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第71話 帰宅

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

明日は閑話を挟む予定です。

「ママ!」


 駆け寄った緑織に、さっきまでとは全く違う穏やかな顔で、美影さんは頬擦りした。


「無事でよかった。怖くなかった?」

「だいじょーぶだよー。あたしねー、ニャオとキャンプしたんだよー。たのしかったからママもこんどキャンプしよーねー」

「うん、しようね」


 大事にならなくてよかった。緑織が怪我なんかしてたら合わせる顔がないよ。

 緑織を背中に乗せた美影さんが近づいてきたから、私からも歩み寄る。下げてきた鼻先にこつんと額を当てた。


「すみません美影さん。緑織を巻き込んでしまって……」

「いいの。一緒にいたのがニャオでよかった。ありがとう」


 お礼されることなんかしてないのになぁ。ほんとに申し訳ない。あ、そうだ。


「美影さん、あそこにいるのが冒険者のアースレイさんとシシュティさん。グリンブルスティが香梅さんで、この仔がネメアン・ライオンの赤ちゃんです」

「みゃう」


 順番に紹介すれば、仔ライオンが元気に挨拶した。抱っこしたままのイニャトさんが強張る。


「ネ、ネメアン・ライオンじゃと? そう言うたか?」

「ええ、私が育てることになりました。ほらおチビ、イニャトお兄ちゃんに挨拶して?」

「ま、待てニャオ、ネメアン・ライオンはSランクの魔物でんむうっ」

「みゃうぅ」


 イニャトさんが口を挟む前に、仔ライオンが顔面を舐め回し始めた。よーしその調子だ、有耶無耶にしてやれ。


「その仔、強い魔物。親は?」

「バジリスクと戦って死んでしまったんです。独りぼっちなんですよ」


 美影さんが覗き込んでくる。緑織が美影さんの頭に飛び乗った。


「ママー、このこおともだちだよー。いっしょにおうちかえるのー」

「そう。帰ろうね。シキ達にも会わせようね」

「うん! みんなであそぶー!」


 キャッキャッと緑織が笑った。イニャトさんは新しい髪型になってる。モヒカンだ。


「と、いうわけなんで、連れて帰ります」

「……好きにせい。もう驚くのも疲れたわい」


 うっしゃ、勝った。

 私から下りて顔を拭いたイニャトさんが改めてアースレイさん達と自己紹介していたら、すぐ近くに魔法陣が浮かび上がった。のそり、と漣華さんが首を出す。ニャルクさんが飛び出してきた。


