第84話 拒否権はいずこ?
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「ヴァラカン牧場?」
夕飯時、口に入れた物を飲み込んでから、ニャルクさんの言葉を繰り返した。
「はい。トールレンという町にある牧場にゃんですけど、そこにダッドさんの妹さんが嫁いだそうで、今困ったことににゃってるって手紙が来たらしいんです」
「納品に行ったら何やら浮かん顔をしておったから聞いてみれば、妹の住む町に正体のわからん魔物が現れるようににゃって、家畜がたくさん殺されておるようじゃ」
「トールレン町は畜産に力を入れている町で、その分牧場も多いんです。今のところ妹さんのいる牧場は大丈夫みたいですが、いつ被害を受けるかわからにゃくて怖い、と書かれていたそうです」
正体不明の魔物……、そりゃ怖いな。
「で、長生きしておるフクマル殿とレンゲ殿に、何か心当たりがにゃいか聞いてみてほしい、と頼まれたんじゃよ」
「そうでしたか」
私達が座るテーブルの隣に座って林檎を齧っていた福丸さんがこっちを見た。その向こうではドラゴン一家と芒月が食事中。香梅さんは美影さんの尻尾に顎を預けてうとうとしてる。
「何か特徴は聞きましたか? 毛が残っていたとか、足跡の形とか」
「うーむ、その辺は手紙には書いてにゃかったようじゃ。ただただ怖いとしか」
「そんな手紙が家族から来たら心配ですよね……」
最後の一口を食べ終えて、空いた食器を重ねる。とっくに食べ終えてたバウジオのお皿も回収。シシュティさん達が慌ててかっこみ始めたから、ゆっくりでいいよーと言った。〈万能言語〉解いてるからアースレイさんにも伝わってないけど。
「さすがの妾達でも情報がなければわからん。わかりようがないわ」
漣華さんが桃の種をぷっと吐いた。飛んでいった先は置いといた木のバケツだ。前はその辺に捨ててたけど、芒月が誤飲しそうになってから禁止した。
「そうですよねぇ。ですが、手紙で聞こうにもトールレン町は遠方だから、届くのにも最低10日はかかります。返事ともにゃればその倍。やり取りしている間に牧場が被害に遭うかもしれません」
そんなに遠いのか。兄妹で会えないのは寂しいね。
「何を言っておる。わざわざ手紙なんぞ書く必要はなかろう」
ん? どゆこと?
「ニャルクよ。そなた、マジックリュックには何が入っておる?」
「え? えーっと、今日の売り上げはまだ出してませんし、林檎もいくつか入っています。あと、毛布が何枚かほつれてたんで、補修用の糸も」
「よいよい。充分じゃ」
頷いた漣華さんは魔法陣を描き上げた。長い首が伸びてきて、襟首を噛まれる。なんで?
「ほれ、行ってこい」
「は? いやいやいや、行ってこいって? ちょっと? 漣華さん?? 待って待って、待ってぇぇぇぇ?!」
ぶらりと持ち上げられて、魔法陣に放り込まれる。最後に見えたのは、ぽかんと口を開けるみんなと尻尾を振るバウジオだった。
▷▷▷▷▷▷
ベタンッ! と顔面から落ちた。木の床だ。土じゃなかっただけマシか……。起き上がって鼻を触ったけど、たぶん折れてない。
ランプの薄明かりが照らす室内を見回せば、斧のギルマスの部屋に似てた。だけど家具の配置とか、壁にかけてある町の地図が違う。別の町の地図だな。だとすると……。
「ここ、トールレン町?」
立ち上がって、乱れた服を整える。紋様はまだ光ってるから、通れば戻れるな。そう思ってたらバウジオが飛び出てきた。
「ばっふばっふ!」
「ついてきてくれたん? ありがとうな」
お座りするバウジオの頭を撫でる。コツコツと足音が聞こえてきて、バタンと扉が開いた。
廊下が明るいせいで、入ってきた人の顔が逆光で見えない。男の人ってことだけわかる。人影が部屋の壁を触ると、ランプの明かりが増した。
『✕✕✕! □✕▽!?』
男の人が大声を上げると、バタバタと走ってくる音がして、ギルド職員の服を着た人達が入ってきた。滅茶苦茶警戒されてる。さてどうしたもんか。とりあえず両手を上げておこう。
「あ、あのー、私達決して怪しい者ではなくてですね、えっとー、……どうしようか?」
「くぅ~ん」
横目で聞いてみたら、バウジオに困ったような顔をされた。ごめんて。
『△、△□○、✕✕▽?!』
『○✕!?』
ギルド職員の1人が最初に入ってきた男の人、たぶんこの町の斧のギルマスに何か言うと、驚愕って感じに驚かれた。何事? ……あ、このポーズ掌紋丸見えだ。フードもないし。
「帰ろうバウジオ。ここにおったらお仕事の邪魔だ」
「ばっふ!」
「お邪魔しちゃってすみません、すぐ帰りますんで。ほらバウジオ、魔法陣くぐって」
「「にゃああああああああああああああ!!」」
「うぐはっ!」
ぺこぺこ頭を下げながら魔法陣に入ろうとしたら、ニャルクさんとイニャトさんが放り出されてきた。直撃されて尻餅をつく。
「は! ここはどこじゃ? 儂らはどこにおるんじゃ??」
「ここはおそらくトールレン町、あなた達がいるのは私の膝の上ですよ……」
「ぅにゃ?! ニャオ!」
「ニャオさん! バウジオも?!」
2人にどいてもらって体を起こす。落とさなくてよかった。尻が痛い。
「すみません、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ニャルクさん達も漣華さんに?」
「そうじゃ。まとめて咥えられたと思ったらぽーいじゃよ。アースレイ達が慌てておった」
「ミカゲさん達も驚いてましたね」
そんな話をしてたら魔法陣から青蕾と紫輝が飛び出してきた。ギルド職員達が悲鳴を上げる。
「あー、ニャオたちここにいたー」
「おでかけするのー? あたしもいくー」
「いやいや、お出かけせんよ。もう帰るから、あ、あ、ああーー……」
仔ドラゴン達を抱え上げた瞬間、魔法陣は消えてしまった。
え? なんなの? どうすりゃいいのよ私達?




