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第23話 リヴェスの話

 執務室の前に着いたルーペアトは、大きく深呼吸をしてから扉を軽く叩いて扉を開けた。

 中へ目をやると、リヴェスは仕事をする席ではなく、人と話す時の長椅子に座っている。ルーペアトが来るかどうかはわからないのに、ずっと長椅子に座って待っていたということだ。

 来なければ、一体どれほど待つつもりだったのだろう。


「来てくれたんだな」


 リヴェスはルーペアトが来たことに少し驚きつつも、ルーペアトに向かいに座るよう促した。

 ルーペアトはリヴェスの姿を見て、緊張していることがわかる。リヴェスが緊張しているのは珍しいだろう。


「聞いても本当に良いのか?」

「はい。どんな話でも受け止める気でここに来ましたから」

「…そうか」


 ルーペアトの言葉を聞いてリヴェスは少し安心した様子を見せた。

 しかし、表情は暗く思い詰めた様な顔をしている。


「…まず、俺には六歳上の兄が居るんだ」

「お兄さんが…」

「兄はハインツの皇帝だ」

「えぇっ!?」


 こんなにも驚いたのは生きていて初めてだ。思わず声も裏返ってしまったくらいに。


「それはつまり…リヴェスが皇族ということですよね…?」

「そうだな。だが俺は"元"皇族だ」


 元皇族だと聞いて納得出来る部分はある。今も皇族だったならロダリオ公爵として過ごしているのも不思議だし、何より他の貴族達が皇族だと知らないはずがない。

 リヴェスは表でも裏でも、悪く言われ嫌われているのだ。それはリヴェスを皇族だと知らない証拠、普通なら侮辱したとして罪に問われる。


「皇族の身分を捨てたんですか?」

「捨てたと言うよりも、剥奪されたことにした。以前俺の両親は居ないと言っただろう?」

「はい。その両親が元皇帝陛下なわけですね」

「ああ。八年前に元皇帝が亡くなって、兄が即位した理由は俺が……両親を殺したからだ」

「…っ!!」


 リヴェスの重い言葉にルーペアトは目を見張った。居ないと言いづらそうに言っていた理由が、まさかリヴェスが殺したからだとは思うはずもない。

 それに八年前ということはリヴェスは当時十四歳だ、まだ幼いというのに。

 あまりの衝撃にルーペアトは何も言えなくなってしまった。


(両親を……)


 両親を殺されたルーペアトにとって、自分の両親を殺すなんて考えられない。

 でも、リヴェスは理由もなく人を殺したりしないと、まだ時間を共にしてそれほど経っていなくてもわかる。だから、両親を殺したのには必ず理由があるはずだ。


「どうして…そんなことに?」

「父は空色の髪に、橙色の瞳だった。兄は父の色をそのまま受け継いで産まれた。俺は…両親のどちらの色も受け継がなかった。両親は政略結婚だったが、母は一方的に父のことを愛していて愛を求めていたが返ってくることはなく、代わりに父によく似た兄を溺愛していた」


 父親に似た兄は愛され、似ていないリヴェスは愛されなかったのだろう。それはデヴィン伯爵家で血の繋がった娘が産まれてから冷たくされたルーペアトと同じだ。

 ルーペアトはまだ血の繫がりのない両親だったから良いが、リヴェスは血の繋がった肉親なわけだ、より辛かったはず。


「母は俺のことを酷く嫌っていたし、父は俺達に無関心だった。幸いだったのは、兄上は両親に不満を持っていて、別棟で暮らす俺のことを気に掛けてくれていたことだ」

「陛下はリヴェスの味方だったんですね」

「そうだ。だから俺が両親を殺したと知った時は感謝してくれたが、同時に兄上の罪悪感は更に強まってしまった…」


(そっか……、陛下は冷遇されている弟であるリヴェスに、ずっと幼い頃から罪悪感を…)


