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22話 新たなる“影”

   †  †  †


《――リザルト》

《――偉業(イクスプロイット)ミッション『Sun Eater&Moon Chaser Prologue:マーナガルム討伐』、クリア》

《――“マーナガルム”の討伐を確認、討伐参加者は称号:《月の犬討伐者》を獲得》

《――偉業ポイントを五〇獲得》

《――アイテムドロップ判定。月の犬の牙✕2、月の犬の爪✕3 月の犬皮✕5、月の魂を取得》

《――クリア報酬一〇〇〇〇サディールを獲得》

《――特殊分岐発生条件:元狩人ハーンの生存確認……特殊ルート、承認》

《――リザルト、終了》


   †  †  †


「終わった……」


 ずるり、と壬生黒百合(みぶ・くろゆり)はその場に崩れ落ちた。それを慌てて、壬生白百合(みぶ・しろゆり)が抱きとめる。


「本当、大丈夫? クロ」

「ちょっと、集中力が途切れた、だけ……ん?」


 ふと、右側の側頭部に違和感を感じて手を伸ばす。なぜか、そこにはあの“妖獣王(ようじゅうおう)黒面(こくめん)”があった。


「なに、その黒い狐面?」

「呪われた」

「……は?」

「細かいことは後で話す。それよりも――」


 黒百合がハーンのことを訪ねようとした刹那、全身にゾクリと悪寒が駆け抜けた。マーナガルムはもちろん、“妖獣王(ようじゅうおう)(エイリアス)”さえ超える『なにか』の気配を、理屈でなく感じたのだ。


   †  †  †


『『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ!!』』


   †  †  †


 二重の咆哮が、轟いた。世界そのものをビリビリと震わせる覇気。全身をすくみ上がらせる程の激しい衝動――それは本能に根付いた『恐怖』だ。


「え? は――?」


 ディアナ・フォーチュンが、体勢を崩す。ゲーム的な効果ではない、PCプレイヤーキャラクターではなくプレイヤーに影響が出たのだ。その背中を、咄嗟に黒百合が抱きとめた。


「クロ、ちゃ……ん?」


 ディアナの震える声に、黒百合は答える余地は残っていなかった。全身が、次に起こる『なにか』に備えている。備えろ、という警告。無駄だ、という諦観。そのふたつの本能の内、備えろと言う警告が勝った者だけが動けた――。


「……ク、ロ……!」


 かろうじて動けたエレイン・ロセッティが、駆け寄ってくる。背中合わせに刀と剣を構えた。()()が、東西から迫っている――最後の精神力を振り絞り続けた黒百合は、見た。


   †  †  †


 ――()()()()()が、その場に降り立ったことを。


   †  †  †


 ソレは、黄金の獅子であった。燃え上がるような鬣、背から伸びるのは左右の鎧の腕――その姿に、見覚えがあった。


「“八体、の、獣王”……っ」


 かのイクスプロイット・エネミー“妖獣王(ようじゅうおう)白面金毛九尾はくめんこんもうきゅうび(きつね)”と同等の存在。おそらく、これも“影”に過ぎないのだろう――だというのに、これと比べてしまえばあのマーナガルムでさえ小犬に思えた。


『――約条違反である。下がれ、“双獣王(そうじゅうおう)・影”どもよ』


 低く、地の底から這い上がるような声。それは目の前の黄金の獅子から放たれていた。


『おぬしらに与えられた役目は、まだ先である。“次”を確約されながら今ここで約条を破るというのならば、この“百獣王(ひゃくじゅうおう)ライオンハート・影”が相手となろう』


