じていた。


 そう決めたリヴェスはある日の夜、仲間に手伝ってもらい何とか皇宮に忍び込むことに成功する。教えてもらったティハルトの部屋の場所へ一直線に向かう。

 扉の前に着けば、騎士は居なかったが扉には鍵が掛けられていた。それを壊したリヴェスは部屋へ入り、疲れている様子のティハルトと目が合う。


「兄上…!」

「どうした!どうしてここに…」


 ティハルトは勢いよく席を立ち、リヴェスの元へ駆けつけ抱き締めた。


「兄上が心配で助けに来ました」

「―僕は…いや、会いに行けなくてごめん。出ようと何度も試みたんだ…」


 何かを言いかけていたが、ティハルトはすぐに謝罪をした。

 その姿のティハルトは弱々しくやつれている様に見える。抱き締められて、リヴェスはティハルトが前会った時よりも痩せているのも感じた。


 後ろの机に目を向ければ、たくさんの紙が詰まれている。数週間、この部屋から出ることなくずっと仕事をしていたのだろう。食事もまともに取れなかったのだろうか。

 その状況にリヴェスは更に母親に対する憎悪が強くなった。勿論、それに何も言わない父親にも。


「…兄上。俺は両親を殺すつもりです」

「っ!!何で急に…いやそう考えててもおかしくなかったね…。ごめん、僕のせいで」

「兄上のせいじゃありません。これは自分のためでもあります。だから許可して下さい」


 悩んでいる様子のティハルトは、初めてリヴェスに会いに来た時と同じ顔をしていた。嬉しいようで申し訳ない、罪悪感に包まれている表情。


「……わかった。両親はこの上の部屋で寝ているよ」

「ありがとうございます」


 それを聞いてリヴェスはすぐに上の階へと向かい、寝ていた両親を手に掛けた。寝ていたからか恐れる表情も嘆き苦しむ断末魔も聞けなかったが、やっとこの生活から抜け出せることが心底嬉しかった。

 寝台も床も壁も、全てが血に染まって、酷い鉄の匂いが鼻を刺激する。


 暫く死んだ両親を眺めていれば、ティハルトが部屋にやって来た。


「ごめん…ごめんね…」


 膝を着いたティハルトはリヴェスを今度は強く抱き締めながら、ひたすらに謝罪の言葉を繰り返していた。

 それだけリヴェスに対して申し訳なかったのだろう。


 落ち着いてから二人は寝室を出て、これからのことについて話をする。


「後処理は僕に任せて、両親は別の死因で亡くなったことにしておくから」

「わかった」

「今日は僕の部屋を使うといいよ。僕以外誰も来ないから。色々片付いたら専用の部屋も用意しようね」

「ありがとう、兄上」

「じゃあおやすみ」

「おやすみなさい」


 言われた通り、リヴェスはティハルトの部屋を使った。部屋の中は国に関することの本がたくさんあって、あんなことをした後だがこれまで見られなかった兄を知ることが出来て嬉しい。

 リヴェスが暮らしていた塔より何倍も良い部屋でも、お互いに辛い気持ちで過ごしていたのは同じだろう。

 でも、もうそんな辛い生活が来ることはない。


 その夜、リヴェスは久しぶりに安心して眠ることが出来、朝までよく眠ることが出来た。


「おはよう」

「…おはよう」


 起きればティハルトも部屋に居てもう仕事をしていた。きっと寝ていないのだろう、目の下に少し隈が出来ている。


「朝ごはん食べながら話そうか、何が食べたい?」

「美味しいもの」


 まさかの返答にティハルトは一瞬驚いていたが、「これから好きなものが見つかるといいね」と微笑んでいた。

 それから食事中に昨夜の後を教えてもらい、母親が愛してくれない父親に対して愛想を尽かして殺し、その後に母親も自害したことにしたそうだ。

 皇后が皇帝を一方的に強い愛を向けていたことは街では有名らしく、皆して疑うこともなくそのことを信じた。


「言ってた約束だけど、リヴェスはどうかな?」

「どういう意味があるの?」

「有名な戦士だよ。これから僕と一緒に仕事をしていく中で、人に知られず隠れて生きて来たこれまでと違って、名前が知れ渡るほど皆に慕われる戦士になって欲しいから」

「リヴェス…」


 心の中で何度もその名前を反芻した。皆は当然のように持っている名前をずっと持っていなかったリヴェス。ようやく自分だけの名前が貰えて、しかも兄の想いが込められた名前だ。


「嬉しい、ありがとう兄上」

「良かった。これからよろしくね、リヴェス」


 そうして二人は兄弟ということは隠しながらも共に同じ道を歩んで行った。

読んで頂きありがとうございました!


ようやくリヴェスの過去を書けて良かったですが、二人の気持ちを考えながら執筆するのは辛かったです;;


次回は土曜7時となります。

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