第16話 これからの幸せ
私達がアドルフさんと会ってからしばらくして、お父様は裁かれた。
彼は、その命を持って罪を償うことになった。元伯爵であっても、二人の人間を殺めたという確固たる事実があったため、最も重い罰が与えられたのだ。
お父様は最後まで抗おうとしていたが、それは認められなかった。最後の最後まで往生際が悪かった父は、なんとも情けなかったといえるだろう。
何はともあれ、父の死を持って、一連の件は全て終わったといえる。これで本当に平和な日々が訪れたといっていいだろう。
「平和な日々、という程のものかは怪しい所ではあるな……」
そんなことをクレンド様に伝えると、彼は苦笑いとともにそのような言葉を返してきた。
彼が言わんとしていることは、わかっている。それはヴェリオン伯爵家の領地を丸々預かることになったことに対する嘆きということだろう。
事実として、彼も私も忙しくしている。領主が変わるということは結構な大事であり、その対処やらに追われているのだ。
「まあ、確かにこの忙しさが落ち着くまで、そういった言葉は口にするべきではないのかもしれませんね……」
「いや、まあ、特に大きな問題が起こっているという訳でもない故に、レフティア嬢が言っていることが正しくないとも言い切れないのだがな」
「それは安心できることではありますよね。今の所は順調ですから……」
忙しいものの、頭を悩ませるような大きな問題がある訳ではない。些細な問題は連続してあるが、それらはすぐに解決策を思いつくようなものだ。
とはいえ、安心することができるという訳でもないというのが、現状である。何せ今は、いつ問題が起こってもおかしくない状況だ。
いやもしかしたら、既に問題は水面下で起こっているかもしれない。あまり想像したくないことではあるが、そのくらいで考えて身構えておいた方が今は良いだろう。
「領地以外では厳しい意見などもあるが、やはりことここの管理においては、君という存在が非常に心強いものだな」
「そうですね……それについては、私も結構驚いています」
「いつも助かっている。ありがとう、レフティア嬢」
「いえいえ、そんなに改まらなくても……」
ヴェリオン伯爵家の令嬢レフティアという存在は、自分で言うのもなんだが、中々に強力なものであるといえるだろう。
私という存在があるだけで、領民が安心する。それはクレンド様も言っていたことだが、その通りだったようだ。
私を排斥していたら、かなり反発があったかもしれない。そういった観点から、エヴォート侯爵家の判断は適格だったといえるだろう。
「……さてと、レフティア嬢には一つ伝えておきたいことがある」
「え? なんですか?」
クレンド様は、仕事の手を一度止めてこちらをしっかりと見つめてきた。
先程からそうだったが、なんだか今日の彼は改まっている。
「俺は君のことを昔から尊敬していた。君は強く気高い令嬢であると思っていたからな」
「それは……ありがとうございます」
「今回の件で、俺はまたそれを改めて実感することになった。君は優しさも兼ね備えた女性だ」
「そ、そんなに褒められても何も出ませんよ?」
クレンド様からの賞賛の言葉に、私は照れていた。
もちろん、そういってもらえるのは嬉しい。褒められて悪い気なんて、するはずはない。
ただそれが唐突であるため、少し困惑もしている。クレンド様は一体、どうして急にこんなことを言い出したのだろうか。それがわからない。
「いや、要するにだ。俺は君に強い思いを抱いているということを伝えたいのだ」
「思い、ですか?」
「ああ、俺は君のことを愛している」
「え?」
クレンド様は、私の目を真っ直ぐ見て衝撃的なことを口にした。
それに私は、固まってしまう。予想していなかった言葉をかけられたからだ。
「急にこんなことを言われても、困るかもしれないが、やはり言っておいた方が良いと思ってな……このまま思いを隠しておくことは、卑怯なことであるように思えた」
「それは……」
「今思えば、君を助けたのも下心からの行動だったのかもしれないな。我ながら、卑しい限りだ」
私の思考は、少し遅れて状況に追いついてきた。
クレンド様は、自嘲気味に苦笑いを浮かべている。それは自分の行動が、根っからの善意からのものではなかったということに、思う所があるということだろう。
そんな彼を見て、私は少し笑ってしまった。彼が案外、自分のことをわかっていないからだ。
「いいえ、クレンド様は思いに関係なく、私のことを助けてくれたと思います。クレンド様はそういう人です。私はよく知っていますから、間違いありません」
「……そうなのだろうか?」
「ええ、そういう人だから、私もあなたに惹かれているのだと思います」
「なっ……!」
私は、クレンド様に言葉をかけた。
その言葉に、彼は目を丸めて驚いている。
ただ、そんなに驚くようなことではないはずだ。彼が素晴らしい人であるということを、何度も助けられた私が知らない訳がないのだから。
「クレンド様は素敵な人であると思っていました。そんなあなたから思われていたことを嬉しく思います。どうかこれからも、よろしくお願いします」
「……ああ、俺も君からそう思ってもらえることを嬉しく思う。レフティア嬢、こちらこそよろしく頼む」
私が差し出した手を、クレンド様は力強く握ってくれた。
その彼の温もりに、私は思わず笑みを浮かべてしまう。
クレンド様は、本当に頼りになる人だ。今まで助けられてきた私には、それをよく知っている。
そんな彼と夫婦になれて、しかも思い合えているということは、なんとも幸せなことだろう。
色々とあったが、これからの私の人生にはきっと幸せが待っている。そう思いながら、私はクレンド様と笑い合うのだった。
END




