第52話 やってやろうじゃん
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雨が降り始めた。
スキルで詠んでも天気は外れるんだなぁ、と漣華さんにしがみつきながら思ったけど、向こう側の山に日が当たっていることに気づいて局地的なものだとわかった。
雨の中心地は、たぶん洞窟。
ブラックドラゴンが降らせているのか、はたまた他の何者かの意思なのかはわからないけど、急がないといけないことだけは確かだ。
最初はユニークスキルを使って移動するはずだったけど、洞窟の近くで結界魔法を使ってる一団がいるみたいで、飛んでいくことになった。漣華さん曰く、下手をしたら結界魔法を壊しかねないらしい。
雨粒を痛く感じるほどの速度で飛ぶことわずか10分。岩壁にぽっかり開いた洞窟と、その周りを囲む人間の集団が見えた。
「あの紋章、カリュー隊じゃな」
人間達の背中に描かれた紋章を見て、漣華さんが言った。
もう少しで辿り着く、というところで、洞窟の中からブラックドラゴンが這い出てきた。
怒りに満ちた咆哮がここまで聞こえてくる。カリュー隊は魔法で応戦するけど、ドラゴンブレスに尽く掻き消されてしまっている。
「妾なら仕留められるが、どうする?」
そう言って振り返った漣華さんに、首を横に振った。
「殺したら駄目です。こっちに意識を向けさせてください」
それだけで充分。たぶんだけど。
ふむ、と少し考えるような顔をして、漣華さんは吠えた。
「ほぉーーーーーーーーーおおおおおおおおん」
激しい雨音と、ドラゴンの咆哮よりも心臓に響く龍の啼き声に、全員がこっちを見た。
「ゴアアアアアァァァァァァァッ!」
ブラックドラゴンが威嚇してくる。地面に舞い降りた漣華さんは、全く意に介さない様子で私を振り返った。
「さて、どうする?」
「ちょっと行ってきますわ」
漣華さんから飛び降りて、人垣を抜けてブラックドラゴンに向かって走る。数人が止めようと手を伸ばしてきたけど、不思議と捕まることはなかった。
牙を剥いて唸り声を上げるブラックドラゴンの正面に立つ。漣華さんより一回り小さいけど、敵意剥き出しな分大きく見える。
ブラックドラゴンが口を開けた。ドラゴンブレスを放とうとしているのがわかる。後ろからカリュー隊の焦った声が聞こえるけど、恐怖は感じなかった。
「しょわねえよ。大丈夫大丈夫」
つい方言が出てしまったから、すぐに言い直す。
「怖かったなぁ。でも大丈夫だから。落ち着いてな」
刺激しないように、ゆっくり両手をブラックドラゴンに差し伸べる。牙は剥き出されたままだ。
「この人達は何もしないから。私とあのドラゴンが約束する。お前にも、お前のママにも」
ブラックドラゴンの目尻がわずかに下がった。
「ほら、おいで」
にっこり笑ってみたら、ブラックドラゴンは頭を下げて、両掌に頬を擦りつけてきた。
「クルルルルルルゥ」
ブラックドラゴンが目を細めて喉を鳴らす。
ありがとぉ
「どういたしまして」
お腹にいる仔に伝わるように、ママドラゴンの鼻先にこつんと額を当てた。
雨は上がった。
▷▷▷▷▷▷
「まさか卵持ちじゃったとはのう」
晴れた空を帰りながら、漣華さんがしみじみと言った。
「しかし、なぜわかったのじゃ? ドラゴンである妾も気づかんかったというのに」
「うーん……。気を失ってる時に、ブラックドラゴンが洞窟にいる映像が見えて、声も聞こえたんです。子どもっぽい声だったし、もしかしたらって思ったんですよ」
要するに勘だね。
「ふむ。まあよかろう。しかし……」
なんとも言えない表情で、漣華さんはちらりと振り返った。
「あれはどうするつもりじゃ?」
同じようにちらっと後ろを見て、あはは、と笑った。
背後の空にはブラックドラゴンがいる。鼻をふすんふすん鳴らしながらついてきてる。目がきらっきらしてら。
カリュー隊の隊長に漣華さんが確認したところ、冒険者パーティーの昇格試験の為に用意されたブラックドラゴンだったらしい。本来なら口出しできることじゃないんだろうけど、赤ん坊がいるってわかった以上見過ごすのは気が引けた。
だから、ブラックドラゴンも生まれてくる赤ん坊も面倒見るって言っちゃったんだよねぇ~。はあ、どうしよう。
「ニャルク達にはどう説明するつもりじゃ?」
「う……。それは……」
「言葉が通じる妾にもまだ怯えるというのに、言葉の通じぬブラックドラゴンを連れ帰ればどうなるかわからぬほどそなたは愚かではあるまい」
「まあ……、はい」
「それに、ドラゴンは一度に4、5個の卵を産む。そなた、それら全ての世話をするのか?」
「え? そんなに産むの?」
1個じゃないの? 聞こえてきた声は1つだったのに?
「はあ……。まあ、言ってしまったものはしょうがなかろう。せいぜい頑張れ」
「あーもう、やりますよやってやりますよ!」
立派に育ててみせますっての! 吠え面かかせてやるんだから!
……まあその前に福丸さんにこの卵持ちドラゴンを森に入れていいか聞かないとね。




