第58話 いつの間に? ×2
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靴屋の品揃えはかなりよくて、値段も丁度いい物を見つけられた。ニャルクさん達は普段は裸足だけど、足場が悪いところを歩く時用にそれぞれ靴を持ってるらしくて、バウジオの分も買うことになった。
見本を試着させた時、最初は嫌がって脱ごうとしてたけど、私達3人と窓やら入り口やらから覗き込んでくる仔ドラゴン達とで褒めまくったら受け入れてくれた。ちょろい。
「では、ロニャンデラに行こうかの」
「はい。でも本当に夕方の納品でよかったんですか?」
レストラン・ロナンデラは町の門からギルドに続く大通りに面した目立つ場所にある。準備もあるだろうし、朝一に持っていかなくていいのか聞いたけど……。
「イルヒラ殿は2日前から隣町に買いつけに行っとるらしい。今ぐらいの時間にゃら帰るじゃろうから、最初の納品くらいは自分で受け取りたいと言っておった」
「僕達の都合が悪ければレストランの従業員に任せると言ってはくれたんですが、まあダッドさんのところにも卸すだけにゃんで、それでいいってことににゃったんです」
オーナーとしての責任みたいなもんがあるんかね? まあそれでいいならなんにも言わないけど。
「じゃから、次回からの納品は可能であれば午前中に卸してほしいとも言っておった。お前さんはどうじゃ? ニャオよ」
「私はいいですよ。あ、ダッドさん達に言っておけばよかったですね」
「それにゃら大丈夫です。もう伝えてますから」
え? いつの間に?
「ほれ、お前さんがソファーで伸びておった時じゃ」
「ああ、なるほど……」
記憶にないわけだよ。
ふと掲示板が目に入った。確か町の中に3つ置かれてるんだよね。読めないから見る意味ないけど、貼り出されてる写真、私達でない? 遠目だからはっきり見えないけど、あの7色はうちの仔らでしょ。
「あーっと、ニャルクさん、イニャトさん。見間違いじゃなければ、あそこの掲示板に私達の写真が載ってません?」
「ん? どれどれ……。おおう、載っておるわい」
やっぱりか。というかこの世界、カメラあるんだね。
「なんて書いてあるんです?」
「えーっと……。〈水神の掌紋〉保有者、ドラゴンでペリアッド町を大暴走、ですね……」
あれかーい。
▷▷▷▷▷▷
レストラン・ロナンデラは朝から開店していて、日が暮れかけたこの時間には夕食を食べようとたくさんの人が訪れていた。
イニャトさんが入り口でお客さんを出迎えていた男性従業員に声をかけると、従業員はお辞儀をしてお店の奥に入っていった。そして5分もしない内に、イルヒラさんが満面の笑みを浮かべて小走りで駆けてきた。
『◎○◎、◎△~』
あらあらいらっしゃい、ありがとうね~、とでも言ってそうな顔だ。
イルヒラさんに案内されて、レストランの外側から裏手に回る。裏口から中に入ると廊下があって、4枚ある扉の1枚に入るよう促された。
扉の中はすぐ階段になっていて、地下に繋がっている。下りていくと、広い部屋に行き着いた。
「立派な保管室ですねぇ」
「うむ、ハノア農園よりも広いのう」
これが保管室か。確かにひんやり涼しい。
「じゃ、卸しましょうかね」
福丸さんから預かっていたマジックバッグを下ろして、葡萄を取り出していく。イルヒラさんが呼んだ従業員達に手渡せば、手際よく棚に並べていった。
20分ほどで作業を終えて、イルヒラさんの部屋に案内される。お金の受け取りだ。
『◎○◎○、△△◎〜♪』
イルヒラさんが持ってきたお金をイニャトさんの目の前に置く。ニャルクさんがマジックバッグから、2枚の皿とその他の道具を取り出してイニャトさんに手渡せば、イニャトさんはそれを手際よく組み立てた。
「では、確認させてもらうぞ」
組み立てられたのは天秤だった。イニャトさんが片方の皿に1万エル札を1枚、もう片方に残りのお札を置くと傾いて、土台部分に数字が浮かび上がった。
全部のお札をそうやって数えて、うむ、とイニャトさんは頷いた。
「では確かに、今回納品分の215万エル確認したでの。来週はどうする?」
『◎○、◎◎○』
「承知した。では同じ数用意しよう。ニャオ、構わんか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
私が頷けば、イルヒラさんはにっこり笑って両手を握ってきた。
レストラン・ロナンデラを出ると、数人の従業員が見送りに来てくれたけど、外に繋いでた仔ドラゴン達に驚いて固まってたよ。橙地と藍里がじゃれようとするもんだから抑えるのが大変だった。
イルヒラさんと従業員達に見送られて、大通りを門に向かって歩く。ダッドさん達のところは後払い方式をまだ使ってて、先週の卸値を渡されたから、今私は2000万エルを超えるお金をマジックバッグに入れている。
これ、引ったくりに遭ったらどうしよう……。早くお迎えの漣華さんと合流したい。
「どうした? 顔色が悪いぞ?」
「いやぁ、なんか大金持ってるから怖いなぁって……」
「ああ、それにゃら心配にゃいですよ」
青蕾に跨がっているニャルクさんが言った。
「実は、ニャオさんがお留守番してた時、にゃらず者に絡まれまして」
「ぇえ?! だ、大丈夫だったんですか?」
「それが、金が入ったニャルクのマジックバッグを男が盗ろうとしたんじゃが、はじかれたんじゃ」
ん? はじかれた?
「ほら、これ。ニャオさんが僕達にくれたでしょう?」
そう言ってニャルクさんは、私がフアト村でプレゼントした旅のお守りを持ち上げた。
「この宝石には魔力が込められていると教えましたよね? 魔力はしばらくするとにゃくにゃってしまうんですが、どうやらフクマルさん達が込め直してくれていたみたいで」
「その魔力がにゃらず者共をばちん! としたのじゃ」
なんとまあ、いつの間に。でもありがとうございます。助かりました。
「で、その直後レンゲ殿が現れてな」
え? 町に?
「おそらく、儂らに危険が及べば感じ取れるようにしておったんじゃろう。ほれ、ロスネルの術師に狙われた時、すぐに来てくれたじゃろう?」
「はい、確かに早かったですね。あれ、でもあの時迎えに来たら魔物がいたって言ってませんでした?」
「まあ、無断でやったことだから、素直に言えにゃかったんじゃにゃいですか?」
まあ、無断っちゃあ無断だね。
「ん? あれは?」
ニャルクさんがそう言って振り返った。私とイニャトさんもそっちを見れば、ギルド職員が声を上げながら走ってきてた。
私達を呼んでる?
「あ、あの人、前に私のフードを取った人ですね」
「そうじゃのう」
イニャトさんが不快そうに目を細める。何かを感じ取ったのか、紫輝が唸り声を上げた。
ギルド職員は私達の前で止まって、乱れた呼吸を整えた。
『○△✕、□○?』
「ニャオさん、斧のギルマスが呼んでるみたいです」
斧のギルマスが? なんの用だろう……。
「ニャオよ、お前さんはギルドに属しておらぬ故、拒むこともできるが?」
「いえ、行きましょう。早めに終わればいいけど……」
じぃっとギルド職員を睨む赤嶺の頭を撫でる。とりあえず、ギルドに向かいましょうかね。