 遠く、東と西の()()が静止した。おそらくは二体、“影”がいるはずだ。その“影”たちが目の前の百獣王の“影”に動きを止める意味は、ただひとつ――。


『別に我は二体同時で構わぬぞ?』


 ――この百獣王の“影”が二体の“影”を同時に打倒し得るのだということを意味していた。


『――良かろう、退こう』


 西から、透き通る女の声が届いた。そこにあるのは、熱に水をかけられた直後のような冷めた響きがある。


『――だが、忘れるな《英雄》どもよ。一月後、あの聖女の街ごと貴様らを食い潰してやろうさ』


 東から、荒々しい女の声が届いた。そこにあるのは、冷め切ったからこそ次の熱を望む飢えた響きがある。


「……っ……」


 東西の気配が遠ざかっていく。それを感じながら、黒百合は一歩前に出た。背中に白百合やディアナ、エレイン――他の仲間を守るように。


『待たれよ、《英雄》よ。この場で争うつもりは我にはない』

「……獣王の言葉を、信じろと?」


 聞き返す黒百合の言葉に、一瞬“百獣王・影”は動きを止めた。ああ、そういえばそうか、と黒百合の正論に得心した……不思議とライオンの顔なのにそんな感情が表情に見えた。


『然り然り。確かに、敵を前に守るべき者がいて気は抜けまい。良き騎士振りである……まったく惜しい。かの女怪のお手つきでなければおぬしでも良かったが』


 ぐっぐっぐっ、と喉を鳴らし“百獣王・影”は頭を下げてゆっくりと歩み寄る。その言葉の通り、戦意はなかった。

 それどころか、その態度には姫にかしずく騎士の風情さえあった。


『小さき騎士よ、無粋を許されよ。一部始終、見せていただいた』

「え? あ……ワタシ?」

『左様』


 きょとんと急に水を向けられたエレインに、どこまでも生真面目に“百獣王・影”は目を伏せて言葉を続けた。


『我はおぬしの姿にひとつの騎士道を見た。ゆえに、覗き見た無粋の謝罪も込めてこれを献上したい』


 黄金の光と共に、エレインの目の前にひとつの箱が現れた。黒百合は、それに見覚えがある。黄金の燐光を放つ、という差があるもののブラックボックス――?


「……ん?」

「どうしたの? クロちゃん……」


 黒百合は、きょとんとする。心配げに後ろからディアナが声をかけてくるが、今はそれどころではない。


《――PCエレイン・ロセッティはブラックボックス:()()()()を得た》


「……呪詛、じゃない?」

『……? いや、それはそうだが』

「え? ブラックボックスって呪われたアイテムじゃ――」

『そんなことは一切ないが?』


 ……“百獣王・影”の言葉に、一切の嘘は感じなかった。思わず“妖獣王の黒面”に意識を向けると、ササっと少し後頭部側へ移動した……気がした。


(こ、こいつ……!? え? もしかして妖獣王のだけ!? これ、『外れ』なん!? ふっざけろよ、あの激重女狐えぇえええええええぇ!!)


「わ、すっごい綺麗!」


 思わず脱力してその場でふて寝したくなっていた黒百合は、いつの間にか普通にブラックボックスを開けて黄金獅子の顔を形どったガントレッドを右腕にはめるエレインを見た。


「……本当にいいの?」

『良い。申し訳なく思うならば、いつの日かそれを使いこなし我と戦ってくれればそれで充分』


 笑みと共に後退した“百獣王・影”は、その場で身をひるがえした。


『さらば、武運を祈る』


 そして、黄金の獅子は風のようにその場から走り去った。三つの“影”が、()()が去ったのを確かめると黒百合がその場で大の字に倒れる。


「わわ、クロちゃん!?」

「もう、やだ……」


 色んなことがありすぎた、ディアナに抱き止められた黒百合は今度こそ意識を手放した。遠くに白百合やエレインの焦った声も聞こえた気がするが……今は、とにかく休みたかった。


   †  †  †

某女怪「ひゅーひゅひゅー(ヘタクソな口笛)」


そういうとこやぞ!


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[一言] そういう事素でやるから3000年も独身だし嫌われるんやで・・・;
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