第85話 とりあえずお泊まり
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ニャルクさんがギルド職員に聞いてくれたら、やっぱりここはトールレン町だった。今は仕事が終わって、宿直組以外が退勤しようとしていたところだったらしい。そこにギルマスの部屋から物音がしたから見に来たんだとか。いやぁ、申し訳なし。
「ニャオさん、事情を説明したら、特別に町に入る許可をいただけました。セイライ達も問題ありません。ただ、騒ぎだけは起こさにゃいでほしい、と」
「ええ、もちろんです。ありがとうございます」
頭を下げて感謝を示せば、トールレン町の斧のギルマスはなんとも言えない顔で笑った。
「ほれニャオ、お前さんのじゃよ」
そう言ってイニャトさんが差し出してきたのは私のマジックバッグだった。そういや2人が放り出されてきた時一緒に飛んできたな。というか……。
「ありがとうございますイニャトさん。……で、首に下げてるのは?」
「おお、キヨじゃよ」
めっちゃ見覚えのある竹筒だと思ったらやっぱりかーい。一回り大きい竹で蓋を作っといてよかった。これがなかったら水溜まりができてるとこだよ。
蓋には空気穴を開けてあるから酸素には困らないはず。パカッと開けて中を見れば、うにょうにょと動く清ちゃんがいた。
「ごめんなぁ、怖かったやろう? もうちょっと我慢してな」
そう声をかけたら、清ちゃんはにゅるりと頭を出してきた。指の腹で撫でればちゅうちゅう吸いついてくる。かわええ、とにこにこしてたら周りがざわつき始めた。
『✕、△▽□、○□△?』
「おお、こやつはキヨという。儂らの家族じゃよ」
『▽☓?!』
『▽☓?!』
『▽☓?!』
「にゃんじゃあその顔。言っとくが、こやつが魔物じゃからといってけにゃしたり、苛めたりしたら許さんぞ」
「グルルルルゥ」
「いじめちゃだめー」
「だめだよー」
「バウジオ、唸ってはいけませんよ。セイライもシキも、やめてください。彼らはギルド職員にゃんですから、悪いことはしませんって」
清ちゃんを守るように、私とギルド職員達の間にみんなが立った。ありがとうニャルクさん、イニャトさんにバウジオ。仔どもらもいい仔に育って……。私ゃ嬉しいよ。
……穴潜り?
「イニャトさん、宿を探しましょう」
清ちゃんを竹筒に戻して蓋をしてからそう言えば、みんなが不思議そうな顔で見上げてきた。
「む? どうした急に」
「そう急がにゃくても、宿はいくつかあるでしょうから見つけるのは難しくにゃいと思いますよ?」
「いいから行きましょう。あと清ちゃんは穴潜りじゃなくて神の繭です。そう呼んでください」
「え? ですが前は穴潜りと……」
「か、み、の、ま、ゆ、です!」
「……はい」
「わかったぞ……」
強めに言えば2人とも頷いてくれた。穴潜りなんて紹介したら知ってる人はそりゃギョッとするよね。私なんか大人の玩具に名前つけて連れて歩いてる人になっちゃうもんね。最悪だよそんなの。
「斧のギルマス、この近くに宿はありますか? 仔ドラゴン達も部屋に入れるところがいいんですが」
『○△、□□◎▽』
「いや、こやつらも一緒でにゃくてはにゃらん。獣舎には預けられん」
「そうですよ。まだ赤ん坊にゃんですから」
「いっしょがいいー」
「あたしもー」
『✕……。□、△◎□?』
「お、それでいいにゃらそうしてもらおう。どうじゃ? ニャルクよ」
「僕も大丈夫です。むしろその方が安心ですので」
話がついたかな?
「ニャオさん、斧のギルマスがギルドにある仮眠室を貸してくれるそうです。あそこにゃらセイライ達がいてもいいそうです」
「赤ん坊とはいえ、ドラゴンを部屋に入れていいと言うてくれる宿はそうそうにゃかろうなぁ……」
「よかった、何から何までありがとうございます」
ギルド側からしたら、私達みたいなのは目の届くところに置いときたいっていうのが本音だろうね。まあいいや、こっちとしては好都合。
ギルマスの指示で1人のギルド職員が部屋まで案内してくれた。上階にある部屋にはベッドが2つ置いてあって、なんと風呂つきだ。
異世界物の小説だと風呂は高級品みたいな描写が多いけど、ここはそうでもないのかな? 風呂好きの異世界人の影響かもしれないけど。
「では、しばらくこのお部屋を使わせていただきます。お金は払いますので、いくらににゃるか後で教えてください」
『✕✕、○□△』
「んにゃんにゃ、ちゃんと払うぞ。斧のギルマスに伝えとっておくれ」
『▽……、□○□』
「うむ。世話ににゃるの。ではおやすみじゃ」
パタン、扉が閉まる。長く息を吐きながらベッドに腰かけた。
「全く、漣華さんにも困ったもんですねぇ」
「本当ですねぇ。受け入れてもらえたからよかったものの、下手をすれば今頃地下牢ですよ。不法侵入で」
「ちかろーってなにー?」
「悪い奴を捕まえておくところじゃよ。床は固いし冷たいし、飯も不味けりゃ」
「やだー、いきたくなーいー」
「そうやなぁ。私も行きたくないわぁ。やからお前達、町の中じゃあいい仔にするんで?」
「「はーい」」
はいいい返事。でも返事がいいだけじゃ駄目だからね? そこんとこわかってる?
「で、明日からどうするんじゃ?」
私が座ってるベッドに乗りながらイニャトさんが聞いてきた。私もごろんと仰向けに寝転ぶ。
「とりあえず、斧のギルマスに町に出る許可をもらって、ダッドさんの妹さんがいる牧場に行きましょう。ヴァラカン牧場でしたっけ? あとは実際被害に遭ったところにも行きたいですね。どんな魔物の痕跡があったのか聞きたいです」
「そうじゃのう。ではお前さんらは朝食を食べておくといい。その間に儂が商人ギルドに顔を出しがてら被害に遭った牧場の名前と場所を聞いてくるわい。ヴァラカン牧場の場所も確認せねばの」
「僕は斧のギルマスに外出許可をもらって、地図も買ってきますね」
「私はどうしましょう? どっちかについていきましょうか?」
そう聞けば、兄弟猫に心底不思議そうな顔をされた。
「何を言う? お前さんは仔守りじゃろ?」
「朝ご飯食べにゃがら待っててください。バウジオもついててくださいね」
「ばっほい!」
はい、仔守りします。やらせていただきます。
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お風呂は少し小さめだった。まあ仮眠室につけるには丁度いいくらいの大きさって感じ。髪を拭きながら部屋に戻るとみんな同じベッドで団子になって寝てた。そりゃ疲れるよね。つか寝苦しそう。
風呂から拝借した水を入れた木桶をベッド横のテーブルに置いて、清ちゃんを出す。狭いところが好きとはいえ、ずっと竹筒に詰められてたら辛いと思うんだ。
紐を外した竹筒も木桶に入れれば、くねくねしてた清ちゃんはすっぽり収まった。だけど体の3分の1は出したまま。うん、のんびりできてるね。たぶん。
明かりを消して、空いているベッドに入る。大丈夫だとは思うけど、念の為“バンパイアシーフの短剣”は出しておこう。この方が安心する。
翌朝、1人で寝たはずなのになぜかみんなこっちのベッドに来てた。饅頭の餡になった気分。目覚ましは紫輝の尻尾による顔面ビッタン。物理攻撃してくる目覚まし時計なんて二度とごめんだ。




