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閑話 元臣の横やり

人類最高の贄と言われる逢坂月子との出会い、要森に初めて入ったこと―――そして何より、学園でひときわ異彩を放つ暴君、そしてその婚約者であり御三家・式巫の長男、式巫術元臣との出会いにより、故依もとより 只人ただひとの人生は大きく変わったと言えるだろう。

翌日の朝にはその変化は如実に表れていた。

只人が朝、教室の扉を開けた時、クラスメイトのざわめきがピタリと消えた。

「お、おはよう」

只人は高校生にしては愛嬌のある可愛らしいとは言っても過言のない容姿をしている。

だが、元臣や月子のように並はずれた美貌や能力を持つわけではないため、この異常な学園において今まで注目を浴びることはなかった。

それが、だ。

クラスの全員が、自分に注目している。

ぶわっと全身に鳥肌がたち、背筋がふるえるのを只人は感じた。

今日は愛らしい見かけとは真逆に暴虐的な力を振う暴君―――なっさんや聖女のごとき笑顔で周囲を魅了する月子は居ない。

二人とも今日は休んでいるのか遅れてくるのか、とにかく、教室には見当たらなかった。

先日の要森からの生還者が少なかったことは、只人も寮長から聞いている。

その中で、対異形用のサラブレットである式巫元臣、逢坂月子の二人とともに、喧嘩に明け暮れていた素行不良の暴君と自分が生還したことに、全校生徒が注目しているという冗談のような話も合わせて聞かされた。

ぴんと糸を張りつめたような緊張感の中で、只人は目の前がぐにゃりと歪むのを感じる。

クラスメイトからの無言の訴え。なんでお前だけ助かったんだ?

じっとりと絡みつくような視線に恐怖と不安を煽られ、只人は入り口から動けなくなった。

と、不意に背後の扉ががらりと開き、すらりとした長身の、清雅な美貌の男子生徒が現れた。

「故依只人、ちょっと顔を貸せ」

ゆったりとした感情を読ませない薄い笑みを張り付けた式巫元臣は、只人の返事を聞くまでもなくさっさと踵を返して教室を出で行く。

慌てて只人が元臣を追うと、授業開始直前だからか無人の階段の踊り場で元臣は立ち止まった。

「手短にいう。お前の家の異形を祓ってやる。それさえ済めば、お前がこの学園にいる理由もなくなるだろう」

只人は言葉を失った。

なぜ元臣が自分の家のことを? と疑問に思ったが、家のことについては御三家とはいかなくても有名な術氏の家系などに何度も依頼をかけている。

術師たちをまとめる御三家の元臣が知っていても不思議ではないだろう。

自分が学園に入ったのも、元々は将来有望な術者とお近づきになり家に憑りついたものを祓う手がかりを探るつもりだった。

完全にひきつった顔で、只人は喉を震わせる。

「は、祓えるんですか……アレを」

只人は自分の家についた異形の片りんを垣間見ている。

アレを祓うのは到底無理だと感じていた。

例えそれが御三家の人間であっても。

「到底無理だとでも言いたそうな顔だな。祓い終わったら、自主退学の手続きを整える。それでいいな」

只人の返事を待つまでもなく、元臣は立ち去る。

只人は学校のつるりとした床をぼんやりと眺めながらぽつりとつぶやいた。

「そんなの無理に決まってる。だって、アレは―――神、なんだから」

絶望に彩られた声音で呟かれた言葉は、颯爽と去ると元臣の背中に届くにはあまりに小さすぎた。

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