71話 軍神魔王・カルナバル3
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吼える虎の面――イクスプロイット・エネミー“尸解兵・窮奇”は、ただ無造作にその手刀を振るった。
「くそ、また――!?」
アーツ《真空斬》。単純に凄まじい速度で振るった手刀により、遠距離にカマイタチを飛ばすという斬撃属性のアーツだ。ただし、これをアビリティ《広莫風》と重ね合わせた時、“真価”を発揮した。
ズザン! と窮奇を中心に生まれた真空が、四方八方へと荒れ狂る。斬撃属性を風属性の魔法へ変換、その範囲を拡大するという単純だが凶悪な攻撃へと変わるのだ。
「おいおい、たまらんなこりゃあ……!」
武器屋の店主が、そう吐き捨てる。聖女の生誕祭と多くの英雄たちの来訪、賑わっていた商店街があったいう間にもぬけの殻になっていった。戦闘不能にされ、多くのPCが消滅したからだ。
「ああ、もう! 稼ぎ時だって時に……!」
不幸中の幸い、窮奇の攻撃は建物には向かなかった。そのおかげで街の住人は助かっているものの――それもいつまで続くかわかったものではない。
「では、邪魔をした」
「おい! 外ではあいつが暴れて――」
店主が出ていこうとする客を止めようとした、そんな時だ。止める間もなく扉を開けた客へ、窮奇が真空の斬撃を解き放った。
「――黒雲ありて覆って成せ。これなるは神に通じし力なり。選択するは【風】」
ズガン! と確かに風はその者を捉えたはずだ。だが、黒い雲がその風を飲み込み、食い潰していく。
「人が少し席を外している間に――やってくれたな」
“神通力・黒雲の護り・一片”――黒雲を漆黒の鎧と羽衣と化し、カラドックが吐き捨てる。まさか自分が装備を一新しようと悩んでいる時に、イクスプロイット・エネミーが出現するとは……さっきまでの自分の頭をカチ割ってやりたい気分だった。
「おう、カラさん。鎧の方だけど――」
「開けんじゃねぇって!」
さっきまで相談していた白作務衣に眼帯の女NPCが扉から顔を出して尋ねれば、黒雲の鎧の奥でカラドックが振り返らずに答えた。
「任せる。どうも私は着飾るとか考えるとドツボにハマるらしい。夜刀のセンスで決めておいてくれ」
「承知」
背後でバタンと扉が閉まる音がする。そう、どうせ“神通力・黒雲の護り・一片”を身に纏うと鎧が使えないからと魔力の布製の防具に変えようとしたのが間違いだった。どんな服にしようかな、などと考え込んでしまったのだ。
挙げ句、外のファッションサイトにまで目を通していたら、イクスプロイット・エネミー出現のシステムメッセージを見逃す始末である……黒雲のおかげで顔から火が出るのだけは免れた想いだ――。
「アーツ《シールドガードⅡ》」
ガン! と一気に間合いを詰めた窮奇の拳打をカラドックの大盾が受け止める。そして、そのまま大盾を前に押し出した。
「――アーツ《シールドバッシュ》」
だが、シールドはビクともしない。身体全体で押すカラドックと受け止めらた体勢の突きのままで小揺るぎせず――ガツン! と窮奇の足元で地面が砕けた。
その奇っ怪な現象に、ふとカラドックは思い出す。赤いチャイナドレス姿の拳法使いだ。
(そう言えば、アカネさんが言っていたな……)
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『武術あるあるなんだけどね、ようは地面――より正確には地面反力を活用するの』
そういって《震脚》の踏み込みから、直突き。爪先を伸ばした前蹴り。その一撃一撃の威力はひどく重く鋭かった。
『地面……反力?』
『あんま聞き慣れないよね。作用・反作用の法則って一応、ちゃんとした物理法則で、押したら押し返す力が跳ね返ってくるってヤツ。この場合は、ようは地面をしっかりと踏みしめて、そこから得られる力を活用しようって話。大事なのは――大地をしっかりと踏みしめるってこと』
ダン! と強い踏み込み。今度はアーツは用いていない――だが、ただアーツを使用した時よりも深くその場には足跡が刻まれていた。
