碁会所
とある碁会所の風景。
「駄目だよおじさん。石から指を離したら着手は完了だよ。打ち直しは禁止。」
「んんん。……見逃してくれよ坊主。」
「別に構わないけど。でもここで手を変えた所で形勢は同じだよ。」
「えっ!」
「悩むなら……そうだな。10手前だったかな?」
「そうなの!?」
「幾つも分岐があるのにおじさんはノータイムで進めるものだから、てっきり研究してるんだろうな?と思って警戒していたのだけど……。」
「……そこまで戻って良いかな?」
「別に構わないけど……。でもとりあえずこの対局は続けよう。」
「しかしここから続けても……。」
「そこはおじさんも把握しているんだね?……まぁそうだね。このまま続けても全ての地がこっちのものになるのは目に見えてるし……。」
「戻っても?」
「……良いけどその局面でも引っ繰り返すのは大変だよ?」
「……そうなのか……。」
「なら10手戻って僕がおじさんの方を持とうか?それなら面白い勝負になるかも?」
「もしそうなったら……。」
「たぶんおじさんが勝つと思うよ。」
「わかった。この対局は私の負け。検討と言う形で。」
「お願いします。」
暫くして……。
「どこがおじさんが勝つと思うだよ?」
「こことここの手をこうすれば……。」
「……なるほど坊主強いな。」
「ありがとうございます。でも上には上がいる。もっともっと強くならないと……。」
「棋士を目指しているのか?」
「……出来れば。」
「そうなったら……。」
「でも難しいよ。強い人がいっぱいだから。正直、プロになるのは難しいとおもっている。だもんで勉強も頑張っている。」
「確かにな……。それに囲碁はプロになれたとしても、対局だけで生活するのは難しくなりつつあるからな……。」
「親からも言われている。もしプロになれなくてもまた遊びに来ても良いかな?」
「坊主ならいつでもウエルカム。また教えてください。」
「ありがとうございます。」
帰り道。信号機の無い横断歩道の手前で待っていた私に気付いたドライバーが白線で停止。そのドライバーに御礼を述べ、横断歩道を渡っていた所。反対車線の乗用車が僕に気付かず……。そこからの記憶は無い。




