第56話 私の過ち
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見くびっていたわけじゃない。
どんなに仔どもでもドラゴンであることには変わりないし、生まれ持つ身体能力や魔力の高さは侮れないと理解してた。
いや、したつもりでいたんだ。
魔物なんかいない世界に生まれて、育った自分がその怖さを完全に理解するのは、正直難しいと思う。
どんなに懇々と説明されても、実際に味わってみないと体が覚えない。冒険者達みたいに、ユルクルクスとかベアディハングって聞いただけで身震いするような危機感が私にはない。
今になってはっきりわかった。私はこの世界を知らな過ぎる。この先生きていく為には、もっと貪欲に知っていかないといけない。
幸い学ぶ手段はたくさんある。ニャルクさんやイニャトさんは物知りだし、漣華さん、福丸さんは生き字引みたいなもんだから、いろんなことをいろんな方面から教えてくれるはず。
異世界から来た割には、私は恵まれてると思う。だからまずは手始めにーー
「止まってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ーー全力疾走する仔ドラゴン共を止める方法を教えてほしい。
え? 町に入る前に約束したはずだよね? たくさん人がいて危ないから走らないって約束したよね? 私の夢じゃないよね? なのになんで走るかなお前達は。
確かに成人してるけど、それなりに筋肉はある方だけど、だからってこんなに引き摺られるかな? 赤嶺と緑織と藍里と黄菜のリードを持ってるけど人間ごときがドラゴン様に逆らおうとするのが愚かなのかな? でもちょっとは気にして? 止めようと後ろに踏ん張ったが為にそのまま引き摺られて踵が削れていってる私の靴を気にして?
町の人達を見てごらんよ。目をひんむいてこっち見てるよ? 子どもが面白いものを見る目で私達を指差してるよ? 凄い笑顔だよ? 笑いもんだよ私達。
助けを求めて振り返ると、ニャルクさん達の姿が見えた。だけど私とは状況が全然違う。
バウジオには橙地のリードを預けてある。マジックバッグに結びつけてたから、並走しながらついてきてる。
青蕾のリードはニャルクさんに、紫輝のリードはイニャトさんに預けたけど、2人共それを手綱にして仔ドラゴン達に跨がって颯爽と走ってきてた。
なんなのこの差。こっちは土煙上げながら引き摺られてるってのに?
右、左って叫べばそっちに向かって曲がってくれるからハノア農園には近づいてはいる。近づいてはいるけど、このまま突進する気じゃないよね? ちゃんと止まってくれるよね?
速度が緩まることがないまま5分間引き摺られ続けて、ついにハノア農園が見えてきた。わお早い。
果樹が植えてあるエリアにダッドさんとメルク君がいる。フォークを使って刈った草を集めてる。
仔ドラゴン達の足音と私の悲鳴が聞こえたみたいで、2人は顔を上げて目を真ん丸に見開いた。そしてダッドさんがメルク君を抱え上げて家に避難する。うん、正解。
「ゴールだから! ここゴールだから止まれぇぇぇぇ!」
喉が裂けんばかりの大声で叫べば、赤嶺がわかったー、と返事をした。直後、ほぼ直角に曲がられた。私はもちろん曲がれない。
「おっふ……」
体が浮く。世界が反転する。手からリードがすっぽ抜ける。
その後は、派手な音がしたことだけ覚えてる。
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「いや~、突っ込んだのが草の山でよかったわい」
「壁にぶつかってたら大怪我ですよ」
「まあ農具を吹き飛ばしはしたがのう」
「刺さらにゃくてよかったです」
「ばっふぅ」
氷嚢みたいな物を持ってきてくれたラミラさんにお礼を言って受け取って、額に当てる。シャクシャクとスイカを食べるイニャトさんをじろりと睨んだ。
「それ、マイス君達に持ってきたやつですよ」
「にゃあに、問題にゃい。見てみよ」
イニャトさんが前足で指した先を見ると、五つ子とダッドさんが瞳を輝かせてスイカを食べていた。足元に群がる仔ドラゴンは、ステアちゃんとナーヤちゃんに分けてもらってる。こっちはソファーから起き上がれないっていうのに。
「馴染んじゃってまぁ……」
「マイスらの年の頃にゃら、ドラゴンには多少の憧れを持つ者もおるからのう」
ゆっくり体を起こそうとすると、ニャルクさんに止められた。あばら骨が痛い。
「ニャオさん、果実は僕達で保管室に入れておきますから、もう少し休んでてください」
「いやぁ、でも……」
「寝ておけ寝ておけ。ニャオよ、忘れとるんかもしれんが、帰りもあるんじゃぞ?」
ああ、そうだった……。
確かイニャトさん、買い物したいって言ってたもんね。お店をいくつ回るかわからないけど、仔ドラゴン達には次また走ったら今晩のスイカなしって言っておこう。
「それに、靴も買わねばにゃらんのう。それはもう使えまい」
「ええ。もう少しで穴が開くところでしたよ」
マジで? 肉削れる寸前だったってこと? こっわ……。
「ついでに、マジックバッグも新調せんか? お前さんの持つそれ、ドレイファガスから渡されたもんじゃろ?」
「ええ、そうですけど……」
「ダッドさんにいいお店を教えてもらったんです。後で行ってみましょう。この際“乾き知らず”も新しい物にしましょうか」
「“乾き知らず”?」
「ニャオさんが持ってる竹筒ですよ。便利ですけど、正直誰が使ったかわからにゃいですし。もういっそ、短剣以外のドレイファガスに関する物は捨てちゃいましょう。今後関わらにゃいよう願かけして」
ああ、そういうことね。そうしましょうそうしましょう。
……なーんか嫌な想像しかけたけど、うん、考えるのやめとこう。