「イニャト! ニャオさん達は?!」

「ここでーす」


 手を上げれば、ニャルクさんがほっとした表情を浮かべた。仔ライオンを下ろす。


「よかった、ニャオさん……。ミオリも無事ですね? ずっと捜してたんですよ?」

「心配かけてすみません。でもゴミの中にはさすがに入らないです」

「は? ゴミ? ……イニャト! ばらしましたね?! て、にゃんですその仔?」

「儂らの弟じゃよ~」

「弟? え、どう見てもライオン……」

「ほらおチビ、もう1人のお兄ちゃんに挨拶しといで」

「みゃう!」

「え? ちょ、待ってんむうっ!」


 あれま、押し倒されちゃった。まあニャルクさんの方がイニャトさんより小柄だし、力じゃ負けるだろうね。猫とライオンだもんね。


「ニャオ」


 魔法陣から出てきた漣華さんに鼻で小突かれた。痛くはない。


「怪我はないか?」

「はい、大丈夫です」

「そうか。無事で何よりじゃ」


 漣華さんの目が細くなった。めっちゃ安堵してらっしゃる。


「迷惑かけてすみません」

「水神の意思ならば仕方がない。じゃが、己れから無茶はせんようにな」

「はい」


 下がってきた漣華さんの頭を抱き締めて、眉間部分に顔を埋めた。たてがみは見た目以上に柔らかい。


「して、そなたらがペリアッド町の斧のギルマスが言っておった冒険者じゃな?」


 漣華さんが目だけをアースレイさん達に向けた。兎人姉弟が固まる。


「フクマル。こやつらをどうする?」

「一度森へ連れて帰ります。後日町に行けばいいかと」

「ふむ。では帰ろう」


 消えていた魔法陣がまた浮かんだ。モヒカンのままのイニャトさんと、ぺっちょり濡れたニャルクさんが仔ライオンを連れて魔法陣をくぐって、香梅さんがついていった。


「ほら、行きましょう」


 そうアースレイさん達に声をかけたけど、根っこが生えたみたいに動かなかったから手を掴んで引っ張った。一緒に魔法陣をくぐれば、物置木のすぐ近くに出た。


「ばっふばっふ!」

「あー! ニャオだー!」

「ニャオおかえりー!」

「どこいってたのー?」

「ママたちさがしてたよー?」

「おみやげはー?」

「ミオリはー?」


 仔ライオンと香梅さんのにおいを嗅いでいたバウジオと仔ドラゴン達が一斉に取り囲んでくる。落ち着けお前達。


「帰ってこれんでごめんなぁ。ちょっと違う森に行っとったみたい。ママ達にもちゃんと会えたよ。お土産はないけどお友達いっぱい連れてきたけな。緑織はママと一緒におるよ」


 ヒュンヒュンと鳴き声を上げるバウジオを撫で回しながら仔ドラゴン達に答える。アースレイさんはその勢いに押されてたけど、シシュティさんは興奮した様子で鼻をヒクヒクさせていた。


「アースレイさん、シシュティさん、この仔らが美影さんが生んだ仔ドラゴン達です。名前は、まあゆっくり覚えてもらうとして……」


 えーっと、どの仔にしようかな。赤嶺はちょっと荒っぽいし、青蕾は臆病だからいきなりだと怖がるかも。じゃあ……。よし、こやつじゃ。


「はい、シシュティさん」


 黄菜を抱き上げてシシュティさんに差し出した。


「この仔が黄菜。き、い、な」

『キ、ィナ?』


 おお、上手い上手い。

 躊躇いはしたけど、シシュティさんは黄菜を受け取ってくれた。黄菜がシシュティさんに頬擦りすると、真ん丸い目がとろんと溶けた。


『~~~~◎◎◎!!』

「姉さん、そんなに叫ばないでくれないか? うるさいよ」

「はい、アースレイさんにはこの仔」

「え?」


 間を空けずに藍里を差し出せば、戸惑いながら頭を撫でてくる。藍里は嬉しそうに目を細めて喉を鳴らした。


「……抱いてみてもいいかい?」

「どーぞどーぞ」


 恐る恐る、アースレイさんが藍里を腕に抱くと、藍里は特等席ゲット! みたいな顔でアースレイさんの胸に顎を預けた。


「藍里っていうんですよ」

「ランリ……。ドラゴンの幼体ってこんなに可愛いんだ」


 そりゃあうちの仔ですもの。当然です。

 その後、少し時間を置いて帰ってきた漣華さんと福丸さんにちょびっとお叱りを受けた。それだけ心配してくれてたんだもんね。

 美影さんが連れて帰った緑織がきょうだい達との再会を喜んだのを見届けてから、兎人姉弟をのん木に案内して、私達が使ってるハンモックを寝やすいよう手直ししてもらってる間に夕食作りに取りかかった。作り置いといた燻製のサンドイッチとか、町で買った食材のスープとか、果実のシロップ漬けのデザートとか、ほんとに簡単な物。

 アースレイさん達を呼ぶと、目をキラキラさせて食べてくれた。嬉しかったから私の分もお裾分け。朝食用も下準備しといたけど、全部なくなった。やったぜ。

 今日はもう収穫なんてできない。だけど寝る前にお風呂に入りたいな。準備しとこう。

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