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インテリマフィアのオルゾさんと無貌の天使  作者: ただのぎょー


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インテリマフィアのオルゾさん、頭を下げる。

 オルゾはアンジーのその言葉を聞くと懐からスマートフォンを取り出した。

 そして画面に指を走らせると、音声をスピーカーに変える。スマートフォンを摘むように顔の横に持ち上げ、ただこう告げた。


れ、兄貴」


 返答はない。だがアンジーは電話口の向こうで、鮫のように歯を見せた笑みを浮かべるアキッレーオの姿が見えた気がした。

 風を切る音がする、そして誰か知らない男の悲鳴。


「ぐぁっ!」


 足音。駆けているのだ。だがその音はあまりにも小さかった。

 アンジーも足音を殺す訓練を受けている。だが自分よりも大きく、体重のある成人男性であるアキッレーオが走っているとは思えなかった。


「ぎゃっ!」「てめえ!」「クソがっ! うっ……」


 銃声と悲鳴が連続する。そして聞こえて来たのはポモドーロの叫ぶ声であった。


「てめえ、アキッレーオ!」


「テメエ、アキッレーオ!」


 アンジーの耳元でも同じ叫びが歪んだ声で響く。


「えへ、来ちゃった」


「ふざけてんじゃねえ!」


 銃声。


「てめえ、邪魔はしねえって言ってただろう!」


 ポモドーロの怒声が続く。


「そうだっけ、オルゾ」


 呑気な声が返ってきた。オルゾは平坦な声で言う。


中華チャイニーズ料理屋レストランでそう言ってたな」


「言ってたみたい」


「ブッ殺すぞてめえ!」


 銃声。アキッレーオが身を翻す音。そしてポモドーロの配下の男の悲鳴が続いた。


「まあそれでもさ。お前は俺たちにラファエラちゃん……じゃないや。あの子がラファエラだって嘘つき続けてた訳じゃんよ」


「何が悪ぃ!」


 裏社会など所詮、騙し騙されの関係ではある。それは間違いない。

 だがそれでも。


「不誠実の報いは受けなきゃ」


 それから銃声が、怒号が響いた。

 アンジーは気付く。銃を撃っているのはポモドーロとその一味だけだと。


「クソっ! どこいきやがった! 逃げたか!?」


 その声は近くで聞こえている。つまりアキッレーオは離脱したわけではない。その場にいながら速度と隠密の腕前で相手に知覚すらされていないのである。

 不可知。そうなればもはや戦場は、命はアキッレーオの思うがままである。


「うっ……!」


 ポモドーロのくぐもった悲鳴が上がった。 


「ほらな、白スーツでポモドーロはソースが跳ねるじゃん」


 どさり、と音がし、そして静かになった。


「ご苦労だった、兄貴」


「いいってことよ」


 そして通話は切れた。


「これでお前を縛る鎖は消えたな、アンジー」


 アンジーは問う。


「ヴィテッロ組は……?」


「俺の部下が潰しに行ったさ」


「本物のラファエラさんは?」


「救出した。今はステラマリナと共にティレニアの上をこちらに向かっている」


 漁師であり密輸屋であるトンノの船でナポリに向かっているのだ。

 オルゾは再びスマートフォンを操作してスピーカーにした。僅かなコールの後、勢い込んでステラマリナの声がする。


「オルゾっ! アンジーちゃんはっ!」


「無事だ」


「良かったぁ……」


 安堵にへたり込んだような声が出た。


「ステラマリナ、さん」


「大丈夫!? 怪我してない?」


 アンジーは正面に立つエキーノを見上げた。もう警戒する必要はないということだろう。構えを解いた彼は人好きのする笑みを浮かべてみせた。


「だいじょうぶ、エキーノさんは手加減してくれたわ。ラファエラさんは?」


「元気よ、さっきまで船室が鯖くさいって言ってたけど、今は緊張が解けたのか寝ちゃったわ」


 彼女たちもまだ話し足りないであろうが、オルゾは電話を一度切った。スマートフォンを懐にしまうと、椅子から立ち上がり、アンジーのもとへ。

 屈んで床に転がっているナイフと銃をエキーノに渡すと、アンジーの隣に立ち、老ロッセリーニ侯の方を見た。


「ロッセリーニ侯、後はラファエラさんの到着を待ちますが、これで解決です。お騒がせいたしました」


 侯はゆっくりとした口調で言う。


「君が謝ることではない。むしろ私とヴィテッロ組の古い因縁に巻き込んでしまったのだからな」


 オルゾは咳払いを一つ。


「ロッセリーニ侯、お願いがあります」


「ふむオルゾ、君には恩がある。私にできることなら叶えよう」


「アンジー、この少女の身柄をいただきたい」


「ほう……」


「オルゾ……」


 アンジーは暗殺未遂の実行犯である。もちろんヴィテッロ組に強要されてのことであるし、警察や裁判沙汰になってもまず間違いなく無罪を勝ち取ることはできよう。だがそれには時間がかかる。


「せっかくの貴族への貸しを、そんなことで使って良いのか?」


 オルゾは老獪な貴族の顔を見つめ、真っ直ぐに頷いた。


「それだけの価値があると思ってますよ。もちろん悪用する気はありませんが」


 アンジーはラファエラ、貴族の血を引くナポリの財界の顔役の娘と同じ顔と声をしているのだ。悪用しようと思えばいくらでも使い途がある。

 それをマフィアの元に置くことを認めろと言っているのである。


「わ、私に、ラファエラさんの替え玉以外の価値なんてないわ!」


 オルゾはラファエラの黒髪の上に手を置いて言った。


「あるさ、お前がまだ自分の価値に気づいていないだけだ」


 そしてロッセリーニ侯に頭を低く下げさせた。


「よろしくお願いします」


 そう言って自分も頭を垂れる。


「よろしくお願いします」


 オルゾの隣でエキーノも頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします」


 アンジーもそう言った。絨毯に二滴の雫が落ちた。

 

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