81話 居場所を探して、えんやこら2
※誤字報告、ありがとうございます! 助かります!
† † †
■……どうなっとるんや、これ
■エレちゃんが子供関連のミニシナリオ80%こなした上に、βのレイドバトルと昨日と突発イベントやぞ? 相応の好感度はあって当たり前……だけど
■マジか……マジか? それにしたってこの数すごくね?
■なにか他のミニイベントのフラグ踏んでんだろ、絶対
その瞬間、バーチャルアイドル三人の視線が壬生黒百合へと向かった。黒百合は、無言で視線を逸らす。
“金兎”:『――申し開き、ある?』
“黒狼”:『ごっめん、多分、オープンβのレイドバトル準備期間初日にこっそり二〇〇〇〇〇サディール教会に寄付した分もあるわ、これ』
“白狼”:『……もしかして、“妖獣王・影”討伐で得たお金、全部使った?』
“黒狼”:『あぶく銭なら、いっそ役立てようと思ったんだよ! みんなと足並み揃えたかったし!』
“銀魔”:『いや、実際助かってるんで問題ないのですけど……』
“黒狼”:『匿名で寄付した手前、今更名乗り出るのも、ほら、ね?』
“白狼”:『しっかたないなぁ、もう……』
秘匿回線で打ち合わせを終えて、壬生白百合は苦笑しつつ言った。
「とにかく、物件を改めて調べてみようよ。これだけあれば、他の人とかち合わない物件もあるかもしれないし」
■非公式の情報サイトに考察班が物件情報挙げてるから、参考にしてなー
「あ、助かる。こっちも後で情報提供するねー!」
■そんだけで充分です!
エレイン・ロセッティの返答に、考察班のコメントが礼を言う。オープンβの時同様、公式からは最低限の情報しか発信されないのがエクシード・サーガ・オンラインというゲームだ。その分、有志が集まって非公式の情報サイトを構築。多くの“仲間”に情報を提供するスタイルが完成していた。
(そりゃそうだ、情報の抱え込みは自分の首を締めかねない)
† † †
黒百合、否、坂野九郎はそれがアルゲバル・ゲームスが求めるオンラインVRMMORPGの形なのだろうと悟る。
エクシード・サーガ・オンラインはどこまでも同じゲームを遊ぶPC同士、運命共同体である仲間である、それを強く強調するシステムなのだ。他のオンラインのゲームだと、そこを“唯一”という言葉で煽ってくる。アイテムであれ、イベントであれ、地位や名誉であれ、このユニークという「キミだけの」と言う特別感は、同じゲームを遊ぶプレイヤーを仲間であると同時に競争相手へと変えるのだ。
(これだって間違いじゃない。競うように、そうやってプレイヤーたちが走り続けることが重要な面もあるからな)
だが、このユニークという言葉はプレイヤーのモチベーションとなるメリットと同時に情報の抱え込みや競争による敗者を生むというデメリットも内包している。誰だってゲームを楽しみたいのだから、進んで敗者になりたいとは思わないのだ。
だから羨む。だから妬む。勝者が唯一ひとりしかいないのなら、その他大勢は敗者なのだから。勝者に良くない感情を抱くのは、当然というものだ……それが人間の一面なのである。
だから、基本的に九郎は情報の抱え込みを極力排除している。ブラックボックスの情報など、エレインの許可も取って情報は考察班へ流し、それもプレイヤーたちに浸透させていた。ただ、今回の寄付によるフラグはもう終わってしまったイベントだけに、匿名の寄付という状況を利用して黙る方向にするつもりだが――。
(そうなると、教会関係の物件は外しておいた方が無難だな……場合によっては、次に寄付金が高い人に回してもらうか……)
どうせあぶく銭だと思っていたのは本当のことだ。それで得られたメリットなど、セント・アンジェリーナの街が守れただけで充分お釣りが出ているのだから。
できればゲームを楽しんでいる目の前の三人が気分良く遊べるように、九郎としては自分ができる気遣いはしていきたい、そう思っていた。
(……本当、こういう状況に慣れてる九郎さんがいてくれて助かります)
ああでもないこうでもない、と選別している黒百合を見て、ディアナはひとり笑みを漏らす。白百合にせよ、エレインにせよ、プレイヤースキルは高いがゲーム内の人間関係や周囲がどんな風に見てくるか、などに気は回らない。そして、一番疎いのは間違いなくゲーム経験の浅いディアナなのだ……公式配信者であり、バーチャルアイドルという立場をきちんと考えて動く視点を持つ黒百合が――九郎がいてくれるのは、とても頼もしかった。
† † †
「とりあえず、五件ぐらいに絞ってみた」
どう考えても他に競争相手はいないだろう、という物件を五件選び終えた。それを一部始終見ていた視聴者たちもしみじみとコメントを流す。
■……ちょっと感動するわ、後の人の分まで考えてんだもんな
■ここらへんはどう考えても競合相手のいない物件だもんなぁ。俺だったら、この半額まで値引きしてくれてる元貴族の屋敷とか選んでたわ。すぐそこが教会って、すっげえ便利だもん
■あー、そこはそれなりに金さえ貯めれば誰でも買える物件だからなぁ
■他の都市でも物件があるけど……βテストやってると思い入れあるもんなぁ、セント・アンジェリーナ
ただ、とその五件の中でも異彩を放つ物件があった。ネタになる、と思って黒百合も選んだのだが――。
「でも、こんなののフラグ……いつ踏んだんだろ?」
「私は記憶にないし……ディアナは、ここに行ったことないよね?」
「はい、ないですね」
「あー、確かここ、フローズヴィトニル対策班でワタシとシロが行ったとこだよ」
エレインの言葉に、あっと白百合が思い出す。
「そっか! クロとディアナさんが英雄回廊を攻略してた時の――」
そう、その物件の名前は“鮮血伯の工房”――なんとダンジョンひとつ丸々の物件だった。
† † †
“鮮血伯の工房”については「35話 セント・アンジェリーナ4」をご確認ください。
地味に色々やってるのですよ、この子たち……
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