『最近のVRってあんまりにも精密に物理法則や動きを再現してるから、外から持ち込んだプレイヤー自身の技術まで再現しちゃうんだよねー。だから、アーツと併用すると効果が増したりするんだ。これはあくまで最適にアーツを使用している、プレイヤースキルの範疇なんだけど――ちょっと、盾を押すから身構えて』
そう言って、アカネがカラドックの構えた大盾を掌打を繰り出した体勢で押してきた。それ自体は大したことはない、カラドックはしっかりと腰を落とし受け止められた。
『うんうん、タンクやってるから構えが堂に入ってていいね。じゃあ――これは?』
『――!?』
次の瞬間、ガン! と盾が弾かれてカラドックが大きくのけぞって弾かれた。アカネの体勢は変わっていない、だというのに一気に倍以上押す力が増したイメージだった。
『今、のは……?』
『うん。地面をしっかりと踏みしめたの。コツは、踏みしめた力を逃さないように、全部の関節に力を込めて固める感じ。イメージ的には自分がひとつの鉄の棒になる、みたいな?』
感覚派のアカネは、言葉での説明はあまり得意ではない。しかし、正統な武術を学んだ者がその知識を活かす余地がVRゲームにはある、そのことを理解できるのに充分なパフォーマンスだった。
『とはいえ、それなりに難しいよ? アーツの発動タイミング。身体の細部に至るまで力の流れを意識する。アーツによるゲーム側のサポートだけじゃないマニュアル的な身体の動かし方。カラさんができるようになるのには、それなりに時間がいるかもね』
『カ、カラさん……?』
『なので、宿題です! いきなり全部に活用するなんて無理筋だから、まずカラさんがするべきは――』
† † †
――ガツン! と再び窮奇の中段右回し蹴りがカラドックを襲った。
「アーツ《シールドガードⅡ》」
腰を落とし、大盾で蹴りを受け止める――窮奇は構わず右足を振り抜いた。ドォ! と吹き飛ばされるカラドック、しかし、ズサァ! とすぐに着地すると次に備え、大盾を構え直す。
『…………』
窮奇は見る。さきほどまでカラドックが立っていた地面、そこにわずかに亀裂が入っていたことを。思った以上に吹き飛ばなかった、それは蹴りを受けた瞬間、地面へ衝撃をいくらか逃がすことに成功したからに他ならない。
「アカネさんは、本当に容赦がない。宿題ひとつで世界が変わりそうだ……」
結局、いまだに宿題は果たせていない。だが、その片鱗だけでも効果があると思わせるものだった。だからこそ、この宿題を完璧にこなせれば自分がタンクとして一段階『上』に行ける、そうカラドックは確信していた。
「まさか正式サービス初日からこんないい試しの相手が現れてくれるとは……不謹慎承知で言わせてもらおう。有り難い」
『――――』
窮奇が、手の形を変える。五指を伸ばした手刀から、虎爪と呼ばれる五指を虎の爪のように構える手の形――その構えの変化は小さく、だが絶大だった。
『コォ!!』
短い呼気と共に振り払った虎爪、その五指から放たれる斬撃波。手刀の時の単純な数で五倍の量に増えたそれが、暴風となってカラドックを襲う。風属性への完全耐性を得たカラドックの黒雲には効かない――だが、暴風に紛れた窮奇の連打は別だった。
「ぐ――!?」
直突き、肘、膝、回し蹴り、後ろ回し蹴り、踵落とし、掌打の振り下ろし――攻撃はそのまま真空の刃を生み出し、さらなる暴風を生む。受けに回ってしまえば最後、敵を粉々にする破砕機がごとき連打であった。
(一片がなければ、私などとうに押し切られていたな)
防御に回るカラドックの、天敵のような相手だ。だが、それも風属性の完全耐性というひとつの特性ですべてを覆す――天敵という意味であれば、窮奇にとってもカラドックのそれは天敵だった。
天敵対天敵、だからこそ攻防は入れ替わることなく激しさを増していった。
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カラドック(鎧の種類は言えるのに、服の名称がわからない……)
夜刀「……重症だなぁ、これ」
時間的にクロシロがサイネリアと会ったあたりからずっと悩んでました。
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