 リヴェスが別棟で暮らしていたなら、愛されていた兄は皇宮で暮らしていたはず。リヴェスとはあまり会えなかったのだろう。

 それでもリヴェスが気に掛かっていた兄が会いに行きたいと思っても、会わせてもらえなかったのかもしれない。だから兄も母親に対して不満があった。


 リヴェスは愛してもらえないのに兄は愛されて、それなのに母親に不満を持ってしまったのだから、リヴェスに強い罪悪感を抱くのも無理はない。


「…それから俺は存在を知られていないのをいいことに、最初から産まれたのは兄上だけだったことにした。兄上は即位して表の仕事を、俺は裏の仕事を手伝っていたんだ。そして二年前、二十歳の時に、仕事の褒美として兄上が俺に公爵位と屋敷を贈ってくれた」

「そうだったんですね…」


 確か以前、いつからこの屋敷に住んでいるのか聞いた時にジェイが二年前だと言っていた。

 リヴェスの過去を聞くと、屋敷の庭があんなことになるのは仕方ないかもしれない。きっとまともな教育も受けさせてもらえなかっただろうから、屋敷の管理は大変だったのだろう。

 だから使用人も少ないし、ルーペアトの侍女にリヴェスの部下が就いたのだ。


「……過去の話はこれで終わりだが…後悔はしていないか?元はと言えど、ルーは皇族の妻になっていたんだ」

「皇族でも皇族じゃなくても、リヴェスはリヴェスですから、妻になったことに後悔は全くありません」

「…そうか。それでも最初に言えなくて申し訳ない」


 リヴェスは立ち上がって深く頭を下げた。

 今でも契約を結ぶ時であっても、リヴェスとは契約結婚をひていたと思う。

 ルーペアトにとって家から出られる、またとない好機だったからだ。


「いえ、それは本当に気にしないで下さい…!」

「…ありがとう」


 感謝を述べ、再び腰を下ろしながら微笑みを浮かべたリヴェスは、心底安堵した様子だった。

 もう思い詰めた様な顔は一切ない。全て話せたことで、胸に引っ掛かっていたものが無くなったのだろう。


「それで建国祭で兄上に会って欲しいんだ」

「はい、是非会わせて下さい。私もハインツの街並みを見て陛下は凄いなと思い、会ってみたいと思っていたんです」

「それは良かった。兄上も喜ぶよ」


 それから建国祭に関して少し打ち合わせをした後、ルーペアトは執務室を出て自室に戻った。

 まだ夕方になったばかりだが、濃い一日だったと思う。


 ルーペアトは寝台に横になって、リヴェスから聞いた話を振り返る。


(陛下と兄弟だということよりも、両親を殺したことの方が言いづらかっただろうな…)


 ルーペアトが育ててくれた両親が大好きだったけど事故で失ってしまったと言っていたから、リヴェスは自分の両親の話をしづらかったに違いない。

 嫌われて、他の令嬢と同じ様に破談になるかもしれないと不安に思っていただろうし。


(私は過去のこと全然話せてないのに…)


 リヴェスがあんなに言い難いことを話してくれたのに、ルーペアトは両親の死因でさえ嘘をついている。

 本当のことは平民だったということしか言っていない。


(…私も話さないとね)


 でもまだ言うことは難しい。せめて、建国祭が終わってからが良いだろう。

 その後に言い出せるかどうかはわからないが。


(そういえば、ハンナが陛下に対してよく存じあげてないって頑なに詳しく話さなかったのは、リヴェスのお兄さんだったからか…)


 ハインツで長らく暮らしていてそんなに知らないものかと、疑問に思っていた謎がようやく解けた。


(陛下に会うの楽しみだな)


 リヴェスと仲が良いのだから、両親が良くなくても陛下も優しい人だと思う。

読んで頂きありがとうございました!


次話はリヴェス視点で過去の生活や、兄とどんな風に幼少期を過ごしていたのかがわかるお話です!


次回は水曜7時となります。

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