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9・・働かざる者食うべからず



「国としても、流れ人は丁重に扱うべき客人です。滞在中の生活は国が責任を持って対応させて頂きます」


ライリーの言葉に戸惑ってしまう。

「客人ですか?」

「迷い人が来ると国が栄えると言われていて、めでたいことなのです」

「めでたい……」


話が大事になりすぎて感情がついていけない。

何それ、めでたいって。


「はい、今後サアヤさんには王宮に住んで頂き、侍女もつけて快適な日々を送っていただくよう……「あ、あの!」……」

慌ててライリーの言葉を遮る。

「あの……私そこまでしてもらうのは……特別な能力なんて持っていない、普通の人なんです」


特に手に職や技術があるわけでもなく、一つの分野に秀でているわけでもない。

向こうの世界で、それなりの知識とそれなりの情報を持って社会人として働く、ただの24歳だ。

国が栄えるための力も知識も持ち合わせてはいない。


ライリーが優しく微笑んだ。

「元の世界のことを詳しく教えて頂きたいです。この世界とサアヤさんの世界の違いを知ることは、この国にとって有益なことの方が多いんですよ」


なんとなくそれは理解できるけれど、国が栄えるって程の大きすぎる話にはならないと思う。


頭の中がぐちゃぐちゃになってきて、思わず横に座っているテオに視線を向けた。相変わらず飄々として、表情が読めない顔をしている。

いつも通りのテオを見てなんだか気が抜けてしまった。


「あの……私の希望を言ってもいいでしょうか」

ぎゅっと拳を膝の上で作って、ウキウキと話し続けるライリーの言葉を遮った。


「私は元の世界に帰りたいので、その方法を教えて頂きたいです。私の世界の話を知りたいのであれば、お伝えすることは構いません。でも、王宮ではなく街中に住むことはできますか?」


ただより怖いものはない、と思っているので、帰る方法を教えてもらうために私の持っている情報と交換という理屈は成立する気がする。


「あ、あと……手持ちのお金がないので部屋を借りるお金や生活費を、前借りしたいのですが……」

ポカンとした様子のライリーに、変なことを言ってしまったのかと言葉の途中からモゴモゴしはじめる。


「街中に住む?王宮ではなく?」

「はい」

「……王宮は住み心地悪くないと思いますよ。お世話もさせて頂きますし」

「いえ……私は一人気ままに暮らした方が楽なので」

誰かの目を気にしながら暮らすのは息が詰まりそうで無理だ。


「……驚きました。前例では皆、王宮に住んでいたようなので……でも……わかりました、部屋を用意しましょう」

「ありがとうございます」

頭を下げた彩綾に慌てたようにライリーが説明を重ねる。


「迷い人の方が頭を下げる必要はありません。先ほども言いましたが、国の客人としての立場でいらっしゃるので。ですので、生活費などお金の面は国が負担します」


この国が私の生活費を出してくれるの?

何となく……ありがたいけれど……居心地悪い気がする。

だって、私はこの国に対して何もしていないし、何かできる気もしない。


「……それなら、どこかで働くことはできますか?」

「働く?」


またもポカンとした顔にライリーをさせてしまった。

「はい。私の世界に、『働かざる者食うべからず』という言葉があります。それに……何もしないで面倒を見てもらうっていうのは……私の性に合わないのです」

「はぁ……仕事ですか……そうですね……」


少し考えた後にライリーから提案があった。

「僕が色々とサアヤさんの世界について色々と質問しますので、それに答えて頂く仕事はどうですか?それに過去の文献の内容も伝えますので、同じ世界の方がいるか一緒に確認してほしいのです」

「え?」

「客人に仕事をしてもらうのは何ですが、ま、強いて言うなら僕の研究の手伝いをしてもらえますか?」

「手伝いですか?」

「迷い人のことを王宮で研究しているのは、僕一人だけなんです。この執務室には僕しかいません。ですので、サアヤさんが手伝ってくれたら助かります」


ライリーさんの迷い人の研究の手伝い。

この状況や戻り方がもっとわかるかもしれない。


「市井で仕事するにしても、文字の問題やこちらの世界の常識など知らないことも多いでしょう?」

痛いところを突かれてしまう。


「お互いにお互いの世界のことを勉強し合いましょう」

ライリーの優しそうだけれども、間違いなく裏がありそうな笑顔に彩綾は頷くしかなかった。

結局その後の話し合いで、彩綾は王宮に近いアパートで一人暮らしをすることが決まった。


王宮で働く使用人が住むアパートだから居住者の身元がわかっていて安心だと言われ、家賃もライリーの仕事の助手になるから使用人扱いで無料だと言われる。


あっち(元の世界)の社宅ってことね。


助手として、これから毎日、王宮のライリーの執務室へ出勤する。お給料ももらえるそうだ。


早速テオの家から荷物を引き上げて、アパートへ移ることにした。




「お世話になりました」

テオの家に一緒に戻り、荷物をまとめた彩綾はテオにお礼を伝えた。


「……一人宿舎まで行けるのか?」

「何となく道は覚えているので、大丈夫だと思います。方向感覚は結構自信あるので」


多分大丈夫。

宿舎まではテオの家から複雑な行き方ではなかった。


「荷物もあるだろう。一緒にいくよ」

「……ありがとうございます」

方向感覚は良くても流石に異世界の独り歩きは少し心細かったのは事実だ。

テオの好意を素直に甘えることにした。


テオが荷物持ちは任せてほしいと強く言うものだから、彩綾は手ぶらで歩く。

「たくさんの食材をありがとうございます」

暫く買い物ができなくても困らないように、と食材を分けてくれた。本当に気配りのできる人だと思う。


「テオさんにご迷惑をかけていたので早く住む場所が決まってよかったです。借りていたお金もお給料を頂いたら返しますね」


迷惑だなんて……と呟いたテオが横に並んで歩く彩綾を見る。

「お金はいつでもいいから気にするな」

「返したい時はどうすればいいですか?」

「手紙をくれればいい」

「……そういえば手紙ってどう出せばいいんですか?」


王都にいないライリーさんと連絡をとっていたのも手紙って言ってたよね。

この世界に電話はなさそう。

配達人がいた様子もないのに、手紙のやりとりが早かった。

メールみたいなものがあるのかしら。


「魔力で飛ばすんだ」


出た、また魔力。


「……どうやってですか?」


全然想像がつかない。


「書いた手紙に魔力をのせると飛んでいくんだ」


手紙が飛んでいく……?


「飛ばし方がなかなかイメージつかないのですが、その前にまだ字が書けませんでした、私……」


そもそも字が書けないから手紙が書けない。

彩綾はがっくりと肩を落とす。


「字を覚えるまで、絵手紙を出せばいいのか。あ、結局、私が戻ってきたメールが読めないのか……どうしよう」


字が読めるようにまずならなくちゃ。


「……何かあれば王宮の騎士団の事務所に来ればいい……それに俺が……時々様子を見にいくよ」


テオがそっぽを向きながら、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言う。


「騎士団のところに行ってもいいんですね!」

「……来るならフードを被ってこいよ」

「あ!そうですよね。誰かに誤解されたら困りますもんね。こっそり見るだけで、テオさんには声をかけない方がいい……とか?」


あれ?でも、連絡を取りたいから声をかけないわけにはいかないし……どうしよう。やっぱり絵手紙?


「……違う。誤解とかじゃなくて……」

「それなら、見学に行く時は遠くから見るようにしますね。私は結構目がいいので。連絡取りたい時は、頑張って絵手紙を送ります」


イラストだけど書くのは嫌いじゃない。

絵手紙なんて、ちょっと童心がくすぐられる。


「そんなに騎士団の鍛錬が見たいのか?」

「はい!それは譲れません!」


格闘技好きを自認する以上、見ないとね。


「あんたは……あんたが想像している以上に、ここでは目を惹くんだ。そんなあんたが騎士団に来たら……危ない」

「……え?危ないって?」


思わずテオの顔を見る。

どんな危険があるんだろう。


「男ばっかりだぞ。女性もいない訳ではないが……」

「……私の美醜感覚からしたら、テオさんの方が私よりよっぽど綺麗ですよ」

「は?」


テオの容姿には美しさがある。険しい目つきをするものだから、精悍さが前に出てしまうけれど。

艶々したダークブロンドの髪の毛も、アーモンド型の榛色の瞳も美しさを際立たせている。


「とにかく、何度か俺が訪ねていくから。それでいいだろう?」


目元を大きな手で隠しながらテオが少しだけ狼狽えたような口調でいう。


これだけ綺麗な容姿だったら、言われ慣れているかと思ったけれどそうでもないようだ。隠しきれていない頬や耳が赤くなっているのが見える。


ふふふ、なんだか可愛い。


「はい!私もこっちの文字を覚えてお手紙を出せるように頑張りますね」


そのあとは無言で歩いていたけど、沈黙が二人の間に横たわっていても居心地は悪くなかった。



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